なぜ東京ガールズコレクションは成功したのか? チーフプロデューサーに聞く
●1回のTGC"カオス"への投資は3億円
2005年8月から年2回開催されている史上最大級のファッションフェスタ「東京ガールズコレクション(TGC)」。9月2日、さいたまスーパーアリーナ開催で第25回の節目を迎える。前回の取材媒体は200社以上、海外メディアは20媒体以上。当日のSNS拡散は40万以上、「#TGC」でのツイート合計は1億imp以上を記録した。チケットは決して安くないが、毎回3万人以上の観客を動員している。
前回のチケット購入者を対象としたアンケートでは、96%が「満足」し、65%以上が会場に7時間以上滞在。98%が「次回も参加したい」と回答したという。スタートから10年を経てもなお、なぜ女性たちの心をつかみ続けているのか。
マンネリを打ち崩してきた秘訣を探るべく、東京ガールズコレクション実行委員会のチーフプロデューサー・池田友紀子氏に話を聞いた。
○"安くない"チケット完売
――昨年延べ140万人の視聴者を獲得したLINE LIVE。今年も当日の模様を配信するそうですが、チケット販売への影響はありますか?
チケットは決して安くありませんが、券売スピードは年々速くなっています(アリーナプラチナ指定席:15,500円、ゴールド指定席:先行9,800円・一般10,300円、指定席:先行7,800円・一般8,300円、自由席:先行5,800円・一般6,300円)。今回も非常に券売が好調で(すべて完売)、イベントで体感したことをSNSで発信するという世の中のトレンドもありますので、お客様がモチベーション高くTGCを楽しんでいただけているのかなと思います。昨年実績でいえばSNS投稿総数は約40万件。お客さまをはじめ、ご出演のモデルの方々、生中継の視聴者さまなども含めた数字です。リアルでの熱狂からSNSで拡散、テレビ・新聞・雑誌・WEBからも広がっています。
――25回目を迎えますが、成功した要因はどこにあると思いますか?
細かい要因はありますが、やっぱり圧倒的な「投資」をし続けてきたことが実ってきたのではないでしょうか。
TGCに登場するのは、各ファッション誌で人気のモデルの方々を中心に、アーティスト、アイドル、バンド、ダンス&ボーカルグループ、韓流など様々。良い意味での"カオス"な空間を目指し、TGCに集まってくださってくださった女性たちが「見たい!」と思うものをたくさん散りばめています。出演者だけでなく、演出を担当される方、スタイリストやヘアメイクも国内外で活躍されている一流の方々にもご参加いただいております。
――投資というのはそれら"カオス"な演出のための投資ということですか?
1回のTGCにかけるのがだいたい3億円ぐらいです。毎回きちんとスクラップ&ビルドをして、来場者調査で人気の出演者や、売れ行きや評判の良かったブランドなども確認して、次回へとつなげています。半年に1度のペースなので、毎回ゼロベースからの再構築。圧倒的なクリエイティブ力でのアウトプットが、お客さまの大歓声を引き起こしていると思います。
○開始当初はガラケー時代
――東京での開催のほか、地方都市でのTGC開催も話題を集めていますよね。
年に2回、東京で開催していますが、2015年頃から地方創生プロジェクトを積極的に行っています。今年は10月に北九州、12月に広島での開催を予定しています。シンクタンクで経済効果を調べていまして、昨年実績の北九州は約17億円の経済効果がありました。
――昨年からは託児所が設定されましたね。これは、どのような経緯なのでしょうか。
お子さん連れで来ていただくことは難しかったと思いますが、私たちは「すべての女性に輝く舞台を」をミッションとして掲げています。それは出演者だけでなく、TGCにお越しくださる方々も主役。たとえば、パリコレクションやミラノコレクションなど世界のファッションショーは限られた業界関係者しか参加できませんが、TGCはランウェイの周りも自由席なのですべての方に近くで見られるチャンスがあります。
また、ショーで発表されたものがその場で買えるのも世界初の試みでした。スタートした2005年はまだガラケーの時代でしたが、様々なテクノロジーを取り入れて成長していったイベントでもあると思います。
私たちが大切にしているのは、お客さまを最優先に考えること。日々トレンドが変わり続ける中、旬のブランドや出演者、お客さまが接触するメディアも変化します。LINE LIVEで生放送を実施したのもその1つです。
――「マンネリ」はイベントの宿命ですが、これだけ続いているのはそれを打破してきたからだと思います。どのような工夫が施されているのでしょうか。
複合的な要素があると思いますが、「圧倒的な熱狂」を生み出すためには、「期待値+α」の工夫だと思っています。
想定されている以上の熱狂のためにいろいろなことを覆して、お客さまが見たことのないもの、6時間半のコンテンツを随所に詰め込んでいます。通常のライブであれば2~3時間ですが、TGCはだいたい13時ぐらいに開場し、終わるのは21時ごろ。いかに最初から最後まで楽しんでいただけるかを毎回考えています。
――観客を惹きつける演出が肝ということですね。
そうですね。総合演出チームのほか、弊社のTGCスタッフみんなで企画を考えています。自分の担当以外でもアイデアを出し合う企画コンペを実施して、100本以上の中から決まったものもあります。チームプレイで毎回作り上げています。
●第25回は「節目にふさわしい"重鎮"」が登場
○AIを取り入れる狙い
――今回は人工知能を搭載したウエディングドレスがランウェイに初登場しますね。
今回のテーマは「BEYOND」です。TGCが新時代のガールズカルチャーを発信することを掲げております。25回目を迎えて「老舗」のイメージが定着し、「安定感」や「安心感」がある一方、「古いイベント」と誤解される可能性も出てきます。ここであえて挑戦的なテーマを掲げ、世界が注目している東京から地方や海外に向けて発信していきたいと考えています。
TGCはテクノロジーの進化と共に多くの方々に知っていただけるようになりました。最先端テクノロジーとのコラボレーションとして、今回は2つのAI企画を実施します。
1つはIBM社の人工知能・ワトソンのコグニティブテクノロジーを使ったもの。
ツイートの感情を読み取ってドレスの色が変化する、“見るものから参加する"まさに新時代に向けたファッションショーです。これは社内コンペがきっかけの企画で、若い女の子にとってみれば、人工知能と聞いてもピンとこないと思いますが、自分のSNSの投稿でドレスの色が変われば興味を持ってもらえる。そしてTGCにはSNSで発信することが日常的な若い女性で溢れている。私たちの役目は最先端テクノロジーをTGCならではの手法でアウトプットし、世の中に向けてわかりやすく伝えることです。
もう1つは、9DW社との共同開発で、世界中のSNSをもとにファッションコーディネートを学習したAIが審査員の、スナップコンテストを世界で初めて開催します。AIがファッションショーをプロデュースする案もありましたが、それは面白くない。洋服がかわいければそれでいいし、自分が好きなモデルさんが着ている洋服であればAIが考えたどうかは重要ではありません。
SNS発信することがルーティンのTGC来場者層は、SNSでの承認欲求の高い女の子だと仮定した時、一人ひとりがインフルエンサーになる可能性があります。もともとTGCで来場者スナップはやっていたのですが、最旬のコーディネートで来たお客さまが主役になっていただくためにも、AIによるスナップコンテストを考えました。1時間ごとにカメラマンが場内をまわり、随時公式サイトでランキングを発表していきます。
○『おそ松さん』と矢沢永吉
――そのほか、TVアニメ『おそ松さん』と2度目のコラボ。TGCの客層と違うような気がするのですが、どのような狙いがあるのでしょうか。
これも良い意味での"カオス"空間を作ることの1つ。ガールズをひとくくリにしたときに、『おそ松さん』も大きなガールズトレンドです。
――過去の取材で印象に残っているのが、2014年の第19回。シークレットゲストとして登場した矢沢永吉さんが「レイニー・ウェイ」「サイコーなRock You!」を熱唱し、客層が違うはずですが会場は大盛り上がりでした。これも、先ほどからおっしゃっている"カオス"な空間ですね。
そうですね。『おそ松さん』とのコラボグッズが売られるから来てくださる方もいれば、TGCで『おそ松さん』を知る方もいると思います。これは一例ですが、このような視点でコンテンツを積み重ねています。
――矢沢さんが登場した時は、記者席も沸いていました。TGCのお客さんは世代じゃないはずですが、間違いなく盛り上がっていましたよ。
ありがとうございます(笑)。お客様がTGCにいらしてくださる目的となるコンテンツをふんだんに用意することはもちろん、お客さまにちょっとだけ想像を超えるコンテンツや、驚きを加えるとことが「圧倒的な熱狂」には必要だと思っています。今回もたくさんのサプライズをご用意しています。25回目という節目にふさわしい"重鎮"もご出演いただくことになっていますので、楽しみにしていてください。