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「お金」に興味を持つという事 - セゾン投信・中野社長の半生記 (7) 志高く運用に取り組んだ「未来図」、業界の常識と慣習の洗礼を浴びて”敗北”

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「お金」に興味を持つという事 - セゾン投信・中野社長の半生記 (7) 志高く運用に取り組んだ「未来図」、業界の常識と慣習の洗礼を浴びて”敗北”
ベアスターンズアセットマネジメント(以下、「BSAM」)と共同運用する公募投資信託「未来図」の募集が始まりました。

1999年のことです。

準大手証券がメインの販売会社として採用してくれて、その実績によって地場の証券会社も数社が販社契約をしてくれました。

コストは決して安くないファンドになってしまいましたが、しっかり運用実績を積み上げていけばいいのだ、とBSAMの運用パートナーとも納得し合い、長期投資を目的とした真面目な資産形成のための運用商品として、我々もニューヨーク側も、ともにワクワクしていました。

運用開始前の募集で結構な金額の販売が積み上げられて、運用がスタートしました。

市場環境も追い風で、運用成績も順調に滑り出しました。

証券会社からは、売れ行きも良いので各支店をまわって営業マンに商品説明をして欲しいと要請があり、あっちこっちの支店で営業社員向けセミナーも行いました。

営業マンの感触も良好で、販売現場は真面目な運用を求めているのだなあと感じました。


個人投資家に向けて運用レポートを書いたのも初めての経験でした。

海外のとりわけかつて発展途上国と呼ばれ、経済成長から取り残されていた国々が新興国として成長ステージに入っていることは、まだこの頃ほとんど一般には周知のことではなく、日米欧先進国企業がそれらの国々に工場進出して、新たな成長の糧となっていることなどを一生懸命伝えました。

「未来図」はBSAMのリサーチ力を生かして主に中南米諸国の担保付国債に投資するとともに、そうした地域で事業展開する日米欧先進国のさまざまな社債を組み合わせてポートフォリオを構成する運用でした。

まさにグローバリゼーションの息吹を感じて、世界経済の成長に乗って資産形成していく「国際分散投資」を体現したものだったのです。

ところで債券というと、クーポン収入を得て満期まで持つものだと多くの人が思い込んでいるようですが、債券にもクレジット投資という厳然たるアクティブポートフォリオ運用があります。

それは例えば社債の場合、発行体企業の業績が良くなって信用力が上がるとリスクプレミアムが小さくなって債券価格は金利に関係なく上昇します。

それをとりに行くのがクレジット投資です。この頃の中南米諸国の国債の場合、グローバリゼーション黎明期で、経済成長が始まったばかり。


経済規模の拡大や財政状況の改善に伴って、格付けもちょっとづつ上がり始めていたわけで、格上げされると債券価格も上がるので、長期のクレジット投資対象として絶妙の時期だったのです。

そんなわけで日々高揚を保ちつつ、ニューヨークのBSAMとのコンビネーションも緊密に、我ながら良いファンドができつつあると実感していました。

ところが、運用開始から半年が過ぎると、ファンドの資金フローが一変し始めました。

ファンドの解約が始まったのです。

半年間は販売サイドも顧客に解約誘導しないというのが、業界の暗黙のルールだったのですが、その決まりどおり、半年経つと営業マンが解約を促して、次の新しい別の投資信託へ乗り換え勧誘を開始したわけです。

ひとたび解約の流れが起きると、もうそれは収まりません。

毎日のように解約一辺倒、運用資金は日々流出ばかりとなりました。

ポートフォリオはほとんどキャッシュを持たずに運用していましたので、解約資金を手当てするためポートフォリオの中身の資産を売却せざるを得なくなりました。


ちょうど相場は下落の途上、本来ならここは安くなったところを買い下がっていきたい局面だったのですが、下がった中を叩き売りしなければならなくなったのです。

最早まともな運用は成り立たなくなりました。

いくら運用のシナリオを作ろうとも、資金フローがそれを可能にさせてはくれません。

ただただ保有資産を売って得た資金を解約キャッシュに充てるのみ、まさにジリ貧ファンドに成り果てました。

そしてこれが、日本の投資信託の日常風景だったのです。

当時から今に至るまで、証券会社でも銀行でも毎月必ずと言っていいほど新しいファンドが設定され、新商品として販売されます。

そして販売の現場には、新ファンドの販売予算が設けられ、それをクリアするため顧客が保有しているファンドの解約を勧め、その代わり金で新ファンドを買ってもらおうとセールスするのです。

これが投資信託の乗り換え営業、あるいは回転売買とも言われる、販売会社の一般的営業スタイルです。


なぜなら販売会社は販売手数料を得ることが最優先事項ですから、同じお客さんに何度も買ってもらいたいのです。逆に長期投資をされてしまったら回転が効かなくなって、手数料を稼げなくなる。

日本の投資信託がすべからく短命なのは、こうした事情によるのです。

ひとりひとりの「未来図」を長期投資で描いて行こう! と志高く運用に取り組んだはずのこのファンドも、業界の常識と慣習の洗礼を浴びて、あっけなく生きる屍(しかばね)の投資信託になってしまいました。

完全な敗北です。

そして日本の投資信託業界に長期投資が存在し得ない理由も、身をもって体験させられたのです。

まさに挫折でした。

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