唐沢寿明、後輩・竜星涼に“さわやか”継承!? イメージに葛藤した過去も
●『トイ・ストーリー』声優として大事なこと
個性的なおもちゃたちが繰り広げる冒険をフルCGアニメーションで描き、世界的なヒットを飛ばした映画『トイ・ストーリー』から22年。シリーズ4作目となる『トイ・ストーリー4』が、7月12日に日本公開を迎えた。主人公でカウボーイのおもちゃ・ウッディの日本語吹き替えを1作目から務めてきた唐沢寿明と、本作で自分をゴミだと思い込んでいる新キャラクター・フォーキーの吹き替えを務めた竜星涼にインタビューを行い、アフレコの舞台裏や「見る子どもたちを成長させる」シリーズの魅力について語ってもらった。
○■久しぶりのウッディに苦戦「なかなかテンションが…」
――まず唐沢さんにお聞きしたいのですが、ウッディとの再会はいかがでした?
唐沢:最初は久しぶりだったから、うまくいかなかったんですよね。なかなかテンションが上がらず…って言うの? 自分はテンションを上げていたつもりだったんだけど、実際は「あまり上がっていない」と言われて。何度か聞き直したら「あれ? 上がっていないな」って。「自分はもっとこういうテンションでやったつもりなのに、声がちょっと違うなあ」と感じていました。
――ディズニーやピクサー作品では、息遣いまで細やかな演出があると聞きました。
唐沢:それよりも、感情やセリフの意味をちゃんと相手に伝えるようにしゃべるとか、そういうことを大事にしている。
――竜星さんはオーディションでフォーキー役を勝ち取ったわけですが、改めてどんな気持ちでしたか?
竜星:素直にうれしかったですね。『トイ・ストーリー』はいつの間にか僕も見ていて、一緒に育ってきました。そういった作品の続編で、ありがたいことに、こういう仕事をさせていただけて。「こういうこともあるんだなあ」と思いました。
――本作のアフレコを経験したことは、ご自身にとってどんな面でプラスになりましたか?
竜星:お芝居をやっているときは、セリフが聞き取りやすい方が録音部さんにとっては良かったりすると思うんですけど、逆にストレート過ぎても面白くなかったりするんです。ただ、声優のお仕事になると、聞き取りやすいことが絶対なんですよね。ちょっと濁っていて面白味があるようなものはあまり必要がない。
でも、それを聞き取りやすいもので表現していく奥深さがある。そういうところは、すごく新しい発見になったというか、挑戦させていただけたなと思いました。
○■ピクサー作品は「見ている子供が大人になるまで成長させる」
――前作のラストで、ウッディたちは大学生になったアンディからボニーに譲り渡されました。本作では、ウッディが環境の変化に対して戸惑う様子も描かれていて、大人っぽいストーリーだと感じられます。
唐沢:『トイ・ストーリー』は1作目から、ちゃんと見る子どもたちを成長させる話になっているでしょう? おもちゃで遊んでいた子が大学生になったら、もうおもちゃを持たないだろうとか。「皆、ちゃんと大人になろうね」という話なんだよね。今回の『トイ・ストーリー4』では「自分で自分のことを選ぶ」という話が描かれている。だから、ちょっと大人っぽい話になっているんだよね。
――新キャラクターであるフォーキーの存在にも、考えさせられるものが多いです。
唐沢:フォーキーを登場させることで「おもちゃはいつも、買い与えられて遊ぶものじゃなくて、自分で想像力を働かせて、近くにあるもので作ったりするんだよ」ということを教えている。ディズニー/ピクサーのすごさっていうのは、そこなんだよね。何かを作って「すごいだろ!」と言うんじゃなくて、見ている子供たちが大人になるまでちゃんと成長させる物語になっているんだよね。
竜星:おもちゃじゃなくても、何かしらを作る。それをおもちゃという風に取り上げるというところ、その発想力が単純にすごいですよね。「確かにそうだよな」って思うんです。自分もそうだったろうけど、小さいときに作ったものって、自分からしたらおもちゃと言っても過言じゃないものだったと思うし。
唐沢:消しゴムをずっといじっているだけでも、遊びだったんだからね。ずーっと回してたりするじゃない(笑)。子どもって持っているもので何かするんだよね。いつも与えられているだけでもダメだし、おもちゃ側から見ても持ち主がいなきゃダメだっていうところから自立していくわけだから、大人が見ても思うところは、きっとあるんじゃないかな。
●唐沢寿明から竜星涼へのアドバイス
○■「本気なのか冗談なのかわからないアドバイスをくださる」
――竜星さんはまさしく、子どもの頃から『トイ・ストーリー』を見て育ってきた世代ですよね。ウッディはフォーキーの先輩のような存在ですが、今回は事務所の先輩である唐沢さんから、どんなことを教わりましたか?
竜星:アフレコ自体は、僕が最初にやって出来上がったものの後に唐沢さんが収録される形だったので、一緒にセッションすることはなかったんですけど、前作や他の作品を見直したりして、自分の中でイメージなどを作りながらやりました。
――フォーキーがウッディに懐くように、唐沢さんに懐いたりは?
唐沢:それはないでしょ。キャラ的に(笑)。
一言、言ったことがあったよな。スタジオで会ったときにさ。「お前、とことんさわやかに行けよ」って(笑)。それだけは言っておいた。
竜星:たまにお会いしたときに、本気なのか冗談なのかわからないアドバイスをくださるんですよ。それが意外と、こういう人間には染みるんです。
――唐沢さんも、一般的には「さわやかな好青年」というイメージがありましたよね。
唐沢:別に俺は悪人じゃないけれど、そういうイメージを100人中100人にずっと持たれると「そこまでさわやかな好青年じゃない」と思う。
皆、そうじゃない? それ(=イメージ)との葛藤で生きることになるわけ。俺なんて、やっと最近だもん。それに慣れてきたの。一般の人もそうだけど、会う人会う人が、そうだと思って接してくるから。そのプレッシャーもどこかにあったりするわけだよ。何を言っても怒らない人とか、何やってもニコニコしている人みたいな感じで接してくるから、こっちはそれに応えなきゃいけない(笑)。
竜星:ある種、エンターテイナーですよね。
唐沢:それはもう、仕方がないんだよ。
そういう風に見えちゃって、周りが勝手にイメージを作っちゃってるんだよね。
――竜星さんはそういったギャップに悩んだことはありますか?
竜星:そこまで自分が好青年だと思っていないからこそ、周りもそんなに好青年だと思っていないんじゃないかなとか(笑)。そういうところを、唐沢さんは「それじゃよくないぞ」って…。
唐沢:よくないぞじゃない(笑)。そこが悪いわけじゃないよ(笑)。
○■「ウッディ」というセリフを言える喜び
――4作目に至るまで吹き替えを務められてきたので、日本では「ウッディと言えば唐沢さん」というイメージが浸透しています。唐沢さんはその現実をどう捉えていますか?
唐沢:もしかしたら、1作目で終わってたかもしれない。僕も最初はオーディションで選ばれているわけだから、偶然と言えば偶然の話なんだよね。4作目までできて、アトラクションもできたり、いろいろなこともあった。「『トイ・ストーリー』が好きです」という人がこんなに増えた。そういう意味では、ありがたいと思いますね。
――そんな唐沢さんとの掛け合いが多い竜星さん、フォーキーのセリフで印象的なものはありますか?
竜星:台本をパッと開いて単純に感動したのは、「ウッディ」というセリフを言えることですね。シリーズをずっと見てきた人間が、その世界観に入って「ウッディ」と呼べている。『トイ・ストーリー』だからこそ言えるセリフじゃないですか。それはうれしい限りでしたね。
――それを聞いて唐沢さん、いかがですか?
唐沢:そう思っているんだなあって(笑)。今は別の作品をやっているから、久々にこの『トイ・ストーリー』に戻ってきてイベントに出たときに「あ、俺『トイ・ストーリー』のウッディをやっているんだな」と。「一瞬戻ってきた」みたいな感じなんですよ。竜星とかの立場からすると、こういうヒットしたアニメーションの世界に入れることで、すごく盛り上がってくるところがきっとあると思う。どう考えたって残る作品だからね。
■プロフィール
唐沢寿明
1963年6月3日生まれ、東京都出身。1980年に「東映アクションクラブ」の一員となり、俳優としてのキャリアをスタート。スーツアクターや裏方も務めた後に、ドラマ『愛という名のもとに』(フジテレビ/92)で一躍人気俳優に。『トイ・ストーリー』シリーズでは、1作目から主人公・ウッディの日本語吹き替えを務めている。最近の出演作は映画『ラストコップTHE MOVIE』(17)、ドラマ『ハラスメントゲーム』(テレビ東京/18)、『グッドワイフ』(TBS/19)など。7月に放送開始となる新ドラマ『ボイス 110 緊急指令室』(日本テレビ)では、妻を殺した犯人への復讐に燃える敏腕刑事を演じる。
竜星涼
1993年3月24日生まれ、東京都出身。『獣電戦隊キョウリュウジャー』(テレビ朝日/13)でドラマ初主演、『劇場版 獣電戦隊キョウリュウジャーガブリンチョ・オブ・ミュージック』(13)で映画初主演を務めた。最近の出演作には、映画『N.Y.マックスマン』(17)、『君と100回目の恋』(17)、『泣くな赤鬼』(19)、ドラマ『ひよっこ』(NHK/17)、『昭和元禄落語心中』(NHK/18)、『メゾン・ド・ポリス』(TBS/19)、『都立水商!~令和~』(TBS/19)などがある。183cmの長身を活かし、モデルとしても活動。2016年・2017年にはパリ・コレクション、2018年にはミラノ・コレクションに登場した。