奥様はコマガール (38) 夫の祖父と核家族育ちの妻
だいたい90歳近い老人に、これだけのウナギはカロリー過多だろう。
財布はもちろん、体も心配だ。
果たして、チーは迷いに迷った結果、自らの独断で勝手に一人前2,000円のウナ重に変更し、それを店員さんに注文した。
もちろん、トイレから戻ってきた祖父はこの事実を知る由もなく、チーも何も告げなかった。
黙っていれば、特上も上もわからないだろう。
そうやって、さりげなく気遣うことが、ご老人を労ることだと考えたわけだ。
実際、祖父は目の前に登場した上ウナ重に首をかしげることなく、美味しそうに食べ始めたという。
チーの目論見は正解だったわけだ。
しかし、たぶん祖父は気づいていたと思う。
ウナ重の違いだけでなく、それに対するチーの配慮にもすべて気づいていて、いや気づいていたからこそ、あえて何も言わなかったのだろう。おじいちゃんは、昔からそういう人だ。
だから、僕はチーに言った。
「そういうときは、何も気遣わなくていいんだよ。
いくら体が年老いても、ハートはいつまでも男なんだ。
たぶん、おじいちゃんは孫の嫁に高価なウナ重を御馳走することに喜びを感じて、気張っていたんだと思うよ。