小出恵介、主演舞台で老後を考える「心の準備に」 結婚後の変化や二拠点生活も語る
●演技の楽しさを改めて実感「作り上げていく過程も楽しい」
2020年に日本での芸能活動を再開し、アメリカでの演技の勉強も活かして真摯に作品作りに向き合っている俳優の小出恵介。6月21日~25日には、東京の座・高円寺1で上演されるチーズtheater 第7回本公演『ある風景』で主演を務める。小出にインタビューし、孤独死をテーマにした本作で感じたことや今の俳優業への思い、そしてアメリカ・ニューヨークとの二拠点生活、結婚後の変化など話を聞いた。
同舞台は戸田彬弘作・演出で、母を孤独死させてしまった子供たちとその家族を描く。鈴木家の母・陽子は夫・龍雄と地方で暮らしていたが、認知症を発症した龍雄が他界。その1年後の2019年お盆に、それぞれバラバラの地域で暮らしている長男・肇、長女・南、次女・夏が久しぶりに帰省するが、時は流れ2023年冬、陽子が1人自宅の風呂場で孤独死しているのをご近所の近藤が発見する。小出は長男・肇を演じ、孤独死した母・陽子役を読売演劇大賞優秀女優賞受賞のみやなおこが務める。
――本作のオファーを受けたときの心境からお聞かせください。
昨年お話をいただき、今年の頭にチーズtheaterさんのお芝居を拝見したときに、僕が今まで見てなかったような新しい演出や世界観に興味を持ち、参加してみたいと思いました。
――孤独死がテーマの作品ですが、その題材についてはどう感じていますか?
コロナ禍における孤独死というのは今の時代の新しい問題で、扱うのが難しいセンシティブな題材だと思いました。僕が演じる肇は3兄妹の長男で、母親の孤独死をどう受け止めるかという役柄なのですが、自分にその経験がないので難しさもあるなと感じました。
――稽古している中で学びや気づきなどありましたら教えてください。
今の日本の社会的な背景がリアルに描かれているので、僕も演じながら今の日本について学んでいる気がします。人との会話や距離感など、今ってこうだよなと感じるところが多いです。
――ご自身に当てはめて孤独死について考えることはありますか?
自分のことを考えて孤独死は嫌だなと思いました。自分は子供と離れ離れにならず、そばにいて看取ってもらいたいなと。
人生100年時代と言われ寿命が延びていく中で、最期をどう迎えるかというのも変わっていくのかなと思ったり、いろいろ考えました。この作品ではお父さんが65歳で認知症になるのですが、僕の父も65歳なので、いつそういうことになってもおかしくない年齢なんだなと思いました。
――今回の作品で老後について考えることで、少しは心の準備ができるものでしょうか。
それはあると思います。これまであまり考えたことがなかったですが、作品を通して考えるようになり、心の準備になるのかなと。
――2020年に日本での活動を再開されてから、いろいろな作品に出演されていますが、俳優業に対して今どのような思いでしょうか?
改めて演技の楽しさを感じていますし、演じることが向いていると感じることも出てきました。
――どのようなときに演じるのが向いていると感じましたか?
またいろいろと作品をやらせていただく中で、役についてこの人間はどんな人だろうと考えたり、作品で描く社会について思いを馳せることが好きで、作品や役柄を通じて社会にコミットしていくことも好きだなと感じています。一個一個の作品が文化財のような、そんな感覚もあって、作り上げていく過程もすごく楽しいです。
●二拠点生活継続中も「基本は日本にいます」 結婚で安心感
――日本とニューヨークの二拠点生活についてもお話を聞かせてください。行き来するペースなど、どんな生活を送られているのでしょうか。
今は基本的に日本にいます。
――この舞台の稽古や本番があるから今は日本に?
それもありますが、ほぼ日本にいます。皆さん僕のことを日本にいない人だと思っているみたいでちょっと寂しいなと思っているんです(笑)
――ニューヨーク在住の方とご結婚されたということもあって、基本的にニューヨークで結婚生活を送られているのだと思っていました。結婚報告のときの写真もニューヨークで撮影されたものでしたし。
確かにニューヨークでジャンプしている写真を載せたら、向こうで結婚したんだなと思いますよね(笑)。でも基本的に日本にいて、奥さんもちょこちょこ日本に来ています。
こっちで仕事がないときは向こうの家にいる時間もあるので二拠点生活ではありますが、友達も仕事関係の方も日本にいない人間だと思っているみたいで、日本にいるということをちゃんと伝えていこうと思っているところです。「僕は日本にいます!」と書いてくださいね(笑)
――いずれニューヨークの家をなくして、完璧に日本在住になる可能性もあるのでしょうか?
あります。子供ができたときにどっちで育てるのかという話になるのかもしれませんし、日本は子供を育てる上でいろんな意味で安全だなと思っています。
――今は基本的に日本にいらっしゃるということですが、海外生活を経験して変わったことがありましたら教えてください。
法律やルール、コミュニケーションの仕方など、同じ世界なのかなと思うぐらい日本と海外で違うように感じることがあり、いろんな国のいろんなタイプの人とコミュニケーションを取っていく中で、許容範囲が広くなった気がします。いろんなタイプの人がいて当たり前だよなと。そういう意味で強くなった気がします。
――日本で暮らすとしても、いろんな人を受け入れられるというのは大事ですよね。
大事な気がします。みんな価値観が違って当たり前と思うようになり、細かいことを気にしなくなりました。
――ご結婚後の変化もお聞かせください。
まだそんなに時間は経っていませんが、安心感は確かにあります。親を安心させてあげられたというのも大きいと思っていて、いい意味で親からの連絡が減りました。
――安心感は大事ですよね。
そうですね。プライベートの部分で自分の人生がどうなるんだろうという心配がなくなったので、より仕事に集中できるようになりましたし、気持ち的に楽になりました。
これからは人と一緒に生きていくので、より頑張らなきゃいけないという思いもあります。自分だけのためではないというのは新しい感覚で、頑張れそうだなと感じています。
●NYでペットシッターも犬と過ごす中で「愛情表現が豊かに」
――ニューヨークでペットシッターもされているという記事を読んだのですが、それは本当ですか?
本当です。ニューヨークで生活していて空いている時間があって、向こうはペットビジネスがすごく盛んなのでやってみようと思って始めました。そうしたらすごく楽しくて。
――もともと犬を飼っていたこともあったのでしょうか?
東京で1人暮らしをしていたときに飼っていたことがありましたが、ペットシッターを始めてから今まで以上に犬がかわいく見えてきて、溺愛するようになりました(笑)。この愛情がそのまま子供にも行くのかな、なんて思ったりもしています。向こうは犬すらも感情表現が豊かでアグレッシブで、それがすごくかわいく見えますし、ペットではなく家族の一員なんだなと感じます。
――犬と過ごす中で何か気づきや学びなどありましたか?
向こうの方たちは犬のかわいがり方がすごくて、その愛に触発されて、愛情表現が自分も豊かになった気がします。
――素敵な変化ですね。
日本人と比べて向こうの方は感情をものすごく出すので、それを見ていて、プラスな感情を表に出すのは素敵なことだなと学びました。周りの人もそのほうが幸せになれると思います。
――今39歳ですが、今後どうなっていきたいと思い描いていますか?
若々しくいたいなと思っています。以前はそういうことは考えてもなかったですが、意識したほうがいいと思うようになってきました。いつまでも軽やかにいられるのか、年齢が重圧になっていくのか、ここから別れ道な気がしていて、僕は表情も含め、いろんな意味でずっと軽やかにいたいです。
――どうしたらずっと軽やかにいられると思いますか?
物事や人との向き合い方やリアクションが大事なのかなと思っています。自分の思考が固まってくると、そこから出られなくなりがちですが、違う見方もしていくと心が若くいられるのではないかなと。
――確かに年齢を重ねると自分の考えが凝り固まっていく可能性があるので、それを意識するのは大事だなと感じます。
「これはこうだ!」と言い切るのは簡単ですが、そこで多角的に考えられるか。ある程度努力を要すると思いますが、意識するとしないでだいぶ変わってくると思うので、その意識をちゃんと持っていたいと思います。
――俳優として具体的にこんなことに挑戦していきたいということはありますか?
今の話とつながりますが、自分の視野を広げるためにも、若い方たちの世界観や作品に触れたいという興味がすごくあります。新しい感性に触れることで見えてくるものもあると思うので、積極的に関わっていけたら。若い俳優さんもそうですし、若い監督さんたちともご一緒していきたいです。
――ご自身も違う世代に刺激を与えながら作品作りに挑んでいくことになるのでしょうか?
そうですね。僕も見てきた景色や経験で伝えられるものは伝えていくつもりですが、あくまでも一つの提案として伝えるぐらいでいたいと思います。
――最後にファンの方にメッセージをお願いします。
『ある風景』はまさに今を描いているので、自分の人生と重ねながら見ていただけると思います。僕自身、これまであまり考えてこなかったテーマなので挑戦だなと感じていますが、これからもさまざまな作品にチャレンジしていきたいと思います。
■小出恵介
1984年2月20日生まれ、東京都出身。映画『パッチギ!』(2005)で注目され、その後数々の話題作に出演。2018年10月より米ニューヨークに拠点を移し、2020年より日本での芸能活動を再開。2021年7月、ABEMA『酒癖50』で4年ぶりにドラマ復帰。2023年2月には主演映画『銀平町シネマブルース』で本格的に映画復帰を果たす。現在は映画、舞台を中心に活動している。
ヘアメイク:永瀬多壱スタイリスト:佐々木敦子
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