東大など、不確定性原理に基づかない盗み見が困難な新量子暗号方式を考案
同成果は同大大学院工学系研究科の小芦雅斗教授、理化学研究所の佐々木寿彦特別研究員(当時、東大大学院工学系研究科 特任研究員)、国立情報学研究所の山本喜久教授らによるもの。詳細は5月22日付の英科学誌「Nature」に掲載された。
量子暗号は量子力学の性質を利用することで、盗聴者の計算能力や技術レベルに依存しない強固なセキュリティを実現できる通信技術。通信におけるセキュリティは、ハイゼンベルクの不確定性原理により、微弱な光パルスに載った信号を盗聴者が盗み見る行為そのものが信号が変化させてしまい、通信路の雑音量が増加するように見えることから、その雑音量を監視することで担保されていた。
しかし、この動作原理では、使用している通信路が本来持っていた雑音も盗聴者が引き起こしたと仮定させてしまい、効率の低下を招いてしまい、ビット誤り率が15%程度になると、まったく情報を送れなくなるという課題があった。また、通信路をある程度の数の検査を実施する必要があり、数百ビットの秘匿通信をする場合でも、監視のために最低限百万ビット以上の通信量が必要となるという課題もあった。
今回考案された方式は、レーザー光源からの微弱光パルスの列に、デジタル光通信でも使用されている差動位相変調方式でビット値の情報を載せて送信。
受信者は、遅延回路を含んだ干渉計を用いてパルスをランダムにずらして重ね、光子検出によりビット値を読み出すというもので、具体的には、受信者が光子を受信すると、重ねた2つのパルスを位相が同じだったのか違っていたかの判断できるようになるため、それをビット値とし、その光子検出パラメータを送信者に報告。送信者は、その情報と、自らが与えた位相変調の記録から、受信者が決定したビット値を判断することで、1ビットの情報が送られたこととなる。
もし盗聴者が通信路に介入して光子検出を行い、パルス対の位相の相違を知ったとしても、受信者が偶然、盗聴者が知ったパルスのずれを偶然選ぶことが無い限り、盗聴者が、知ることができた位相の相違を用いて送受信者がビット値を決めることはない。また、盗聴者が光子検出を行うタイミングを遅らせ、受信者がパルス対を送信者に連絡するタイミングで、先に保存していたパルス幅を測定する場合、パルス列そのものをずらすことはできるが、どこに波束が収縮するかは、量子力学の持つ不確実性によりランダムに選ばれるため、ほぼ合致することはないという。
実際の研究では、こうした単純な盗聴法のみならず、物理的に可能なあらゆる盗聴法に対するセキュリティを証明できたと研究グループでは説明している。
なお研究グループでは、従来方式に比べると、既存のレーザー光源と干渉計の組み合わせで実現できるため、システムを簡素化が図れるほか、監視に関わる手間の省略や雑音が大きな通信路でも秘匿通信が可能になるとしており、今後、この新たな動作原理の理解を深めていくことで、1984年に発表された現在の量子暗号方式に代わる新たな暗号方式として活用が期待できるとするほか、暗号以外のさまざまな分野での発展も期待することができるとコメントしている。
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