『幽☆遊☆白書』北村匠海・志尊淳・本郷奏多・上杉柊平、徹底した役作りと制作秘話語る「肉体を酷使」「14キロ増」
●時間をかけて作り上げた幽助・蔵馬・飛影・桑原
『週刊少年ジャンプ』(集英社)で連載された冨樫義博氏による大ヒット漫画『幽☆遊☆白書』の世界初となる実写化作品が誕生。製作発表時から注目を集めていた本作が12月14日よりNetflixで配信されている。主人公・浦飯幽助役の北村匠海、蔵馬役の志尊淳、飛影役の本郷奏多、桑原和真役の上杉柊平にインタビューし、役作りや制作の裏話、本作への思いを聞いた。
本作は、人間界、魔界、霊界という3つが交錯する壮大な世界観で、主人公・浦飯幽助らが次々と降りかかる困難に立ち向かうファンタジーアドベンチャー。不慮の事故死を遂げた不良少年・幽助は霊界探偵となって蘇り、妖怪との壮大な戦いに挑む。キャスト陣は原作へのリスペクトを込めて徹底的に役作り。体作りやアクション練習に励み、時間をかけて作り上げたという。
――まず、ご自身の役を演じる際に意識したことをお聞かせください。
北村:一番最初は、幽助的な歩幅や姿勢、声のトーンなど、細かくイメージしていましたが、幽助としてみんなと会話していく中で自然と湧き出るものがありました。戸愚呂と対峙して湧き出るエモーションが幽助と重なるという部分が日を追うごとに多くなり、役と向き合う時間がすごく長かったので、自分の中に幽助の像ができていました。
志尊:とてつもなく大きな作品の中の蔵馬という役柄でプレッシャーもありましたが、蔵馬を不自然に見せないために、魔界と人間界の両方で成立させられるように意識しました。魔界に寄せたビジュアル作りや役柄作りをすると、病室のお母さんのところで表現できなくなるし、病室のお母さんのところで馴染ませてしまうと、魔界の妖狐が宿っている蔵馬という表現ができなかったので、一番バランスが取れるところを追求しました。
――魔界と人間界のどちらにも馴染むようにするために特に意識したことを教えてください。
志尊:例えば、魔界に馴染むようにメイクをガッツリ作ってしまうと、病室のお母さんのシーンに入り込めなくなり、芝居も一緒で、魔界の世界での芝居の作り方をすると、人間界で入り込めない。逆も然りで、そこをどう共存させるか考えた結果、妖狐のとき以外はメイクはせずに勝負することにしました。眉毛は赤くしましたが、それだけで、馴染むことを願いながらやっていました。
――本郷さんと上杉さんはいかがですか?
本郷:幽助と桑原は人間で、蔵馬も人間の姿なので、この4人の中では飛影が唯一、純粋な妖怪なんです。なので、冷たさというか無機質な感じというか、人間と並んだときに異質な感じは残しておきたいと思ったので、一個壁は常に隔てておこうと思って演じていました。そこから、一緒に共闘していく中で少しずつ、人間ももしかしたらいいのかもしれないと、心を若干許していくように組み立てていきました。
上杉:桑原は強さだけが必要とされる世界にいる人なので、そこをひたすら追求しました。それが自然と精神的な強さにもつながっているんですけど、桑原の中での強さはあくまで武力的なところで、それを追求するにあたってアクション練習が大きかったです。その中で桑原だったらどうするか、長い期間かけて役と向き合うことができ、自然と芝居の部分も作られていったので、あまり意識してこうしようということはなかったです。
○細部までこだわって作り上げたビジュアル
――ビジュアルも試行錯誤して作り上げていったということですが、特にこだわった点を教えてください。
北村:学ランに関しても、生地やインナーをどうするか、ものすごい数、衣装合わせをしました。
世界配信というところでモードなスタイリッシュさにもこだわり、いわゆる日本の学ランというより、リアリティとはまたちょっと違う次元に寄せ、カメラテストも何回もしてこの形に。アクションするときはボタンがちょっと大きいとか、それぐらい色味や形も含めて考えました。桑原と幽助に関しては、学ランの裏ボタンにもこだわっています。
上杉:文字が入っているんだよね。
北村:これも全部バックボーンにつながるというか、学ランの裏ボタンは、幽助と桑原という、いわゆる日本のカルチャーにおけるヤンキーがこだわる部分なんです。
――ご自身としては納得のビジュアルに仕上がりましたか?
北村:そうですね。当たり前ですけど100点を出してから本番に臨むという、それぐらい長い期間をかけて衣装合わせやアクション練習、体作りを経て当日を迎えました。それだけの時間があったというのはものすごくありがたいことで、本番では自然体で演じられた気がします。
――志尊さんは先ほどもビジュアルについて触れてくださいましたが、改めてこだわった点を教えてください。志尊:こだわってないポイントが逆にないのですが、ビジュアルに関しては主観的な意見をあまり言っていません。自分が思っている蔵馬像よりも、皆さんが思っている蔵馬像にビジュアルを寄せていきたいという気持ちが強かったので、チームの方々が作り上げてくれるものに対して、誠心誠意、役柄を詰めていけばいいなという考えでやっていました。
――初めて蔵馬のビジュアルになったときはどう思いましたか?
志尊:このビジュアルで市場を歩いたりしていて、目立つ衣装なので異様な感じがあり、どう共存していこうかということだけを考えていました。
――本郷さんはいかがですか?
本郷:僕も皆さんが決めたものが一番いいと思って作っていただきました。僕が借り出された回数だけでも10回ぐらいあり、すごい期間をかけてちょっとずつ組み立てていったのかなと。刀も1センチ単位で長さを変えたものが10種類ぐらい用意され、「刀を振ってみて」と言われて何回もやったり、そういうレベルで細部までこだわって作っています。実写としてリアルにキャラクターが動いて戦ったときにかっこよく見えるベストを追求していて、トッププロたちが議論を重ねた結果なので、僕から言うことは何もないです。
――かなりインパクトのあるビジュアルですよね。
本郷:刀だけでなく、腰や手につけるパーツもいっぱいあり、特殊メイクもしていたので、僕だけみんなより早く入っていました。
北村:スケジュール表を見てかわいそうだなと(笑)
本郷:昼休憩が終わるときも、みんな5分前ぐらいに現場に入ればいいんですけど、僕だけ15分前ぐらいに入って、1個ずつつけて、順番をミスると最初からやり直して。それがちょっと大変でした(笑)
○「脇の毛が…」志尊淳が明かした裏話に3人爆笑
志尊:今思い出したことがあって、妖狐の衣装合わせのときに、まだ衣装ができてないから合わせるだけだと言われて行ったら、かなり出来上がっていて、カツラも耳もつけることになり、「手を上げるポーズをしてください」と言われてやったら脇の毛が見えて。そこまでやると思ってなかったから処理してなくて、その瞬間、場が凍りつきました(笑)
3人:(爆笑)
北村:蔵馬に脇毛が生えていたら確かに(笑)
志尊:嫌なものを見たみたいな雰囲気に(笑)。そこから体毛はどうしようかという話になって、そこも細部まで詰めました。剃るということですけど。
――上杉さんもビジュアルをどう作り上げていったかお聞かせください。
上杉:僕も、自分の考えより皆さんが何時間もかけて考えてくださったもののほうが正解に近いと思いました。基本的にどの現場でも僕はそうですが、皆さんの意見のほうが大事だなと。動きやすさなどについては意見しましたが、ビジュアル的なことはお任せしていました。
――金髪も印象的ですが、初めて桑原のビジュアルになったときはどう感じましたか?
上杉:原作だと前向きのリーゼントになっていますが、実写としての表現なので、その中でヘアメイクチームの方たちが試行錯誤して後ろリーゼントみたいなのを作ってくれました。自分だとあまり見えませんが、みんなが「いいね! これでいこう」と言ってくれたことがすべてだったので、よかったなと思っています。
●北村匠海&上杉柊平は筋トレ&食トレで肉体改造
――上杉さんは、桑原役のために10キロ以上体重を増やして肉体改造されたそうですね。
上杉:約半年で14キロぐらい増量しました。キャラクターや原作に対するリスペクトの意味も込めて、身体的な表現は必須かなということで、監督たちと話して増量しました。
――どうやって増やしたのでしょうか。
上杉:とにかく食べました。トレーニングもしましたが、トレーニング2割、食べる8割という感じで“食トレ”を。
――ちなみに今は戻ったのでしょうか?
上杉:撮影が終わって2、3カ月したら元に戻りました。元の食生活に戻ったらあっという間に。
○2人で食べ合い「2杯食べるよね!?」「ピザ何枚食う!?」
――ほかの皆さんも体作りという点で撮影前に準備されたことがありましたら教えてください。
上杉:匠海も筋トレ頑張っていたよね。
北村:ずっとやっていました。でも自分に必要とされる筋肉は瞬発力だったので、どこに吹っ飛ばされても自分の体が痛くないような筋肉“アクション筋”をつけるように。幽助はスピーディーなアクションが求められるし、1人だけ本当の肉弾戦で、剣やバラで受けるのではなく、すべて自分の身で受け、パンチもキックも全部自分の身だから、本当にアクションができる体作りを半年ぐらいかけてやりました。
――肉体の変化もかなりあったのでは?
北村:当時は今より5キロぐらい重かったです。僕もけっこう食べるようにして。アクションで消耗するので、幽助にはとにかく活力が必要だと思い、(上杉と)一緒にめっちゃ食べていました。ケータリングも「食うっしょ!」って。
上杉:食べ合いだったね(笑)
北村:「2杯食べるよね!?」「え、食わないの!?」って(笑)。桑原と幽助みたいな感じでお互いツンツンしながら、僕も食トレをしていました。
――2人だとより頑張れそうですね。
北村:助かりました。
上杉:ありがたかったです。
北村:プライベートでも、「今日ピザ何枚食う!?」って(笑)
上杉:火鍋を食べて、米を食べて。僕のうちで食べていました。
○志尊淳「クランクインする前に病気に」 本郷奏多「腕と足が常にパンパン」
――志尊さんは事前の準備に関していかがでしたか?
志尊:僕はクランクインする前に病気(急性心筋炎)になってしまったので、病気で2カ月ぐらい運動ができなくて。なので、落ちた筋肉を取り戻し、線の細さも意識しながらアクションができるようにならなきゃいけないという体作りをしました。
――体力の回復というところからでしたか?
志尊:そうなんです。病気になるまではおそらく誰よりもアクション練習を詰めてやっていて、いけるぞというところで病気になったので、1回それがゼロになり、また1個ずつ築いていくという感じでした。
――復帰してすぐの作品としてはかなりハードだったのでは?
志尊:ハードだったので、療養中にプロデューサーと監督に「迷惑かけることも多いし、自分の人生だから無理はしたくないので、気にせず降ろしてください。作品のことだけを思って選び直してください」と言ったら、「僕らは何があっても志尊くんでいきたいから、支えるし、スケジュールも遅らせるから頑張って戻ってきてほしい」と言ってくださって、頑張ろうという気持ちになりました。最初は散歩から始めて、1日2万5000歩くらい歩いていました。
――2万5000歩ってだいたい何時間ぐらいですか?
志尊:時間は覚えていませんが、何歩歩こうとか考えず、明るい未来に向けてとにかく歩いて、限界が来たら戻るという、そんな日々でした。
――本郷さんはいかがですか?
本郷:飛影はスピード感が大事なキャラクターなので、体を大きくしたということはありませんが、刀を振るなど実際にやらないといけないアクションをめちゃめちゃ練習し、腕と足が常にパンパンでした。そして、飛影は原作だとみんなよりちょっと小さくて、それはイメージとして大切にしたいという思いがあり、とはいえ身長を縮めることはできないので、戦っている時の刀の構え方を普通より2段階ぐらい低くしました。常にスクワットしているような状態での戦いになり、足がめちゃくちゃ痛かったです。みんなそれぞれにつらい思いをして、肉体を酷使して、だからこそいいものになっていると思います。
●日本のエンタメが評価されることや今後の発展も期待
――皆さんが長い期間かけ、ものすごい努力を重ねてこの作品を作り上げられたことがとても伝わってきましたが、改めてこの作品がご自身にとってどんな経験になったかお聞かせください。
北村:間違いなく、自分が経験してきた作品の中で1つの役と向き合う時間が長くて、すごく有意義な時間でした。自分1人の経験にならないといいなという思いがあり、俳優・北村匠海の経験を飛び越えて、1つの作品とこれだけ向き合ってこんなものができたということが、見てくださる方、そして、同じ業界の方たちにも一発与えられたらうれしいなと。今後役者として作品とどう向き合っていくかという価値観を変えてくれた作品になりました。
――役者さんにも作り手さんにも刺激を与えそうですね。
北村:本当にそうなってほしいなと、それぐらいの思いでみんなと作ったので。自分たちにとってとてつもない作品なのは当たり前で、そこを飛び越えていってほしいという願いがあります。
志尊:この規模感で、この期間で作る作品は今までなかったですし、全世界配信ということでたくさんの人に見てもらえる、こういう大きなチャンスってないなと思いました。普段の日本の作品にも生かせたらいいなと感じる部分もあり、かといって全作品こうなるべきとは思っていなくて、できる範囲でどうやって期間や向き合っていく時間を作っていくか……今までにない経験をさせてもらえたからこそ、いろんなことに意識を向けて還元できる未来になったらいいなと。これだけ時間と労力をかけて作った作品が報われて、日本のエンタメが評価されることや間口が広がることは絶対にプラスになると思うので、それを願いながら必死にやっていました。
本郷:今まででは考えられなかった規模感で、すごく贅沢な環境でお芝居をさせていただけたなという思いがあります。出来上がったものを見ても、エンドロールがめちゃめちゃ長くて、これだけの人が携わっているんだなと衝撃を受けました。そして、吹き替えでいろんな言語に変えてみたら、言語によっては飛影の声がめっちゃ野太かったり、面白いなと。吹き替えしてくださった人たちもしっかり役作りをして挑んでくれているでしょうし、目に見えてないところの大きさも感じられ、すごい作品に携わらせていただいたなと思いました。
上杉:俳優としてやることはどの作品でも変わりませんが、時間があるというのはメリットしかなくて。全部がそうであるべきではなく、やれる範囲でやることで出る良さも絶対あると思います。ただ、こういう環境を知った上で戦えない環境に行ったら、心が荒むし、苦しさも感じると思うので、スタンダードは何個かあっていいと思いますが、これはスタンダードとして確立させるべきだと思う環境だったので、僕らも声を出していかないといけないと思っています。一個こういう環境が出ないと誰も背中を追えないので、ここからなのかなと。期待を感じる作品になりました。
■北村匠海
1997年11月3日生まれ、東京都出身。2008年に映画デビュー。映画『君の膵臓をたべたい』(17)でW主演に抜擢され注目を集める。近年の主な出演作は、映画『サヨナラまでの30分』(20)、『さくら』(20)、『東京リベンジャーズ』シリーズ(21・23)、『明け方の若者たち』(21)、『スクロール』(23)、『法廷遊戯』(23)、ドラマ『教場』(21、23)、『ナイト・ドクター』(21)、『名探偵ステイホームズ』(22)、『星降る夜に』(23)など。
■志尊淳
1995年3月5日生まれ、東京都出身。2011年に俳優デビュー。ドラマ『烈車戦隊トッキュウジャー』(14)でライト/トッキュウ1号役にて注目される。NHKドラマ『女子的生活』(18)の演技で同年の文化庁芸術祭テレビ・ドラマ部門放送個人賞などを受賞。近年の主な出演作は、映画『さんかく窓の外側は夜』(21)、『バブル』(22、声の出演)、ドラマ『極主夫道』(20)、『青天を衝け』(21)、『らんまん』(23)、『フェルマーの料理』(23)など。
■本郷奏多
1990年11月15日生まれ、宮城県出身。2002年に俳優デビュー。近年の主な出演作は、映画『鋼の錬金術師』シリーズ(17、22)、『キングダム』(19)、『Diner ダイナー』(19)、『シン・仮面ライダー』(23)、ドラマ『麒麟がくる』(20)、『カムカムエヴリバディ』(22)、『クライムファミリー』(23)、『姪のメイ』(23)、『ゼイチョー ~「払えない」にはワケがある~』(23)など。■上杉柊平
1992年5月18日生まれ、東京都出身。2015年に俳優デビュー。近年の主な出演作は、映画『サヨナラまでの30分』(20)、『モエカレはオレンジ色』(22)、『シン・仮面ライダー』(23)、『夜が明けたら、いちばんに君に会いにいく』(23)、ドラマ『絶対零度~未然犯罪潜入捜査~』(20)、『麒麟がくる』、『24 JAPAN』(20)、『神様のカルテ』(21)、『18/40~ふたりなら夢も恋も~』(23)、『ワンルームエンジェル』(23)など。
(C)Y.T.90-94