奥様はコマガール (45) 妻の急病(2)~2人の母の看病リレー~
4月下旬に発症したチーの高熱は、ゴールデンウィークに入ってからも一向に治まらなかった。
おかげで4月29日の我らの結婚記念日も、チーは一日中寝込むことに。
休日のため病院もやっておらず、僕ができる限りの看病をした。
しかし、僕は30日から大阪出張に行かなければならなかった。
いくつかの仕事がまとめて入っていたため、帰京は6日の予定だ。
そこでチーの母親に出張中の看病をお願いしたところ、ありがたいことに4月30日~5月3日まで家に泊まりこんでくれるという。
5月に入ってからも、チーは39度以上の高熱が続いていた。
以前の夜間診療でもらった解熱剤はまったく効果がなく、その後また別の病院に行ったのだが、そこでは「ウィルス性の風邪の疑い」と診断され、抗生物質を処方された。
しかし、それでもチーの容態は変わらなかった。
それどころか胃痛や腹痛まで発症し、事態はますます混迷を極めた。
かくして、また別の病院に行った。
そこでチーは前の病院で診断された「ウィルス性の風邪の疑い」ではなく、新たに「マイコプラズマ肺炎の疑い」と診断された。
しかも胃痛や腹痛といった新たな症状は、前の病院で処方された薬が合っていないためらしく、だから別の薬を処方された。
これで病院は3軒目だ。
もうわけがわからない。
マイコプラズマ肺炎。
もしそれが事実だとしたら、厄介なことになりそうだ。
1週間やそこらで完治する病気ではなく、さらに他人に伝染するため、外出はもちろん禁止。
だったら僕としては入院を勧めたいところだが、入院するにしてもGWが終わるのを待たなければならない。
いずれにせよ、あと何日かは家でしのぐしかないわけだ。
前述したように5月3日までは、チーの母親が泊まり込んでくれたため、どこか安心だった。
チーの母親は生来の世話好きであり、福祉の仕事もしているため、こういう状況には慣れている。
チーにしても、実の母親に付き添われるのが一番だろう。
しかし、4日以降はどうすればいいのか。
チーの母親にはどうしても外せない用事が入っており、そこまでが限界だ。
僕も僕で、6日までは身動きが取れない。そこで大阪に住む僕の母親(通称・マリーバ)、つまりチーの義母を東京に派遣することにした。
マリーバについては本連載の第5回目でも紹介しているので、そちらもあわせて読んでいただきたい。
とにかくマリーバは、僕の近い友人たちから「山田家の最終兵器」と称される、一風変わった女性なのだ。
東京に派遣する直前、僕はマリーバにチーの病状と注意点を丁寧に伝えた。
主な注意としては「胃が弱っているから食事には気をつけること」「伝染するかもしれないからマリーバ自身も気をつけること」「外出は絶対に禁止」の3点。
当然マリーバもそれぐらいは心得ているようで、「大丈夫、任せなさい! 」と自信満々の笑みを浮かべていた。
そして5月4日の昼、マリーバはいよいよ東京に上陸した。
そのままチーが寝込む我が家に向かい、チーの母親とバトンタッチして看病に入る。
チーは依然として39度以上の高熱が続いており、食事も満足に摂れない容態だという。
マリーバ、頼んだぞ。
ところが、である。
その夜、病に伏せるチーから僕に電話が入った。
そして今日一日の報告を受けたのだが、それを聞いた瞬間、僕は思わず椅子から転げ落ちそうになった。
報告1マリーバはチーに刺身を食べさせた。
報告2マリーバはチーを散歩に連れ出した。
報告3マリーバはチーをファミレスに誘って、2人でお茶をした。
報告4マリーバはチーが食べ残したものを迷わず食べた。
なんだそれは――。
女子同士の普通の休日じゃないか。
あれほど胃に負担をかける食事はダメだと言ったのに、よりによってナマモノを食べさせるとは。
あれほど外出禁止だと言ったのに、「散歩→ファミレス」という荒業を強行するとは。
あれほど伝染に気をつけろと言ったのに、チーが食べ残したものを平気で食べるとは。
事前の注意は完全無視か。
頭が痛くなった。
マリーバの天然ボケはある程度予測できていたものの、まさかここまでとは思わなかった。
状況が状況なだけに、チーのことが余計に心配になってしまう。
しかし不思議なことに、ここにきてチーの熱が下がり始めたのだ。
10日以上続いていた39度の高熱が、いつのまにか38度になり37度になり、そして僕が帰京した5月6日にはついに平熱の36度台に突入。さらに翌7日、つまり久々の平日に病院に行くと、あろうことか医師から「完治」の診断まで受けた。
なんという、スピードだ。
なんでも医師曰く、詳しく調べてみるとマイコプラズマ肺炎ではなく、複数のウィルスをこじらせた結果のため、原因の特定はできなかったとか。
すなわち謎の病気というわけなのだが、「治ったのなら、深追いはしない」ということで、いまだわからずじまい。
うーん、いったいなんだったのだろう。
気になるなあ。
ちなみにマリーバは「わたしのおかげね」と明るい声で言っていた。
僕は断じて「それは違う」と主張したい。
きっと三軒目の病院で処方された薬と、マリーバの前に看病してくれたチーの母親のおかげだろう。
いずれにせよ、散々なゴールデンウィークでした。
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