読む鉄道、観る鉄道 (4) 『大陸横断超特急』 - アメリカの鉄道旅行はハプニング満載!?
映画『大陸横断超特急』はロサンゼルス発シカゴ行き、2泊3日の列車の旅を描いた作品だ。
美女と出会い、食堂車やラウンジカーでのひとときを楽しむなど、アメリカの鉄道旅行気分をたっぷり味わえる。
ただし、この映画の主人公みたいに、列車から落とされたり、銃撃戦に巻き込まれたり……、という”アトラクション”だけは勘弁だけど(笑)。
主人公の編集者、ジョージ・コールドウェルは、妹の結婚式に向かうため、ロサンゼルス発シカゴ行きの寝台特急「シルバー・ストリーク」に乗る。
最後尾の展望ラウンジで親しくなったセールスマンのボブ・スウィートに、列車の旅の魅力は美女を誘うことだとそそのかされるが、ジョージの旅の目的は「ゆっくり読書をしたいから」。
そんな彼だが、偶然にも隣の部屋の美女、ヒリー・バーンズと親しくなる。
恋に落ちたジョージ。
ところが、ベッドから車窓を見ると、突然、男性の遺体が落ちていった。
翌朝、秘密を知ったジョージは、悪人たちに列車から落とされてしまう。
その後、農場の老婆と出会い、飛行機で追いかけることに。
列車に戻れたジョージは、じつはFBIの捜査官だというボブから事件の手がかりを知らせられる。
そのボブも殺されてしまい、悪人と戦うことになるジョージ。
列車の屋根で自分を落とした男を倒すも、信号機に引っかかりまた落ちてしまう。
今度は保安官事務所でパトカーを奪い、パトカーに乗っていた車泥棒のグローヴァー・マルドゥームと列車を追いかける。
スポーツカーを強奪して、再び列車に戻ってきたジョージは、ヒリーを助けようとして悪人たちと銃撃戦になり、追い詰められてまたまた列車を脱出。
川に落ちたところで警察に捕まってしまう。
警部は真相を把握しており、悪人たちを捕えるため、列車に停止命令を出す。
警察隊と悪人たちとの銃撃戦の中、ヒリーを助けるため列車に戻ったジョージとグローヴァー。
しかし列車が動き出し、コントロール不能のまま、シカゴ駅へと暴走を始める……。
DVD版では、ジョージの声を広川太一郎が担当しているが、独特の”広川節”は控えめ。むしろ渋い演技で、『宇宙戦艦ヤマト』の古代守風だ。
ヒロインのヒリーの声は、『ヤッターマン』ドロンジョ役などでおなじみ小原乃梨子。
ジョージが出会うとぼけた保安官は、こちらも『ヤッターマン』ドクロベー役などで知られる滝口順平が吹き替えている。
ジョージに倒される悪の手下、リースを演じたのはリチャード・キールで、後に『007』シリーズの悪役ジョーズを演じた。
列車内で殺人事件、銃撃戦、ラストシーンは列車が暴走して駅に突入。
こんなシナリオでは、鉄道会社も撮影を許可しにくいだろう。
全米で旅客列車を運行するアムトラック社も、同作への撮影協力を断ったといわれる。
劇中に登場する列車名であり、映画の原題でもある「シルバー・ストリーク」も実在しない。
「シルバー・ストリーク」の名は、客車の銀の縞模様から。
鉄道車両メーカーのバッド社が開発したディーゼルカーの高速列車「パイオニア・ゼファー」をイメージしたといわれている。
車体のロゴはアムトラックにそっくりな「AMRORD」だ。
それでも劇中、実際に列車が走行するシーンがふんだんに登場する。
撮影に協力した鉄道会社はカナダのCanadian Pacific Railway(カナダ太平洋鉄道)とのこと。
機関車も客車も同社のものだけど、きっと当時のアメリカの列車と似たようなものだったのだろう。
「シルバー・ストリーク」のルートは、「ロサンゼルスを出発、ネバダを走り抜け、コロラドロッキー山脈を越え、カンザスシティーへと突っ走り、ミズーリ、アシュランドは通過して、ミシシッピーを渡り、2日半でシカゴにつく」と劇中で紹介されている。
この会話が登場するのは、最後尾の展望ラウンジバー、にぎやかな大人の社交場でのことだ。
ジョージが乗る1等車は1人用個室で洗面所付き。
ヒリーの個室は隣で、間の壁は取り外しでき、ツインルームとしても使える仕様に。
ヒリーのボスが乗る車両はリビングルーム付きのスウィートで、ほかに日本の2段式A寝台にあたる中央通路式の寝台車もある。
ジョージとヒリーが親しくなる食堂車はアラカルト方式で、コースのオーダーも可能。
ほぼ全編にわたり豪華な列車の旅が見られる。
「シルバー・ストリーク」は実在しないが、ロサンゼルスとシカゴを結ぶ列車は実在する。「サウスウェスト・チーフ」の名で現在も運行され、「シルバー・ストリーク」とほぼ同じダイヤで、約3,600kmを2泊3日で走る。
しかも毎日出発だという。
日本では夜行列車がどんどん廃止される中、自動車社会で自家用飛行機も普及するアメリカでは、いまだ長距離列車が残っている。
うらやましい限りだ。
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