奥様はコマガール (34) 妻の無駄遣いは食器にあり
我らは共働きのため、家事を夫婦で分担しており、食器の洗い物に関しては基本的に僕が担当している。
中でも特に目を引くのが、コップ類と小さなスプーン類の多さである。
僕は小さなスプーン類を滅多に使わず、コップも毎日ひとつしか使わないため、そのほとんどがチーが使用したものであることはあきらかだ。
毎回の食器洗いのたびに、使用済みコップとスプーンが、それぞれ平均5個ずつぐらい流しの中で発見されるわけだ。
うーん、これはいったいどういうことだろう。
スプーン類はたぶん料理に使ったのではないかと推測できるのだが、コップに関してはまったく解せない。
チーは一人しかいないのに、なぜにそんなに何種類ものコップを使うのだろうか。
というわけで、チーをじっくり観察した。
観察スタートは夕飯後の食器洗いが終わってからだ。
つまり、この時点で家に使用済みコップやスプーンがひとつもない状態である。
その日の夕飯後、チーはソファーでくつろぎながらテレビを観ていた。
すると途中で立ち上がり、冷蔵庫に向かった。
中から冷えたウーロン茶を取り出し、洗いたてのコップになみなみと注ぐ。
そしてウーロン茶入りのコップを持ったままソファーに戻り、その後は再びテレビ鑑賞に没頭。
これにて、ひとつ目のコップを消費したことになる。
その後、チーはテレビに飽きたのか、パソコンの前に移動し、ネット遊びを始めた。
ウーロン茶のコップはまだ半分残っているものの、ソファーのそばに置きっぱなしだ。
ほどなくして、チーが再び立ち上がった。
今度はキッチンの調理台の脇にある梅酒のボトルに手をかける。
そして新たなコップを取り出し、梅酒のロックを作り出したのだ。
チーは梅酒を飲みながら、しばらくネット遊びに興じた。
そして飽きると、今度は風呂に入った。
もちろん梅酒入りのコップはパソコンの脇に置きっぱなしである。
中身も半分以上残っている。
ウーロン茶に続いて、ふたつ目のコップ消費とコップ放置だ。
数分後、風呂からあがってきたチーは、今度は冷蔵庫から牛乳を取り出し、それをマグカップに注いだ。そしてレンジでチンをして、即席のホットミルクを作る。
チーは寝る前にホットミルクを飲む習慣があるため、特に珍しい光景ではない。
しかし、問題はこのホットミルクさえ、最後まで飲まなかったことだ。
チーはホットミルクを六割程度飲んだあと、そのマグカップをダイニングテーブルの上に置き、再びパソコンの前に座った。
どうやらネット遊びの後半戦が始まったようだ。
さっきの梅酒を飲むのかな? そう思って注視してみたものの、チーはそれにも手をかけなかった。
もちろん飲み残したウーロン茶にも目もくれず、一心不乱にキーボードを叩いている。
きっとフェイスブックなどを通じて、誰か友達と交信しているのだろう。
何がおもしろいのかはまったくわからないが、なぜか薄ら笑いを浮かべていた。
いつのまにか深夜2時ごろになり、そろそろ寝ようという段になった。
チーはテレビやパソコン、部屋の電気などをすべて消し、いよいよ寝室に向かう。
結局、ウーロン茶のコップも、梅酒のコップも、ホットミルクのマグカップも、すべて飲み残したまま、部屋のあちこちに放置されている。
夜の食器洗いが終わったあとの短時間で、一気に3つもコップ類を消費するとは、なかなかいい度胸である。
これを洗うのは僕なのだ。
すると、チーは寝室に向かう途中で、はたと足を止めた。
何かを思いついたように高速回転で踵を返し、再びキッチンに戻る。
いったい何をするのかと僕が観察していると、チーは寝る前の水分補給とばかりに冷蔵庫からウーロン茶を取り出し、それを”また新たなコップ”に少しだけ注ぐと、一気に飲み干した。
なんと、もったいない使い方だ。
僕は唖然とした。
ウーロン茶なら、ソファーのそばに置いたままのコップにまだ入っているじゃないか。
まずは、それを全部飲みきろうよ。
そんな僕の気持ちも露知らず、チーは消費したコップを悪びれることなく流しの横に置き、そのまま就寝と相成った。
僕は仕方なく、残された計4つの使用済みコップ類を再び洗う。
片付けに関してはコマボーイの僕だけに、コップ類が放置されたまま寝るわけにはいかない。
しかも、どこでどう使ったのか見落としてしまったが、使用済みの小さなスプーンまであった。
もしや梅酒のロックを作ったときに、かきまぜで使ったのだろうか。
話はこれで終わらない。
その翌朝、僕が起きると、チーはすでに会社に出かけていた(チーのほうが朝が早いのです)のだが、リビングに使用済みのコップ類が3つも放置されていたのだ。
しかも、スプーンも2つ使用されていた。
コップに残った形跡を見る限り、チーが飲んだのはウーロン茶、カフェオレ、そして再びウーロン茶だ。
スプーンのひとつはきっとカフェオレを作る際に使ったのだろうが、もうひとつはいったい何に使ったのか。
ヨーグルトでも食べたのかもしれない。
いずれにせよ、僕はまたも食器洗いを開始した。
なんだか一日中、コップを洗っている気がする。
もっと効率的な使い方があるはずだと思うのは、僕だけだろうか。
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