山下智久「もっと情熱的に生きよう」難役に挑んだ主演作で意識変化 変わらぬモットーと海外進出後の変化も語る
●「今日を全力で生きよう」という気持ちが強く
俳優の山下智久が、映画『SEE HEAR LOVE 見えなくても聞こえなくても愛してる』(Prime Videoにて独占配信中、ディレクターズカット版7月7日より劇場公開)で視覚障がい者という難役に挑んだ。本作に参加したことで人生において何が大切か改めて考え、「もっと情熱的に生きよう」と意識するように。また、近年海外で活動する中でも変化がある一方、「予定調和を裏切りたい」という思いは昔から変わらないという。活躍の場を広げている山下の進化と、変わらぬモットーに迫った。
本作は、次第に目が見えなくなる病を患った漫画家・真治(山下)と、彼を支える生まれつき聴覚障がいを持つ女性・響(新木優子)の切なくも温かいラブストーリー。『私の頭の中の消しゴム』のイ・ジェハン監督が手掛けた。
山下は真治を演じるにあたってまず、「目が見えるところから見えなくなる絶望」をどう表現するかなど、彼の心情を大切に。視覚障がい者の感覚や気持ちを知るために、自宅で目隠しをして過ごすこともあったという。
「目隠しをして過ごしたことで、耳での情報などにも気づけるようになりましたし、普段どれだけ視覚に頼っているのか改めて気づきました。テクニカルな部分では手の表現を取り入れました。怪我したらいけないので手のひらはあまり使わないらしく、まずは手の甲で触ることを意識しました」
王道ラブストーリーを演じるのは、2017年の『ボク、運命の人です。』以来約6年ぶり。
「若い頃は受け取りやすい情報だけで判断していましたが、大人になるにつれて裏の感情も考えられるように。目が見えないけれど人を愛するという難しい役でしたが、今の年齢だから表現できるものがあるのかなと思いました」
新木とは、劇場版『コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-』以来約5年ぶりの共演。今回は相手役ということで距離が近くなり、新木の作品に対する強い思いをより感じたという。
「以前から努力家な方だと思っていましたが、今回さらに、役を作るために時間をまっすぐ費やす強さを持っている方だなと思いました。
彼女の強い思いを現場ですごく感じ、リスペクトしています」
そして、本作に参加したことで「今日を全力で生きよう」という気持ちが強くなったと明かす。「人生いつ何が起こるかわからないので、大切な人たちに自分の気持ちをしっかり伝えていこうと思いましたし、もっと情熱的に生きようと思いました。大人になるにつれて自分を型にはめないといけない瞬間があり、自分を抑えて生きてきたような気がしますが、殻を破って情熱を開放していきたいなと。そういうエネルギーをいただいた気がします」
作品作りに関しても、妥協したくないという思いが増したという。
「自分がこういう決断をしたほうがみんな楽かなと思って妥協することもありましたが、作りたいものに対して妥協せずに進む強さをもう少し表に出してもいいのかなと思いました」
また、イ・ジェハン監督と韓国の撮影チームとの仕事は、「カルチャーを取っ払って、本質について共有する感覚があった」と言い、「作品の中で『魂』という言葉も出てくるのですが、思いやり、愛、情熱は世界共通のもの。だからこそこの作品も、日本だけではなく、違う国の方たちにも届くのではないかなと思います」と話した。
●昔から変わらぬ思い「いい意味で裏切りたい」
本作で改めて俳優業の醍醐味も感じたという。
「違う人間を作り上げてそれになりきる作業は、いつまで経っても興味深いなと感じていますし、人間を学ばせてもらっている気がしています。
皆さんと議論していく中で自分の視野が広がる感覚も楽しくて、それも作品を作る魅力の一つだと思います」
そういった醍醐味は、最近より感じるようになってきているという。
「いろんな役を演じ、役を作る上でのアプローチ方法がどんどん出てきて、これやってみよう、あれやってみようと挑戦する楽しさを感じています。また、そういった計算ではなく、現場でその瞬間に生まれるものがあると知ってより楽しくなりました」
山下は以前、バラエティ番組に出演した際、大ヒットドラマ『野ブタ。をプロデュース』で演じた彰のチャラいキャラについて、当初は優等生キャラだったものの、本番で監督の要望とは真逆のことをして生まれたと明かしていた。
当時“イヤイヤ期”だったため違うことをやったという山下だが、「いい意味で裏切りたいという気持ちはずっと変わっていない」と言い、「天邪鬼なところがあって、子供の頃から予定調和的なのが好きではありませんでした。役も、自分の生き方も、予定調和にならないようにしている気がします」と自己分析。予定調和を壊すことで想像を超えるものを生み出し、多くの人たちを楽しませたいと考えている。
「こんな役やらないだろうという役に挑戦するなど、グッドサプライズを届けたいという気持ちは常にあります。
そのほうが見ていて飽きないと思いますし、俳優の話だけでなくすべてにおいて、いい意味で裏切っていきたいと思います」
最近、予定調和を裏切るような挑戦をして、新しいものが生まれたエピソードを尋ねると、7月19日にリリースするニューアルバム『Sweet Vision』で経験したと明かした。
「普段ならやらないような曲をやりたくなって、歌ってみたら意外と歌いやすくて、もしかしたら自分の声にこういう曲も合っているのかなと。そういう風に自分のイメージとは違うものにも挑戦していこうと思います」
●海外への思いと進出後の変化「肩の力が抜けた」
『THE HEAD』(2020)で海外ドラマ初出演を果たし、海外でも着実に活躍の場を広げている山下。全編英語の役を演じたり、海外での取材会で通訳なしで対応したり、勉強を重ねてきた英語を存分に生かしている。
海外に対する興味は、子供の頃にすでに芽生えていたという。
「同じ年齢くらいのアメリカ人の親戚が夏休みによく遊びに来ていて、土足で家に入ってくるなどカルチャーの違いに衝撃を受け、いつか自分も違うカルチャーを見てみたいと興味を持つようになりました」
そして、芸能界に入って海外のエンターテインメントにも触れる中で、より具体的に海外で活動したいと考えるように。「新しい世界を見たい」という好奇心はずっと続いている。
ワールドワイドに活躍する中で変わったことを尋ねると、「肩の力が抜けた」と告白。
「それまでは気を遣いすぎていて、いい意味でも悪い意味でも型にはまっていた自分がいましたが、とらわれなくていいと思うようになりました」と語る。
はっきりと本音を言う外国人と接する中で、力を抜けるようになっていったのだという。
「日本だと『疲れてないですか?』と聞かれたときに、少し疲れていてもみんな『疲れてないです』と答えますが、外国人は『疲れた』『疲れているけどやるしかない』と正直に答える。そういう姿を見て、肩肘張らずリラックスできるようになってきたのかなと思います」
本作の主人公・真治は視力を失うことで人生のどん底を味わう。山下にとっての“どん底”経験を尋ねると、「挫折はいっぱいありますよ。数えきれないです」と言い、「ずっと男性社会で生きてきたので競争が激しく、大変な挫折を何度も経験しながら、立ち上がるたびに強くなっていると思います」とたくましい。
その強さはマイケル・ジョーダンの生き様から影響を受けているようだ。
「NBAで一番成功した人はマイケル・ジョーダンですが、実は一番失敗した人もマイケル・ジョーダン。
それだけ一番シュートを打った人が成功に近いということで、挫折しても何回でも立ち上がると成功に近づくという哲学を教えてもらった気がしていて。失敗は成功するための試練だと思うようにしています」
●内に秘めた熱さを表に出して「もっと情熱的に」
現在38歳の山下。今後どのようになっていきたいか尋ねると、「自分に素直に情熱的に生きていこうと思います。内に秘めた熱さはずっと持っていたタイプだと思いますが、それをもっと表に出していきたい」と回答。やはり本作が自身に与えた影響はとても大きいようだ。
そして、「一つ一つの出会いを大切にしていきたい」と続け、企画・プロデュースへの意欲も見せた。
「先のことは予知できないので、だからこそ一つ一つの出会いを大切にしていくしかないのかなと。作品との出会いもそうですし、本を読んでこれを実写化したいと思うような出会いがあるかもしれないですし、自分で企画をして0から作っていく作業もしていきたいなと思っています」
山下は本作の主題歌「I See You」も担当している。
「映画の撮影が終わったあとに制作にとりかかったので、役のDNAが意識的にも無意識的にも入っていて、歌詞も深く、熱い情熱を感じました。映画同様、そういう思いが詰まった楽曲で、僕なりの情熱を込めました」
そして、「英語詞ですが、“僕の血液に君が流れている”という表現がすごく情熱的だなと思い、僕の中で強く残っています。どうせ愛するならそれぐらい情熱的に愛するのがロマンチックだなと思いました」
さらに、「人生1回しかないですし、当たり前がいつ当たり前じゃなくなるかわからないという経験を僕らはここ数年でしてきた。そういうタイミングだからこそ、もっと情熱的に自分にも人にも素直に生きていこうと思えたので、このタイミングでこの映画に出会えたのも運命だなと思います」としみじみ。最後にファンに向けて、「いつも応援していただきありがとうございます。『SEE HEAR LOVE』は日本チームと韓国チームが心を一つにして、たっぷり情熱を注いで作り上げたラブストーリーです。作品を見た後に、大切な人に連絡したくなるような温かい作品になっていますので、世代問わず見ていただきたいです」とメッセージを送った。
■山下智久
1985年4月9日生まれ、千葉県出身。1996年より芸能活動開始。俳優として数々のドラマや映画の主演を務めるほか、アーティストとして音楽活動も精力的に行い、活躍の場を海外にも広げている。主な代表作にドラマ『野ブタ。をプロデュース』(05)、『クロサギ』(06)、『コードブルー ‐ドクターヘリ緊急救命』シリーズ、映画『あしたのジョー』(11)、『近キョリ恋愛』(14)など。『THE HEAD』(20)で海外ドラマ初出演を果たし、ハリウッド映画『マン・フロム・トロント』(22)に出演、今年9月に配信される『神の雫/Drops of God』で海外ドラマ初主演を務める。昨年はドラマ『正直不動産』も話題を呼び、2023年度冬に『正直不動産スペシャル』も放送予定。High Hope Entertainment 所属。