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『デイアンドナイト』生みの親・阿部進之介の「受け入れる」人付き合い

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『デイアンドナイト』生みの親・阿部進之介の「受け入れる」人付き合い

●山田孝之と『クローズZERO II』後に急接近
NHK大河ドラマ『軍師官兵衛』(14)の加藤清正、『信長協奏曲』(14・フジテレビ系)の佐々成政、そして2019年4月19日公開の映画『キングダム』でバジオウを演じることでも注目を集める、阿部進之介(36)。『デイアンドナイト』(1月26日公開)は、阿部にとって「長編映画初主演」のみならず「企画」も担った、役者人生において唯一無二となる作品だ。藤井道人監督と映画愛を語り合う中で創作意欲が芽生え、そこに旧知の仲である山田孝之が「初の全面プロデュース」という並々ならぬ覚悟で参加。脚本開発に4年の歳月を費やしたオリジナル作品は、数々のハードルを乗り越えて完成へと漕ぎ着けた。

父が大手企業の不正を内部告発して死に追いやられ、家族は崩壊寸前。阿部演じる明石幸次は、そんな現実に暗澹たる思いを抱きつつ、正義と犯罪を共存させる児童養護施設オーナー・北村に魅せられ、やがては復讐心に駆られていく。善と悪はどこからくるのか。観客は、この難題と否が応でも対峙することになる。
漫画や小説をもとに実写化される「原作モノ」が全盛の中、オリジナル映画に果敢に挑んだ人々を取材する連載「オリジナル映画の担い手たち」。第7回は、『デイアンドナイト』の生みの親でもある阿部進之介の源を探る。

○■神楽坂で5軒ハシゴ酒

――『デイアンドナイト』の藤井道人監督は阿部さんのことを「とても真面目な人」とおっしゃっていました。お付き合いも長いんですか?

たぶん、8年ぐらいです。監督の映画を観たのが、2010年か2011年か……たしかそのくらいだったと思います。僕の知人が2作品に出演していたのですが、作品を観て「一緒に仕事がしたい」と思って、その知人に「一席設けてくれ」と頼んだのが知り合うきっかけです。

――「一緒に仕事がしたい」と思った方は、そうやって自ら積極的に近づくのが人付き合いの流儀ですか?

そうですね。神楽坂だったんですけど、すごくいろいろな店に連れ回されまして(笑)。
何軒ハシゴしたかなぁ。彼はコミュニケーションが苦手なタイプで、たぶん「そういう飲み方をしよう」と決めていたと思うんです。5軒ぐらいハシゴしたのかな? でも、1軒30分もいないんですよ(笑)。馴染みの店を案内してくれて、最終的に監督の家に行くという(笑)。――家ですか(笑)!?

そう(笑)。ベロベロになって、なぜか僕が出ていた『クローズZERO II』(09)を流しながら、朝方まで飲んでいました。

――そこまで飲むということは、何かの話題で盛り上がったと。

全然覚えてないですね(笑)。
もう、7~8年も前ですから。

――『デイアンドナイト』は、そういう間柄の会話から生まれたんですよね。互いにオリジナルへのこだわりが一致したんですか?

監督は常に「オリジナルで撮りたい」と思っている方です。僕はオリジナルにこだわっていたわけではなくて。何かを表現しようとしたら必ずオリジナルになるので、その点でいえば一致しました。

――そして、プロデューサーとして山田孝之さんが後に加わることに。山田さんとはそれまでどのような関係性だったんですか?

10代の時に、仕事ではなくて一緒に遊んでいる時期が少しあって。その後、『クローズZERO II』(09)で共演しました。
その頃から、時々飲みに行くようになって。

●否定してしまうと共感できなくなる

――なぜ、彼に声を掛けたんですか?

孝之をプロデューサーに、とか1ミリも思ってなくて。紙一枚にまとまらないような構想段階で、「監督と脚本を作っている」と伝えたらすごく興味を持ってくれて。あまり積極性を見せるタイプではないのでそれが意外で、監督と会う時に誘ってみたんです。彼は最初から、「出演することは考えてない」と言っていました。

――作品は、「善と悪」や「人間の二面性」を描いています。そういう重いテーマに、阿部さんも関心があったんですか?

初期の頃、僕の中で「これを表現したい」というものは固まっていなくて。監督に「お互いをもうちょっとよく知ろう」と提案をして、それまで話をしなかった、もう少し深い話……なかなかできない恥ずかしい話や昔の話とかをしながら互いの共通項を見つけていって、「二面性」や「善と悪」というテーマにたどり着きました。
僕が吐き出すものを、監督がまとめて形にしてくれたような感覚。そういう作業は初めてでした。

――それが5年前の出来事ですよね。オリジナル映画は、それだけの時間と共に人とのつながりが重要であることが分かるエピソードですね。

そうですね。月に1回ぐらいのペースで集まって、練り直して。最初の方は全然進まなくて、脚本開発が一番時間かかりましたね。合計28稿。
迷っていた部分も結構ありましたが、それだけ試行錯誤できたことに意味があるというか。満場一致ですぐに決まったものって、みんながどこに「いいね!」と感じたものか、分かりませんよね? その共通認識を持てたことがすごく良かったと思います。だから、現場で監督と話すこともほとんどなかったですね。孝之は演出に一切口を出さず、役について何か言われることもなかったです。プロデューサーとして、監督を信頼していたんだと思います。

脚本開発の段階から役作りは始まっていました。僕が明石、孝之がそれ以外の役を演じて、そこでセリフを決めていきました。役のことを考えている時間は、どのキャストよりも多くなりました。
役のことを思っている時間がどれだけあったのか。役作りにおいて、そこはすごく大事なことだと思っています。
○■人と向き合うことと役と向き合うことは近い

――所属事務所の公式サイトのインタビューで、役の気持ちを理解しようとすることを「新しく知り合った人と友だちになろうとする感覚」と表現されていましたね。2016年3月の記事ですが、俳優として今も変わらない部分ですか?

そうですね。作品の中で1人の人間として生きること。いろいろな経験を通して、そこにつながると思えたので、その手法が僕に合っていました。役に起きている出来事が、他人事ではなく「自分ごと」にならないと心は絶対に動かないんですよね。最初はその役も他人ですが、考えれば考えるほど親身になる。だんだん家族になってきて、最終的には自分のことのようになるはずなんですよね。

――明石は善と悪で揺れ動き、葛藤する役どころです。そこと向き合い続けると、日常の精神状態にも影響が出そうですね。

準備期間の段階で、明石を擬似体験するようなことはないです。撮影直前になっていくと、そこまで落とし込んでいきますが。そうしないと、ちょっと大変なので(笑)。撮影中はしんどいですね。

――役を「自分ごと」として考える。それは、プライベートでの人付き合いにも影響しているとも書いてありました。

結局、役は一人の人間。今、こうして向き合ってインタビューしてもらっていることと変わらないんですよね。会話で相手のことを理解しようとする。役の場合も同じです。普段から、対面している人を理解しようとしたり、受け入れようとしたり。自分の役は、絶対に否定しちゃダメなんですよね。否定してしまうと、役に共感できなくなる。それは現実においても同じだと思っています。

――2003年にデビューしてから、どのあたりでそこに気づいたんですか?

なんとなくはやっていましたが、俳優としての行為が実生活に良い作用があるとはなかなか思えなくて。そこがリンクしたのは、30歳ぐらいの頃だと思います。普段から、相手のことを知ろうと思ったり、受け入れようとしたりすると、人間関係もうまくいくようになりますし、新たに頂いた役もすぐに受け入れられるようになって。生き方が違う人もいるので共感できないこともありますが、理解はできる。人と向き合うことと、役と向き合うことは近いので、俳優は本当に豊かな仕事だと思います。

●映画が教えてくれた「一人では何もできない」

――30歳で何か決定的な出来事があったんですか?

いえ、特別に何かがあったわけではないんですが……「なぜ役者をやっているんですか?」と聞かれた時に、うまく答えられなかったんですよ。考えているうちに、ようやく気づくことができました。

――オリジナルの映画がなぜ実現できたのか。要因はいくつもありますが、その阿部さんの人付き合いや人生観も大きく関わっていると思います。人付き合いで心がけていることはありますか?

人には優しくありたいです。僕もそんなに人間ができているわけではないのですが(笑)。優しくできるということは、相手を受け入れて、理解をしようとしていることの表れだと思うので。相手の立場になって、初めて優しくなれることってありますよね。あくまで理想です。もちろん、僕のことを嫌いな人も世の中にはたくさんいると思います。すべての人に好かれようとは思っていませんが、相手のことはあまり否定しないようにしています。

――飲み屋を5軒連れ回されても受け入れた阿部さんは、すごく優しい方だと改めて思います。

まぁ、楽しかったので(笑)。一緒に飲みたくて、こちらから誘っているわけですからね。受け入れるスタンスで臨みました。

――私もお酒が好きで、決まった飲み仲間がいます。あまり飲まない人が同席すると、「いつも同じ話で盛り上がってるよね」と不思議がられるんですよ。

ハハハッ!

――阿部さんと藤井監督はそんなことありますか?

どうかなぁ。監督は同じ話をしているかもなぁ(笑)。彼も僕と同じでこだわりがすごくあって、お酒を飲んでヒートアップすることもありますが、彼の場合は僕の話を咀嚼して、アップデートして次回の飲みに来るんです。次、僕と会うために準備をしてくれる(笑)。だから、毎回飲むのが楽しみなんですよ。これ、絶対に言われたくないことだろうなぁ(笑)。でも、すごく好きな部分なんです。僕の言ったことをそれだけ受け入れて、向き合ってくれているんだと思います。

――貴重なお話、ありがとうございました。最後に、『デイアンドナイト』が教えてくれたことは何ですか? 人生の一部と言ってもいいほど、長い時間がかかった作品です。

「一人では何もできない」ということを、改めて教えてもらいました。本当にいろんな人の助けや力を一から感じることができたんです。通常であれば、役者は作品が整ってから現場に入らせてもらうので、作品が整うまでの苦労をあまり感じられません。それをたくさんたくさん感じた期間ですし、一番最初に加わってくれた孝之をはじめ、たくさんの方が賛同してくれて、僕らの思いついたこと、やろうとしていることを肯定して、力を貸してくれた。それがなかったら、実現できていません。今回だけじゃなく、人生においては何事も「一人では何もできない」。そう、強く感じます。「ご縁が大事」とも言われますが、それは役者だけでなく、人としても大切にしていきたいです。

■プロフィール
阿部進之介
1982年2月19日生まれ。大阪府出身。2003年に俳優デビュー。2004年の『超星神グランセイザー』(テレビ東京系)で注目を集め、近年は『軍師官兵衛』(14・NHK)、『信長協奏曲』(14・フジテレビ系)、『下町ロケット』(15・TBS系)、『BG~身辺警護人~』(18・フジテレビ系)などのドラマ、『クローズZERO II』(09)、『BADBOYS』(11)、『罪とバス』(15)、『栞』(18)などの映画に出演。2019年時4月19日公開の映画『キングダム』ではバジオウを演じる。

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