伊礼彼方、藤井隆になら「身を委ねても…」異色タッグのアルバム語る(前編)
●お世話になっているミュージカルの楽曲を
数々の舞台に出演し、現在は全国ツアー公演中のミュージカル『レ・ミゼラブル』でジャベール役を演じている俳優の伊礼彼方が、ミュージカル・カバー・アルバム『Elegante』を発売した。実はこのアルバム、お笑い芸人の藤井隆が2014年に設立した音楽レーベル「SLENDERIE RECORD」から発売されており、プロデュースも藤井が行なったという異色のアルバムとなっている。
今回は、なぜ藤井プロデュースによるアルバムが発売されたのか、そして伊礼の俳優・ミュージカルへの思いについてインタビュー。前・後編に渡ってお届けする。
○■恩返ししたい、という思い
――舞台の会見などでも、お芝居が大事というお話をよくされているので、伊礼さんが歌のCDを出されるというのは、実は少し意外なように思いました。
自分の本業が役者である、という思いは変わらないです。今出演している『レ・ミゼラブル』も全部音楽で構成されているミュージカル作品ですが、ただ歌うだけでは、誰がやっても同じになってしまいます。どれだけ芝居を掘り下げられるか芝居としての歌を常に追求しています。
ただ、もともと音楽畑の人間で挫折した経験があり、ミュージカルを始めてからはあえて歌手活動はしてこなかったのですが、応援してくださる方から「歌う伊礼も見たい」「ライブをやってほしい」という声は聞こえていたんです。僕はこれまで聞こえないふりをしていたんですけど(笑)、色々と経験を重ねて、そろそろそういう声に応えていきたい、恩返ししたい、という思いが強くなっていきました。そこでCDを出すなら、とことんお世話になっているミュージカルの楽曲で、と思ったんですが、まさか藤井隆さんプロデュースで出させていただくとは……。
実は、藤井さん曰く「SLENDERIE RECORDはダンスミュージックレーベル」だそうで。でも、ミュージカルにはダンスも含まれているという意味で、つながりを持たせていただきました。
――「最後のダンス」(『エリザベート』)も入っていますし。
「We Were Dancing」(『アンナ・カレーニナ』)もありますから!(笑) また藤井隆さんのおかげで、いろいろな方が「なんで藤井さんプロデュースで!?」と興味をもって下さるので……毎回毎回、説明しなきゃいけないんですけど(笑)。――ぜひ今回もご説明をお願いできると嬉しいです!
藤井さんとは、舞台『KOKAMI@network vol.13 「朝日のような夕日をつれて2014」』で共演してから、仲良くさせていただいています。
あるとき唐突に「いつか椿鬼奴さんとデュエットしてほしい」と言われて、話半分で……いや、本当はすごく期待して「いいですよ」と言ったんですが(笑)。それが実現したのが4年越しでで、去年、椿さんのデビューアルバム『IVKI』で「偽りの新銀河」というデュエットソングをご一緒することができました。
その際に、藤井さんが鼻歌で作った曲を堂島さんにそのまま送ったという話や、レコーディングで出会ったスタッフさんの様子からも、純粋に音楽が好きで携わってる感じや、大の大人が真剣に遊んでる雰囲気が素敵だなと思って「こういうところだったら自分の身を預けてもいいのかな」と、心惹かれました。今まで、自分の身を人に預けることを一切拒絶してたんですけど、少しずつ大人になって、良い方々と出会うことも多くなって、そろそろ身を委ねてみてもいいのかな? と。
●公演中『レ・ミゼラブル』ジャベール役にかわいさ?
――今回のアルバムを出すにあたって、藤井さんとのやりとりでは、どんなところが印象的でしたか?
もう、こだわりのビジュアル撮影ですね。第一声が「ビジュアルは任せてもらってもいいですか」だったので(笑)。藤井さんが言うには、僕は撮影すると「写真が決まりすぎる」そうで。だから今回のジャケットでは、カメラマンさんにも指示を出して、”決め”と”決め”の間の顔を撮ってくださったらしいです(笑)。
「伊礼彼方」という文字のロゴも藤井さんのこだわりで、オリジナルフォントを作ってくださったんです。実は今まで、自分の名前の漢字があまり好きじゃなかったんですよ。バランスが難しくて、うまく書けない。画数も少ないし、改名しようかなとか、カタカナにしようかなとか相談したら、藤井さんが「何言ってるんですか伊礼さん、こんな綺麗な名前はありませんよ! 斜めのラインがいっぱいあるところがいい」と言って、フォントを作ってくださったので、好きになりました(笑)。
――インストアライブイベントなどでの特典写真も、気になりますね。これはどういうシチュエーションで…?
特典ポストカードは全部で3種類あるんですが、イベント用にお渡しするカットは「おぼっちゃま、初めての独りしゃぶしゃぶ」というテーマで、しゃぶしゃぶの食べ方を教わってる瞬間を撮られました(笑)。ホントは休憩時間に食事をするだけの予定だったんですけどね(笑)。自分自身としては、いつも硬派な感じが多いのでシャツは胸元を開けて……というのが定番のイメージだったりするんですけど、自分に無い部分をたくさん引き出してもらいました。
藤井さん一推しのこの写真は人気ですね。
――今出演されている『レ・ミゼラブル』からは想像できない姿ですね。でも、伊礼さんのジャベールについて、「市長を信じていてかわいい」という感想もよく見ますよね。
僕は、ジャン・バルジャンとマドレーヌ市長が同一人物だと気づいていない、という解釈をしてるんですが、これは原作通りなんです。原作ではジャベールが市長をずっと疑っていたのに、一度「違う」と思って、謝罪して辞表まで出すんですが、その流れはミュージカルでは描かれていない。なので、どちらの解釈を取ろうかと迷ったんですが、立場が逆転していくことにドラマ性があるのかなと思ったので、裁判所で「24653」と告白された時に「えっ、なんで!?」と唖然とする演技プランにしました。エポニーヌの歌詞にも出てきますが「あの警官はいつでもドジ」なので、他人から表現されるその人物像も受けて、役作りしてます。
――そこがかわいく見えるんですね。
僕の計算勝ちですね(笑)。
――今回、アルバムでもジャベールのナンバーである「スターズ」のスペイン語バージョン(「Estrellas」)を歌われていますが、舞台上と気持ちは違うものですか?
CDでは役というよりも「歌」に意識を集中しているので、今、舞台上で歌っている「スターズ」とは全く違う印象になっていると思います。ささやかずに、スペイン語で、音を響かせるように歌っていますし、僕が見たマドリードバージョンの『レミゼ』のように、エネルギッシュな力強さを目指しました。
――舞台上とはまた別の「スターズ」が楽しめるということですね。
そう思っていただけたら嬉しいですね。「舞台で見たスターズじゃない!」と言われたらつらいですけど(笑)。そこはあえて両方を楽しんでいただけたら!
■伊礼彼方
1982年2月3日生まれ、神奈川県出身。幼少期はアルゼンチンで過ごし、横浜へ。
中学生の頃より音楽活動を始め、2006年にミュージカル「テニスの王子様」佐伯虎次郎役で舞台デビュー。その後『エリザベート』(08、10)、『アンナ・カレーニナ』(10、13)、『スリル・ミー』(14)、『グランドホテル』(16)、『ピアフ』(16)、『王家の紋章』(16、17)、『ビューティフル』(17)、『ジャージー・ボーイズ』(18)。現在『レ・ミゼラブル』(7月大阪、8月博多、9月札幌)に出演中。2020年には『ミス・サイゴン』エンジニア役が決定。