「お金」に興味を持つという事 - セゾン投信・中野社長の半生記 (8) 失意の時、さわかみ投信の澤上氏に出会う - 第一声は「お前はバカだな!」
日本の公募投資信託は現在約4千本存在していますが、実際に日々コンスタントに買い注文があるファンドはたいがい新規設定の旬なものに限られており、大多数は資金が出て行くだけで徐々に残高が減っていくファンドか、解約され尽くされて一切の資金の動きがなくなった屍(しかばね)ファンドなのが実態です。
そしてひとたび解約一辺倒の資金フローに転じてしまうと、再び資金流入が蘇ることはほとんどありません。
こうしていつの間にか、販売会社の人たちからも忘れ去られてしまう、それがずっとこの業界の日常風景なのです。
こうした実状の中では、10年、20年、30年というスパンで運用者が長期的資産運用を目指そうとも、あるいは個人が将来に向けてじっくり資産形成へと行動しようにも、その機会を得ることができない。
かように日本の投資信託は販売会社の都合で投資家も運用会社も振り回され続けているのです。
文字通り「未来図」に最早未来がなくなったことで、私が描いていた投資信託での長期投資の実現という夢ははかなく散りました。
多くの既存投信会社は、解約されていく資金流出を埋め合わせるため、再び販売会社に御用聞きをして、新しいファンドを設定する、そして…この繰り返しの”無間地獄”に陥っています。
今も昔も同じ光景です。
そんながっくり失意の時、私に新たな出会いがありました。
さわかみ投信の澤上篤人社長(現会長)です。
さわかみ投信は「未来図」が設定されたのと同じ頃、投信会社の認可を取得、さわかみファンドを設定し、世に送り出していたのです。
マネー誌で澤上さんの記事を読んで、なんとしても会ってみたくなりました。
それは私が思い描いている長期投資の理念を、違わず熱烈に紙面で語っていたからです。
そのときの私はこれからどうしていけばいいのか途方に暮れており、まさに藁にもすがる思いだったのかもしれません。
早速マネー誌の馴染みの記者さんに澤上さんとの引き合わせを頼み込みましたが、澤上さんからの返事は「セゾンのヤツが会いたい? そんな大企業に俺は用はない!」とけんもほろろでした。
そこまでばっさりと断られると、もうますますこちらも会わなければ気がすまなくなってきます。
再び件の記者さんにお願いしました。
「忙しい!」とサッパリです。
3度目の依頼でようやく面談を受けてもらえました。
念願かなったわけですが、実はそのとき私は具体的に澤上さんの何が知りたい、ということが定まっているわけではなかったのです。
とにかく自分の長期投資への思いを伝えたかっただけなのかもしれません。
「さわかみ投信」の事務所を訪問しました。
今の同社よりずっと小さく質素なオフィスでした。
つっけんどんで高慢な人なのかなぁ、などと予想していましたが、ニコニコ顔で澤上さんは出迎えてくださいました。
自己紹介をするより先に、自分の資産運用という仕事と長期投資に対する思い、そして「未来図」での自らの体験と憤りの心中を赤裸々に吐露しました。
澤上さんはうなずきながら、私が話すことを最後まで黙って聞いてくださいました。
ひとしきり私が自らの出来事を話し終わった後、澤上さんから発せられた最初の一言は「そうか、わかった。
お前はバカだな!」でした。
そして最初のニコニコ顔に戻っていました。
続いて「よくわかっただろ? 既存の業界の中で長期投資をやろうと思ったって無理なんだよ」。
まさにおっしゃるとおりです。
それを身にしみて経験したからこんなに悩んでるんです。
「だから俺は自分でこの会社を立ち上げたんだよ。
そしてさわかみファンドを作ったんだ」。
そしてさわかみファンドが既存業界のしきたりとは埒外に、既存会社との関係を持たず、自らダイレクトに個人のお金を集めてファンド運用をしていることを説明してくださいました。
証券会社や銀行の販売力を一切頼らずに、投資信託会社が自ら投資家に直接販売する、直販のことです。
「自分で資金を集めれば自分の思い通りの長期投資ができるんだよ」。
直販という仕組みは知っていましたが、「投資信託とは証券会社か銀行が販売するもの!」という固定観念しかなかった私にとって自らが販売者になることなど思いもよらぬことでした。
直販による長期投資の実現! 完全に目からウロコでした。
そしてこの日の澤上さんとの出会いが、次の私の針路を定めることになるわけです。【拡大画像を含む完全版はこちら】