読む鉄道、観る鉄道 (5) 『オリエント急行殺人事件』 - 豪華個室寝台車で起きた密室殺人事件!
トルコのイスタンブールを出発し、フランスのカレーへ向かう列車の中で起きた密室殺人事件に、たまたま乗り合わせた名探偵、エルキュール・ポワロが挑む。
トルコ・イスタンブール発、フランス・カレー行きの国際列車「オリエント急行」の1等車個室寝台で、アメリカ人の富豪ラチェット・ロバーツが殺された。
薬を飲まされ昏睡したところに、12カ所も刺されていた。
部屋には鍵がかかっており、内側からチェーンロックまで使われていた。
別の事件を解決してイギリスへ帰る途中の名探偵、エルキュール・ポワロは、列車を運行するワゴン・リ社の重役に事件解決を依頼される。
「運行会社にとっては不祥事だ。
次の駅で警察が介入する前に解決して欲しい」。
じつはポワロは、生前の被害者に食堂車で会っていた。
何者かに脅迫されていたラチェットはポワロにボディガードを依頼する。
しかしポワロは気乗りせず断ってしまった。
ポワロは自責の念に駆られて捜査を開始する。
雪で立ち往生している列車で起きた事件。
しかも現場はポワロの隣の個室である。
列車は大雪で立ち往生しており、人の出入りはなさそうであった。
犯人はきっと列車内にいる誰かだ……。
ポワロ役を演じたアルバート・フィニーは当時30代だったが、特殊メイクで中年の探偵を好演した。
現在は75歳で、今年12月に公開される『007』シリーズ最新作にも出演する予定だ。
『007』といえば、初代ジェームズ・ボンド役で知られるショーン・コネリーも、この作品に元英国軍大佐役で出演している。
1963年に公開された『007』シリーズ第2作『ロシアより愛をこめて』にもオリエント急行が登場し、ショーン・コネリーは10年ぶり2回目の”乗車”となった。
『オリエント急行殺人事件』には名女優、イングリット・バーグマンも出演。
アカデミー賞助演女優賞を獲得している。
本作品の舞台となった列車・オリエント急行は、1983年にパリとイスタンブールを結ぶ列車として誕生した。
1900年代に入ると、西ヨーロッパとバルカン半島方面を結ぶ列車として増発されている。
映画で描かれた1930年代は、オリエント急行の列車群の全盛期である。
運行会社はワゴン・リ社。
各国の国鉄など鉄道会社に線路使用料などを支払って、独自に集客していた。
「定期的に運行する旅行会社主催の団体列車」というスタイルだ。
映画に登場するポワロの友人ビアンキは、ワゴン・リの重役という設定である。
運行ルートはイスタンブール駅出発の場面で、駅の構内放送として紹介される。
ソフィア、ベオグラード、ザグレブ、プロント、トリエスト、ベニス、ミラノ、ローザンヌ、パリ、カレー。
これは主要駅のみの案内で、他にも停車駅がある。
事件が起きた場所はヴィンコヴチとブロッドの間で、旧ユーゴスラビア国内。
2泊目の夜だった。
編成は機関車寄りから荷物車、食堂車、個室寝台車、特別車。
各1両でたった4両編成。
乗客は15名。
約1週間の長距離運行で食堂車も連結する。
運行コストを考えるとかなりの料金になりそうだ。
映画だから4両かと思ったけれど、じつは当時も寝台車2両、食堂車1両、荷物車2両で、意外と短い列車だった。
もっとも、これはイスタンブール側の末端区間のようで、実際にはヨーロッパに近づくほど客車が増結、分離されていた。
本作の中でもビアンキがポワロに部屋を譲り、「あなたはカレーまで行く寝台車に乗りなさい」と言う。
特別車は途中で切り離されるようだ。
定期運行としてのオリエント急行は2008年に廃止となっている。
しかし、全盛期を再現する観光列車『ベニス・シンプロン・オリエント・エクスプレス』は現在も運行中。
3月から11月まで、ほぼ週に1便がパリとベニスを1泊2日で往復している。
ほかにロンドン~パリ間の昼行便や不定期運行も。
全盛期の「パリ~ブダペスト~ブカレスト~イスタンブール」の列車も年1回ほど特別運行されている。
映画と同じイスタンブール発の列車はベニス行で、こちらも年1回程度の運行だ。
ベニス・シンプロン・オリエント・エクスプレスの日本語サイトでは、客室をイラストで紹介している。
映画に登場する客室の再現度の高さがよくわかる。
【拡大画像を含む完全版はこちら】