『SHOGUN 将軍』世界的ヒットの要因やエンタメ界に与えた影響 プロデューサーがシーズン2にも言及
●世界中の人たちの心をつかんだ理由を分析
米国テレビ界の“アカデミー賞”ともいわれる「第76回エミー賞」で作品賞、主演男優賞、主演女優賞を含む史上最多18部門を獲得した連続ドラマ『SHOGUN 将軍』が、明日16日より劇場公開される。上映を前に本作のプロデューサーを務めた宮川絵里子(エリコ・ミヤガワ)氏にインタビューし、世界的にヒットした要因やエンタメ界に与えた影響、さらに、気になるシーズン2についても話を聞いた。
今年2月27日よりディズニープラスの「スター」で配信されている『SHOGUN 将軍』は、徳川家康にインスパイアされた戦国一の武将・虎永を主人公に、将軍の座をかけた陰謀と策略渦巻く戦国時代を描いたドラマ。ハリウッドと日本のスタッフ・キャストがタッグを組み、壮大なセットや撮影機材、衣装や小道具、CG技術まで徹底的にこだわり、“本物の日本”を映し出した。真田広之が主演のみならず、プロデューサーとしても参加した。
世界的大ヒットとなった本作。宮川氏は、配信開始後の反響で手応えを感じたという。
「撮影中からスタジオ側の期待値を感じ、完成後の試写会での反応や、アメリカの批評家やジャーナリストの方の取材を受けている中で、いけるのではないかという手応えがありました。
実際、世界的にかなり反応がよく、そして、エミー賞はこれ以上ない栄誉なことで、この受賞を機にさらにたくさんの方に興味を持っていただいて、見てくださる方も増えたと思うので、本当に夢のような階段を上っていった感じです」
世界の人たちの心をつかんだ理由をどのように分析しているのだろうか。
「世界の人からすると真新しく、あまり普段見ることのない世界や価値観で、美しくて面白いというところと、共感できる普遍的な内面的なもののバランスがすごくよくとれた作品だったのかなと思います。内容的に難しいのではないかと思ったり、お客さんが期待しているほどチャンバラが多いわけではなかったり、世界の侍映画のファンに喜んでいただけるか不安な要素はありましたが、全部エンタメとして受け入れていただけて、何度か見て気づく深さもありながら、パッと見ても楽しめる面白さもあるというところで、広く評価していただけたのかなと思います」
根底として日本に対する関心の高さや配信の定着も作品にプラスに働いたと考えている。「日本への観光も年々増えていますし、日本に親しみを感じている人が、若い方からご年配の方まで幅広くいるというベースがあったのもすごく強いと思います。また、コロナ禍で配信が一気に定着し、字幕を見ることへの抵抗感がなくなったということもありますし、いろんなことが重なったなと思います」
真田は「時代劇通の方が見ても納得していただけるものを作りたい」と本物の戦国ドラマの制作にこだわり、衣装、小道具、所作指導などに関して日本の時代劇をずっと作ってきた職人を結集させたと話していたが、宮川氏もハリウッドと日本のタッグがあったからこそ、圧倒的なスケールながら本物の戦国ドラマを作ることができたという。
そして、プロデューサーという肩書きで日本人が参加できたことが大きかったと語る。
「アメリカは縦割りなところがあり、特に映画の制作においては、肩書きのある人の発言権が全然違って、脚本も早い段階で読めたり、前段階の話し合いに参加させてもらって意見を聞いてもらえるようになるので、真田さんや私がプロデューサーという立場で入れたというのが決定的だったと思います」
真田は今回が初プロデュースとなったが、現場での姿を宮川氏は称賛している。
「主演でありながらプロデューサーとしても動いてくださり、キャパが半端ないなと。
すごいですよね。仕事量もストレスも誰よりも多かったと思いますが、毎日現場に最初から来て、最後までモニターを確認して。不機嫌なところを私は一度も見たことないですし、皆さんとしっかりコミュニケーションを取られていました」
続けて、「これからがさらに楽しみです」と真田の今後の挑戦に期待する。
「『ここがスタート地点』という表現をされていましたが、限界やゴールを決めず、より高いことへ挑戦し続けていて、自分を支えてくれた人や自分の背負っているものも考えながら進んでいく方だと思うので、『SHOGUN 将軍』のシーズン2、3もありますし、さらにこの先も世界でもっともっと大きな挑戦をされていくんだろうなとすごく楽しみです」
●世界のエンタメ界に示した多様性と日本のクオリティの高さ
また、本作がエンタメ界において、多様性という観点で大きな影響を与えられたのではないかと宮川氏は語る。
「ほとんどの出演者がアジア系で、しかも7割日本語という作品がエミー賞を総なめにしたというのは、本当にすごいことだと思うんです。日本人や日本文化ももちろん、今までハリウッドというスケールでスポットライトの当たってなかったようなマイノリティなストーリーや人々などにスポットライトを当てられる可能性を証明できたのではないかなと。多様性という観点で大きなインスピレーションになったのではないかなと期待しています」
そして、今後より多様な作品が生まれてくるのではないかと予想する。
「今年のエミー賞も多様性のある年で、『SHOGUN 将軍』だけでなく、ラテン系の女優さんが女優賞を取ったり、前進するような祝うべきポイントがたくさんありましたが、今後多様性のある作品がどんどん増えていくと思います。
『SHOGUN 将軍』がヒットして賞を取ったことは、クリエイターたちにもすごくインスピレーションを与える良いニュースだったと思います」
さらに、日本のエンタメのクオリティの高さを世界に知らしめることもできたと手応えを口にする。
「俳優さんが皆さん素晴らしくて、日本では有名でも北米では知られてなかった方々の魅力が伝わったと思いますし、クオリティの高さからスタッフのプロフェッショナルさも伝わったと思います。実際にいろんな同業の人に聞いても、日本を題材とした作品が増えていて、日本での撮影という話もたくさんあると思うので、これから日本の皆さんはさらに忙しくなっていくのではないでしょうか」
特に時代劇を作ってきた職人たちの存在は、日本にしかない誇るべきものだと語る。
「長年継承されてきた唯一無二の文化や技術は世界のどこにもない、日本だけのものだと思います。時代劇の数が減ってきていたり、引き継いでくれる人材が不足しているとか、いろいろ課題はあると思いますが、日本にしかない素晴らしい技術をいかにつないでいけるか、課題と希望があるのではないかと思います」
また、本作のように日本とハリウッドのキャストとクルーが一丸となって作品を作るということが「今後増えていくと思う」と言い、「それぞれのいいところどりができるわけですから。『SHOGUN 将軍』という大きな規模の作品で、いろんな言語や文化の人たちが一丸となって作って成功したという大きな成功例があることは、ほかのハリウッドのスタジオにとっても前向きに考えるきっかけになると思います」と語った。
●シーズン2は脚本段階「完全オリジナルに」 日本での撮影も検討
エミー賞最多受賞を記念し、第1話と第2話が11月16日~23日の8日間、全国の一部劇場にて公開される。
宮川氏は「劇場公開してほしいなと思っていたのでうれしいです」と声を弾ませ、「サウンドも映像も大画面で見るべきクオリティのものなので、まだ見てない方も、一度見た方も、ぜひ足を運んで大画面ならではの迫力を存分に楽しんでいただきたいです」と呼びかける。
近年は配信作品が盛り上がりを見せているが、制作陣としては喜ばしいことだという。
「配信作品は、忙しくても自分のペースで見られますし、プラットフォームにもよりますが、高い可能性で全世界の視聴者にほぼ同じタイミングで届けることができるというのは、作り手としては本当にうれしいです。さらに配信後、SNSなどでいろいろな国で話題になるとすごくうれしいです」
配信と劇場公開のどちらがいいかは作品によって異なり、今後もどちらも盛り上がっていくことを期待している。
「私は『SHOGUN 将軍』で初めてエピソードものに携わりましたが、10話なければ伝えられないストーリーだったと思うんです。劇場で伝えるべきストーリーもあれば、10話もしくは何シーズンもかけて伝えるべきストーリーもあり、それぞれの良さがあると思います」
制作が発表された『SHOGUN 将軍』シーズン2は「現在、脚本の段階」だという。
「シーズン3は完全に決まったわけではなく、シーズン2を見て正式に決めていくことになると思いますが、シーズン3も視野に入れてシーズン2の脚本を書いているという状況です。シーズン1で原作を全部語り切ってしまったので、完全オリジナルになります。あの時代の歴史の面白さ、ドラマチックさは好きな方も多いと思うので、そこも生かしつつ、1を超えるような面白い作品になればいいなと思ってます」
真田が「一部を日本で撮影できたら」と日本での撮影の可能性を探っていると明かしていたが、宮川氏も「コロナ禍で前回全然できなかったので、日本での撮影も含め、いろいろ検討できればいいなと思ってます」と話していた。
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