120組以上のアーティストが国境を越えてファンと活発交流 韓国発「Weverse」成功の背景と日本市場の勝算
●“ファンができ得る最高の経験を提供する”HYBEの哲学
120組以上の世界のアーティストが参加し、メッセージ投稿やライブ配信、Eコマースなど、ファンとの活発なコミュニケーションを実現するプラットフォーム「Weverse(ウィバース)」が快進撃を続けている。2019年6月のローンチ以降、サービスの高度化と拡張を進め、昨年にはアプリダウンロード数が1億を突破。月間アクティブユーザー数(MAU)は1,000万を超え、「Google Play ベスト オブ 2023」のユーザー投票部門で大賞に輝いた。
BTS、SEVENTEEN、NewJeansなど、グローバルに活躍するアーティストを擁するエンタテインメント企業・HYBEの事業部門の一つとして展開されるこのプラットフォームは、なぜ生まれたのか。本格的に進出した日本市場をどのように捉え、今後の展望をどう描いているのか。WEVERSE COMPANY代表取締役のチェ・ジュンウォン氏を、韓国で直撃した――。
○“不便な現状を解決する”ポリシーで開発
Weverseが立ち上がった経緯について聞くと、「最初から壮大な夢を持って始めたわけではないんです」と謙そんするジュンウォン氏。きっかけは、アーティストのファンが不便に感じている現状を解決したいという思いだった。
「一つの例を挙げると、ファンがコンサート会場に来ると、アーティストの商品を買うために2~3時間並んでしまうことがありますよね。その順番待ちを解消しようと、事前に予約して現場で時間になったらピックアップできるというサービスを開発しました」
この会場受取サービスによって、指定した時間にブースを訪れると、状況によって差があるもののQRコードの提示から1分以内に商品を受け取れるようになった。会場受取サービスによる売上は増加傾向にあり、2023年は前年比で約2倍に。ファンとアーティスト双方にとって「Win-Win」の効果をもたらしている。
“不便な現状を解決する”というポリシーで、その後もファンとアーティストがより親密なコミュニケーションを取れるように、リアルタイムで15の言語翻訳に対応したコメント機能、ライブ配信機能などを導入。さらに、バラバラになっていた公式商品のオンラインショップを集約したり、アーティストに関する情報の告知機能を盛り込んだりとサービス拡張を続けることで、「様々なサービスがオールインワンになっているプラットフォームになり、これがWeverseの大きな特徴となっています。競合になるサービスも、今はいないと思います」と胸を張る。
ライブ配信機能は、Naverから「V LIVE」運営部門を買収したことで、22年7月に新しく追加された。
「これは強力なコミュニケーションツールを増やすことになりました。V LIVEはすでにK-POPの様々なアーティストが使っていましたが、Weverseが合わさることで相乗効果を生み出し、これまでの累積で20億回再生を達成しました。この数字は、1人のユーザーが何度も再訪問していることを示しています」と、サービス全体の成長を後押しした。
○芸能事務所がIT事業を本格展開する理由
サービス開始からユーザー数は極めて順調に伸びたが、「あまりにも急な成長を遂げてしまったので、それに追いつくための開発側のスタッフがものすごく大変でした(笑)」と、うれしい悲鳴も。この成長の原動力の一つは、グローバルに活躍するアーティストを多数擁するエンタテインメント企業・HYBEの事業として展開できていることだ。
「Weverseというプラットフォームが初期段階から成長できた理由として、BTSやTOMORROW X TOGETHERといった強力なIP(知的財産)を擁するHYBE LABELSのビジネスと連携していることが挙げられます。一方で、アーティストを応援するファンに共通して、様々なファン活動を1か所に集めたWeverseのようなプラットフォームにニーズがあったのだと思います。また、V LIVEの買収によるライブストリーミング事業に進出したり、YGやSMのアーティストを迎え入れたりしたことによって、非常に安定した成長を維持することができています」
いわゆる芸能事務所がこうしたIT事業をここまで本格的に直接展開するのは、世界を見渡しても他に類を見ない。
それが実現できたのは、「(HYBE創業者の)パン・シヒョクがよく言うのは、良いコンテンツを作ることが一番で、その次に大事なのは顧客が誰なのかを把握するということ。そこを芸能事務所がクリアにするのは大変ですが、この理解度が高まることでビジネスチャンスも高まるとずっと考えているので、ファンコミュニティーのプラットフォームを立ち上げるという発想に至ったのだと思います」と背景を解説した。
2021年にWEVERSE COMPANYに入社する前は、様々な企業でIT分野を中心に活躍してきたジュンウォン氏だが、彼がNexon、NCSOFT、The Pinkfong CompanyといったIPコンテンツの企業でプラットフォームを作る経験を積んできたことも、Weverseの成長を促すことにつながったと言える。さらに、「もう一つ大事なポイントです」と挙げるのは、“ファンができ得る最高の経験を提供する”というHYBEの哲学だ。
「HYBEはただ音楽をスピーカーで聴いてもらうだけではなくて、音楽を聴くためにコンサート会場に行くこと、そこへの行き帰りの中でファン同士がコミュニケーションを取ることといったことも含めて、最高のコンテンツとIPの経験を総合的に提供したいと考えています。その哲学を具現化したのが、Weverseなんです」
●日本の芸能界に「閉鎖的だと感じたことはありません」
こうして実績を積み上げ、22年6月には日本法人「WEVERSE JAPAN」を設立。AKB48を皮切りに、MOONCHILD、imase、ちゃんみな、そしてスターダストプロモーションのEBiDANに所属する超特急、SUPER★DRAGON、ONE N’ ONLY、Lienelなど、日本のアーティストたちが次々にコミュニティをオープンしている。
日本の芸能界は閉鎖的なイメージを持たれがちだが、「閉鎖的だと感じたことはありません。
ビジネスを進めるにあたってお互いを理解するということにおいて、他の国に比べて少し時間がかかると感じることはあり、今もそのプロセスの中にいますが、Weverseのビジネスを丁寧に真心込めて説明してきたことがつながって、様々なアーティストの皆さんが参加してくれることになったのではないかと思います」と手応え。
各国の市場に合わせてサービスのローカライズを進めていくが、「コンサート会場での会場受取サービスは、元々アプリで商品を買ってピックアップするだけのものだったのですが、日本のチームから“時間も予約できるようにしてほしい”とリクエストがあったのです。これは日本のファンの声を聞いて反映することで、グローバルにより良いサービスが提供できるようになった事例です」と明かした上で、「Weverseは、グローバルなプラットフォームとして各現地のニーズを取り入れる方法を模索し、ファンが感じる不便さに対処して、一貫してサービスを改善するよう努めています」と、その姿勢を示した。
○“ファン文化”が強く根付く日本市場は「重要な地域」
日本において解決したい課題の1つとして挙げるのは、「Weverse Albums」の扱いだ。このサービスは、音楽アルバムのQRコードを読み込み、楽曲だけでなく、フォトカードやフォトブックをダウンロードして楽しめるというもの。従来のアルバムのようにCD現物やプラスチックケースが不要でありながら、バーチャル上で“カタチ”として保管することができるため、環境問題への関心が高い傾向にある若い世代との親和性も高い。
だが、「韓国ではこれを購入するとチャートに反映されるのですが、日本ではまだセールスチャートの対象になっていないのです。やっぱりファンの方は自分の買った1枚でアーティストの成績に貢献したいという思いがあると思うので、日本だけでなくグローバルでもチャートにカウントされるようになるのが大事だと思います」と意識を語る。
日本市場を考えた時に、毎月・毎年単位で会費を払うファンクラブをはじめとした“ファン文化”が強く根付いていることは、Weverseにとってアドバンテージの1つであると捉えており、「日本市場は重要な地域の一つとして位置付けています」というジュンウォン氏。
「Weverseは日本のファンの皆さんにも同じようなオールインワンのサービスを提供することができるので、日本のアーティストの方がグローバルのユーザーとコミュニケーションをしたいという意向があれば、私たちは十分につなげられる機能を提供できます」とラブコールを送り、「これから日本のアーティストがたくさん参加予定ですので、ご期待ください。そして、グローバルの優れたアーティストに出会える場所として遊びに来ていただいて、日本の成熟したファンの皆さんにもWeverseで存分に楽しんでいただきたいと思います」とメッセージを寄せた。
●Weverseの理念を体現した出来事
Weverseの事業を展開してきた中で、想定外の出来事があった。それは、昨年6月10・11日に、ソウルのオリンピック公園で開催したフェスティバル『Weverse Con Festival』だ。
「フェスなのでいろんなアーティストが出演するのですが、私たちの認識では、もともとK-POPのファンは自分の好きなアーティストにだけ没頭する傾向があって、自分の好きなアーティストの出番が終わったらみんな会場から出て行ってしまうのではないかとすごく心配したんです。でも、Weverseが目指す方向性としては、グローバルから集まった様々なアーティストを楽しんでもらうということなので、このフェスを開催しました。結果、実際に来てくれた半分以上が海外からの観客で、いろんなアーティストを見てくれました。
様々な人種、年齢層、ジャンルが合わさっての2日間はすごく楽しくて、この成功を見て、これからもっと広いファンベースを作っていくことができるのではないかという希望を感じました」
「Weverse」というサービス名称は「We(私たち)」と「Universe(世界の人々)」を組み合わせたもので、まさに多様な人が1つになるという狙いを体現したイベントになったのだ。
この理念を実現するために、「言語の壁を崩すということがすごく重要なポイントなので、リアルタイムの翻訳サービスはどんどん精度の高いものにアップグレードしています。それと、文化のギャップというのも当然出てくると思うので、これからのサービスの展開としては、国や地域の単位でファンが集まるページもあれば、海外のファンと積極的にコミュニケーションできるページもあるような、立体的な見方や使い方ができるようにしていくことが、Weverseが未来にアップデートしていく方向性だと思っています」と意気込んでいる。