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奥様はコマガール (35) 悩める薄毛男子に訪れた奇跡(1)

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奥様はコマガール (35) 悩める薄毛男子に訪れた奇跡(1)
最初は気のせいだと思った。

錯覚だと思った。

だから眉に唾をつけながら、それを何度も入念に確認した。

すると、ほどなくして事実に違いないと確信した。

あろうことか、頭髪が増えてきたのだ。

奇跡だ。

こんなことが現実に起こりうるのか――。

現在35歳の僕が薄毛に悩んでいることは、以前から本連載でも散々書いてきたが、まさかそれに改善の兆しが見えるとは夢想だにしていなかった。


正直、ついこないだまでの僕は諦めかけていたのだ。

薄毛の進行が止まらないのなら、いっそのこと丸坊主にしようとタイミングを計っていた。

しかしそんな中、最後の悪あがきよろしく、ひとつだけ続けていた細やかな増毛対策があった。

それは昨年の夏ごろ、近所の美容院で勧められた某育毛剤だ。

その日、すっかり萎れた髪をいつものようにカットしてもらっていた僕は、担当の男性美容師に思いきって薄毛の相談をしたところ、こんな答えが返ってきた。

「山田さん、実はいい育毛剤がありましてね……」。

その男性美容師は、僕を誘惑するように耳元で囁いた。

「○○(某化粧品メーカー)が独自に開発した育毛剤なんですけど、一般には流通していなくて、一部の美容院でしか手に入らない商品なんです」。


「ほう、つまりプロ仕様ということですか? 」「そういうことです。

だから、ちょっと高いんですよね。

1本6,000円はします」「わっ、高いですね」「だけど、売れてるんですよねー。

美容院にしか流通してないから、そもそも数が少なくて、うちも一度に5本しか入荷できないんですけど、すぐに売り切れちゃうんです」。

このへんは市場のおもしろいところだ。

未曾有の不況によるデフレが目立つ昨今であるが、品質が良ければ少々値段は高くても売れるものだ。

逆に考えれば、不況で無駄遣いを抑えたいからこそ、「安物買いの銭失い」にはなりたくないという心理も働くのだろう。

「メーカーもよっぽど商品に自信があるんでしょうね。


じゃないと、こんな不景気に1本6,000円なんて値段をつけませんよ」。

男性美容師は悪戯な笑顔でそう言うと、一転して表情を硬くした。

「まあ、別に無理に勧めているわけじゃないですけどね。あくまで、ひとつの情報提供なんで、山田さんの参考になればいいなって思っただけです」「はあ……。

あ、ありがとうございます」「ちなみに、今うちには最後の1本が残ってますけどねー」「へえ」。

結局、その最後の一本を買った。

一般流通していないプロ仕様の高級育毛剤、数が少ない稀少品、一本6,000円もするのに飛ぶように売れている、メーカーもよっぽど自信をもっているはず……。

そんな露骨なセールストークが、そのときの僕には甘美な旋律となって脳内に響いていた。


要するに、男性美容師の戦略にまんまとはまったのだ。

なお、具体的な商品名を書くと色々と面倒なことが起こりうるので、その育毛剤の詳細については伏せさせていただく。

そもそも、こんな冗談みたいなエッセーに有益な情報性を求めている読者もいないだろう。

モットーは娯楽読み物100%です。

話を戻す。

とにかく、その育毛剤が効果を発揮したとしか思えない。

使い始めて数カ月はまったく変化がなかったものの、去る2月の中旬ぐらいから、少しずつ、本当に少しずつだが、確実に頭髪の様子が変わってきた。

最初は増毛というより、一本一本の頭髪が元気になってきたという感覚だった。


特に風呂上がりの濡れ髪なんか、如実な変化だ。

今までは「おまえはもう死んでいる」と容赦なく宣告されたかのような、艶も生気もまったくないヘナッとした濡れ髪だったのだが、それが見事に蘇生された。

濡れ髪全体が見違えるほど艶やかになり、それぞれが昔懐かしいハリとコシを取り戻してきたのだ。

そう、憧れのハリとコシである。

薄毛の悩みと聞くと、多くの人は抜け毛だけを想起してしまいがちだが、問題はそれだけではない。

ただでさえ少なくなった毛髪から、追い打ちをかけるようにハリとコシが失われるということも、深刻な事態なのである。

これだけでも、ずいぶん髪が増えたように見えるから不思議だ。

それぞれが太くたくましくなったから、密度が濃くなったように感じるのだろう。


電車の長椅子にデブが並んで座っていると、4人ぐらいで6人分のスペースが埋まるのと同じ理屈である。

さらに驚くべきことに、最近になって毛髪の本数自体も少しずつ増えてきた。

頭の地肌を触ってみると、よくわかる。今まで不毛地帯だった寂れた場所から、新たな毛髪の芽生えを感じるのだ。

地肌に触れた指先が、ちくちくと嬉しい悲鳴をあげるのだ。

いやはや、本当に胸が躍った。

血がたぎった。

生き返ったとはこのことだ。


これがどれぐらいの喜びかというと、調子に乗って筆を走らせすぎたため、一回分の文字量では最後まで書ききれなくなったぐらいである。

この増毛の奇跡は、まだまだ続くのだ。

というわけで、次回もお付き合いください。

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