新潟っ子ならド定番。新潟のソウルフード「イタリアン」ってなんだ?
老いも若きも好んで食べているというその名も「イタリアン」。
イタリア風の食べ物なのか、何なのか。
早速調査してみた。
「イタリアン」といえば一般的にはイタリアの郷土料理のことだと思うもの。
しかし、ここ新潟ではそれが通用しない。
この地でイタリアンといえば県民の誰もが知っているB級グルメを意味する。
新潟ではどのくらい、このB級グルメが浸透しているのか、早速調査のために燕三条駅に降り立った。
改札を出てすぐ、目の前を歩く30代くらいの人たち数人に声をかけてみる。
すると返ってきた返事は口を揃えたように「小さい頃おやつとして食べた」「学校帰りによく食べた」という声。
どうやら、非常に親しまれている味のようだ。
おやつとして食べていたとするなら、イタリアンはお菓子なのだろうか。
あるいはイタリアンと呼ばれるくらいだけに、パスタのような主食なのかもしれない。
いつごろ食べていたのかといった内容からは、この食べ物がまったく想像ができない。
道を歩くカップルに「イタリアンって何?」とたずねると、「紅ショウガが白い!」という答えが返ってきた。
まったく本題に対する答えではない!ところが、その後も同様の回答が続くのだ。
白い紅ショウガとおやつ。
このふたつのキーワードを結びつけるものは果たして何なのだろうか。
疑問は深まるばかりだ。
ショウガが添えてあると答えればいいところを、なぜ「白い」紅ショウガという必要があるのだろうか。
そうした疑問を持ちながらも調査を続行。
やがて、ぼんやりとした概要が見えてきた。
どうやらその正体は、めん類のようだということ。
地域によって人気がふたつにわかれており、グルメファンたちの間では熱い論争を巻き起こしているようなのだ。
さて、この謎のめん類であるイタリアンだが、どうやら大きく2種類あるらしい。
上越と中越でわかれるこのふたつは同じイタリアンでも味が微妙に違う。
聞き込みを続けた結果、これは「みかづき」と「Friend」というふたつのお店の違いによるものであることが分かった。上越で人気があるのはFreindで中越は「みかづき」。
この両派閥が存在するだけに、新潟県民と会話する際は要注意なのだそうだ。
この2大勢力を融和した、いわゆる国境ラインというものも新潟県には存在する。
それが燕三条だ。
新幹線の駅がある側で、ワシントンホテルの入っている燕側のイオンには「みかづき」が城を構えその勢力を保持している。
そこから車で約10分。
三条側のイオンには「Friend」があり、晩ご飯のデザートに新潟名産の洋梨「ルレクチェ」を買った主婦が、おやつとして「イタリアン」を食べている。
このエリアに行けば、30分ほどの時間で両方の店にあるイタリアンをお持ち帰りして、国境の誰も手出しができない新幹線の高架下あたりで、両派閥を気にすることなくイタリアンの味を堪能できる。
長くなってしまったが、そもそも「イタリアン」って何だろう?という疑問の答えを述べていなかった。
ずばり、見た目は焼きそば、かかっているソースはミートソース。
ただ、新潟県民に言わせると「焼きそばじゃないよね、あのめんは」「あれってミートソースなのかな」などとあいまいな答えしか返ってこない。
途方に暮れて、ふと「みかづき」の看板をよく見てみるとそこには、こう書いてあった。
「What kind of foods [italian]?Is it spagetti?or yakisoba? [Italian] is neither.[Italian] is [Italian]!!」 直訳すると 「イタリアン」ってどんな食べ物?スパゲティ?それとも焼きそば? 「イタリアン」はどちらでもない。
「イタリアン」は「イタリアン」!! ということだそうだ。
「『イタリアン』は『イタリアン』」と言いつつも、スパゲティや焼きそばっぽいと自分で分かっているところがなんともかわいいではないか。
この文面の「イタリアン」の部分を「おれ」に置き換えると非常に分かりやすい。
「おれ」ってどんな食べ物?スパゲティ?それとも焼きそば? 「おれ」はどちらでもない。
おれは「おれ」!! 早速、それぞれの店で食べ比べてみることにする。
まずは「みかづき」。
自家製角太の中華めんの上にたっぷりとトマトソースがかかり、約40年もの間、同じスタイルで出し続けている定番メニューだ。注文をすると、厨房(ちゅうぼう)からは鉄板の上でめんともやし、キャベツをいためる音が聞こえてくる。
そこに特製ソースを絡めて、まずは焼きそばを作る。
その上に、トマトペーストをベースに作ったソースがかかって出来上がり。
何ともミスマッチな様相なのだが、口にするとあら不思議。
強い酸味を想像していたのだが、ソースにたっぷりと使った玉ねぎがほどよい甘さを醸し出す。
濃厚なトマトソースにからんだ、コシのある焼きそばの歯触りが、口いっぱいに不思議なハーモニーを生み出すのだ。
これで値段は320円。
道行く人たちが、なぜ「おやつ」と呼んでいたのかうなずける。
また、フォークで食べるのもここの特徴だろう。
そして、その脇には「白い」紅ショウガがこっそりとたたずんでいたのだった……。
2大勢力の片方ばかりを食べても比較にならない。
ゆっくり味わいたい気分に後ろ髪をひかれつつ、もうひとつの「Friend」へと向かうことにした。
こちらも「みかづき」同様、「イタリアン」のスタイルに違いはない。
しかし、決定的な違いはそのソース。
トマトベースの「みかづき」に対して、こちらはミートソース。
「イタリアン」の濃厚さと比べると、味の深みで勝負している感がある。
はしで食べるスタイルなのだが、中細めんなのでつかみやすく、また見た目よりもスッと腹におさまっていく。
ひき肉たっぷりのソースとの絡みもバツグンだ。
さらに、中華めんとの相性からなのかもしれないが、ギョーザとのセットが人気商品となっていた。
どちらの店も、焼きそばとパスタの風味を同時に味わえるお得なグルメ、というのが調査後の感想だ。
リーズナブルかつボリューム感もたっぷりで、「おやつ」ならぬ主食としても十分いけそうなメニューだった。
今後、この2大勢力はますますデットヒートを繰り広げるに違いない。
しかしそれは、切磋琢磨にお互いの味を高める至高の戦いであるに違いないのだ。
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