田中圭は受け芝居、林遣都は憑依型…『おっさんずラブ』監督&脚本家が見た役者の力
●愛らしい春田に成長していった
モテない独身ダメ男・春田創一(田中圭)と、誰もが憧れる理想の上司・黒澤武蔵(吉田鋼太郎)、イケメンでドSな後輩・牧凌太(林遣都)の三角関係をピュアに描き、異例の人気を博したドラマ『おっさんずラブ』が、『劇場版おっさんずラブ ~LOVE or DEAD~』として、現在公開中だ。劇場版ではさらに、新たに沢村一樹演じる天空不動産の狸穴迅、志尊淳演じる新入社員の山田正義(ジャスティス)が加わり”五角関係”が勃発、アクションシーンや爆破シーンなど、スケールも拡大している。
今回は、瑠東東一郎監督と、脚本を手がけた徳尾浩司氏にインタビュー。作中のキャラクター宛らに仲良し!? な2人が劇場版に込めた想いや、役者への印象について、話を聞いた。
○■愛情が深まったことで発生する問題もある
――ドラマ版が非常に話題になり、田中さんも映画のイベントで「ドラマ版を超えなければやる意味がない」とおっしゃっていましたが、超えていくためにスタッフはどのような話し合いをしたんでしょうか?
徳尾:連ドラのときは、恋愛ドラマとして「完璧に終わらせよう」という意気込みでやっていました。続きを匂わせずに、全力で完璧に終わらせるんだ、という思いだったのですが、映画化という話が来て、嬉しいけど「うわ、どうしよう!」と(笑)。でも、ドラマ版でのプロポーズをなかったことにはしたくなかったので、みんなで話し合った結果、ドラマの続きを描くことに決めました。仕事も充実してくる30代で、結婚という転換期を迎えた時、そこで起こりうる様々な葛藤を、現代社会に照らし合わせながら描く意味があるのではないかと思ったのです。
瑠東:連続ドラマで春田と牧の関係は、燃え上がる様な疾走感の中で最後プロポーズという形で終わるわけですが、そこから1年経つと、より愛情も深まるし、深まったことで発生する問題もある。例えば嫉妬や言葉の裏側など、相手を思いやるがあまりに、とか、関係が深くなったからこそ滲み出る感情があって、それは燃え上がっていたときの感情とはまた違うと思うんです。
――でも確かに、予告で見た時にアクション成分が多めなのかと思いきや、2人が一緒に暮らすことの機微が描かれていましたよね。
徳尾: はい。アクションも良いですが、暮らしも大切にしたかった部分です。――今回は、春田がなんでも状況を受け入れるので、改めてすごいなと思いました。記憶喪失になった部長の想いも否定しないし、狸穴のホテルのシーンも、勝手に謎の覚悟を決めていて心配になるくらいで。
徳尾:春田はスポンジみたいな人で、来るもの拒まず、まずは受けてみようというスタンスなんです。
もちろんしっかりしているところはあるし線引きはあるんですけど、考える前に飛び込んでみようというのは彼のいいところであり、やりすぎなところでもあり(笑)。
瑠東:圭くんの「受け芝居の上手さ」と春田の「巻き込まれ型受け入れタイプ」は凄く相性が良くて。徳尾さんのキャラクター描写は絶妙でしたよね。
徳尾:単発版の時の春田は、わりとアグレッシブなキャラクターなんです。でもその放送を見て「この人はとても受け芝居が魅力的なんだな」と思いましたし、連続ドラマではその魅力がより活かされたキャラクターになっていったと思います。
瑠東:愛らしい春田に成長していきましたよね(笑)。
徳尾: はい、キャラクターの成長や変遷もとても面白いと思います。
●林遣都が牧凌太という役をまとっているだけで絵になる
――牧にも、そういう調整はあったんですか?
瑠東:実は、1番難しい役ですよね。
連ドラ、映画と、作品の中でもより純度の高い愛情が強まっていきましたし。
徳尾:連ドラでは、牧凌太という人が、春田と出会ってどう成長していくべきなのか、プロデューサー陣ともたくさん話し合いました。林さんは、その人がその場にいるかのように演じられる”憑依型”の役者さんだと思うので、こちらの描く牧凌太という人物像が明確ならば、より素敵に演じてもらえるという期待感がありました。作り手に「過剰な表現はいらない」と思わせてくれる人であり、林遣都が牧凌太という役をまとって息をしているだけで、絵になる役者さんだと思いました。
瑠東:徳尾さんの書く牧のセリフって、すごくシンプルなんですよね。だからこそ難しい。牧が春田に抱く愛情がこの作品の生命線とも言えるわけで。それを遣都くんも痛いほど感じ取ってくれていたからこそ、あんなに繊細な芝居で表現してくれた。
そして、その感情には本当に嘘が無いんです。そんな彼がいてくれたからこそ、作品に大きな軸が持てた。だから振り幅の一つとしてコメディの面白みも足していけたんだと思います。――コメディという部分では、映画らしいアクションも満載でしたよね。
徳尾: 会話劇としての面白さを大事にしたいと思う一方で、『おっさんずラブ』はコメディでもあるし、せっかくお金を払って映画を見に来てくださるので、スクリーンならではの楽しさも追求したいと思っていました。僕と瑠東さんはわちゃわちゃすることを考えがちなんですけど、プロデューサー陣にはいたって冷静に「それって必要ですか」と、指摘されることも(笑)。
瑠東:帰りに2人でランチに行って反省しましたね。
徳尾:プロデューサー陣はとても冷静で論理的で正しい。
僕らはそこをどうやったら説得できるか考えていました。「キャラクターの想いが溢れてね、爆発です」みたいにこじつけたり(笑)。
瑠東:愛情とコメディのバランスが大事な作品なので、ボケ要素も必要じゃないですか。「なんで『おっさんずラブ』で爆破やねん、不動産の話やろ」というツッコミ待ちの、壮大なボケをする感じ(笑)。
徳尾:冒頭の香港ロケのシーンは、監督ともども「アクションがやりたい」ということだったんですけど、それは感覚的な欲求であって、本当に必要かと言われたらこちらも考えざるを得ない。
瑠東:「路地裏にカンフーのおじさんって、何?」となるところを……。
徳尾:「……メタファーです」って(笑)。
○■春田と牧の時間の積み重ねを伝えたかった
――おふたりは監督と脚本家という関係ですが、互いに「こう来たか」と思ったところはどこですか?
徳尾:瑠東さんは昔から面白いシーンを撮り逃さない人ですが、今回は恋愛のシーンで、すごくドキっとしました。
橋の上で春田と牧の仲睦まじいシーンがあって、その後「じゃあね」と別れるわけですが、お互い振り返って見合うくだりがある。あれ、瑠東さんそういう演出する人だっけ、新しい恋愛でも始めたのかなって思いました。
瑠東: いやいやいや(笑)。あのシーンの春田と牧の時間の積み重ねがあったことによって、ラストシーンの2人につながっていったことを伝えたかったんです。そこにも注目して観ていただけたらうれしいですね。
逆に僕が、徳尾さんに「よくこんなこと思いついたな」と思ったのは、サウナでの部長の告白シーン。ここは部長の感情が溢れて爆発するんです。この”振り”のセリフがうまい。
あとは、ジャス(志尊淳)の過去がわかるシーン。ここの表現の仕方は、ジャスティスのキャラクター造形も踏まえて凄く素敵なセリフだなぁと思いました。
徳尾:志尊くんの、目で全てを語れてしまうお芝居にはとても引き込まれました。
――そういう、役者のみなさんの力については、どのように感じていらしたんですか?
徳尾:もちろん、これまでにもご活躍されている方々ですけど、やっぱり根底の芝居力がすごい。本当に、見ているのが楽しいです。また瑠東さんの演出も大きくて、どの程度のリアルさでやるか、なんていうさじ加減を決めるのは監督なんですが、そこに信頼があるから安心して書ける。たとえば、あるシーンをすごく大げさに書いても、こちらの想像するリアルなトーンに落とし込んでくれるだろうと。その呼吸がとても合っていると感じます。
瑠東:関係性があるので、信頼して書いてもらっているのは感じます。脚本、監督、俳優と言うこの流れに深く信頼関係があって、だからこそ生まれた芝居なんだと思います。実は2016年の単発版に、徳尾さんも出ているんですよ。
徳尾:トナカイの着ぐるみで喧嘩するシーンで(笑)。クランクインの時に、「田中圭さんです!」「吉田鋼太郎さんです!」「徳尾浩司さんです!」と言われた時に、吉田さんが「えっ!?」という顔で見ていたのを覚えています。「なんで脚本家がいるんだ!?」と(笑)。
瑠東:あのシーンをクランクインで撮る事にはある種のリスクもあったんです。でもあれはこの作品を象徴する一つのシーンだったし、僕らの作る雰囲気というか、「空気」みたいなものを最初に理解して頂く事が重要だったので。あのシーンを撮ったあと鋼太郎さんに「これは面白い!」と言って頂けたのが凄く嬉しかったですし、はるたんと部長の関係性はあそこから生まれた様な気がします。
徳尾:単発版のときから、役者の方々のおかげで作品がなり立っているというところは、思いが変わらないです。
■瑠東東一郎
1979年3月20日生まれ、兵庫県出身。これまでにバラエティ番組や、『黒い十人の女』(16)、『僕たちがやりました』(17年)、『オトナ高校』(17年)などを手がけ、映画『劇場版 新・ミナミの帝王』(17年)で監督を務める。18年には『おっさんずラブ』で、第97回ザテレビジョンドラマアカデミー賞 監督賞を山本大輔、Yuki Saitoと共に受賞。
■徳尾浩司
1979年4月2日生まれ、大阪府出身。ドラマや舞台の脚本・演出を数多く手掛け、映画脚本作に『探検隊の栄光』(15年)、『ホーンテッド・キャンパス』(16年)、『走れ!T校バスケット部』(18年)がある。18年には、『おっさんずラブ』で第97回ザテレビジョンドラマアカデミー賞脚本賞を受賞した。