世界企業TOYOTAに対する、愛知県民の想いとは?
ましてや世界に冠たるトヨタとなればその規模はメガ級だ。
何たって一つの市が丸々「豊田市」。
もともとは挙母(ころも)市という名前だったのが、トヨタ自動車にあやかって1959年に市の名前を変えたんだからすごい。
まるで戦国大名の城下町のようだ。
トヨタ自動車の所在地は、豊田市トヨタ町1。
何度見ても、すごい住所だ。
そんなTOYOTAへの愛知県民の想いを紹介したい。
もう随分と昔のことになる。
僕のライター仲間が瀬戸内海のある島へ取材で行った時のこと。
名刺を差し出した相手に、そこに記載した住所と、運転してきた車をまじまじと見比べられ、冗談半分本気半分で、こう言われたという。
「あれ?愛知じゃ、“トヨタにあらずんば人にあらず”やないんですか?」。
愛知県民なのに彼の愛車は三菱車。
それが不思議に映ったのだろうか。
「いやいや、愛知県民はそこまで極端ではないですよ(笑)」と適当にあしらったがというが、確かに他県の人から見れば、愛知県民は全てトヨタの巨大組織の中で生かされているように思えるのかもしれない。
そういえば僕も学生時代、トヨタ系の工場でバイトしようと面接に行ったら、「うちの駐車場、日産車は入れないから」と笑顔でつっぱねられたことがある。
トヨタグループのおおもとは、発明王・豊田佐吉が興した自動織機、自動の機織り機械にある。
1895年に佐吉が創業した豊田商店が、全てのトヨタグループの源流だ。
佐吉が自動織機を発明して事業化したのが豊田自動織機製作所。
息子の喜一郎が1937年に興したのが、トヨタ自動車である。
その後、戦前戦後にわたって分社化が進み、そこからデンソーや豊田通商などのトヨタグループが誕生した。
その初期グループ13社を 「オールトヨタ」と呼び、その下請けや孫請けは数え切れないほどの数にのぼる。
豊田家には「一代一事業」というモットーがあり、その言葉にならって喜一郎は自動車産業を始めた。
そしてその息子の章一郎が手がけたのがトヨタホームだ。
しかし赤字続きで「不肖の道楽息子」とまで言われたが、10年ほど前に長年の苦労(?)がようやく実り黒字化。さらに、2003年には分社化され、ハウスメーカーとして独り立ちした。
ところで、「トヨタカレンダー」って言葉をご存知だろうか?トヨタ系列の工場の稼働カレンダーで、いわゆる日本国民の祝日は一切無視。
週5日の営業日ルーティンを繰り返し、効率的に工場を稼働しているのだ。
そしてGWやお盆、年末年始に、どっかり大型連休がもらえる。
下請け、孫請け、その孫請けまで含めたトヨタ関連企業が全てトヨタカレンダーに従って生きているのだ。
当然、周辺の店舗などもそれに合わせて営業する。
街全体がトヨタカレンダーを基準に動くことになる。
実は、愛知県には九州や北海道出身者が多い。
昭和30~40年代、仕事のない地方から集団就職した中卒者が大量に愛知県に流入した背景がある。
もはや死語となった「金の卵」だ。
その就職先のほとんどが、当然、トヨタ系列の企業だ。
名古屋などの都心ならともかく、豊田市などはまだまだクルマ社会だ。
そこで暮らす人にとって最初の大きな買い物は自動車になる。
メーカーは当然、トヨタ車だ。
その後、結婚して家族が増えたら、家を建てようということになる。
家を建てるとなると、やっぱりトヨタホームを選ぶことになるだろう。
日頃の買い物はメグリア(トヨタ生協)の店舗という人も多いだろう。
ちょっと気になって葬祭部門はないのかと調べてみたら、メグリア直営の葬儀センターが2カ所あった。
つまり、極端な話、トヨタ系に勤務しているなら一生、トヨタ系のお世話になって人生を終えることになるのだ。
そういえば、トヨタ自動車が中心になって設立した海陽学園という学校もあった。
中高一貫のエリート養成校で、今年、1期生のうち13人が東大に合格したというから実力もハンパない。
子どもの教育も(それなりにお金はかかるけど)できるということだ。
企業側から見ても、トヨタ系の企業に勤めた社員が、生活にかかる費用の多くをトヨタ系企業に落とせば、完全な循環型エコロジーシステムとなる。
こう書くと、いかにも愛知県はトヨタに支配されており、周囲から反発されているように感じられるかもしれないが、実はそうでもないのだ。
例えば、結婚前の名古屋の若い女性たちの中には、「トヨタ関連の企業に勤める人と結婚したら、一生安心して暮らせそう」という考えの人すらいるようだ。ふむ。
つまり安定度バツグンのトヨタ社に勤めるビジネスマンは、結婚のお相手としても理想的ということかもしれない。
さらに、豊田は暮らすのにも最適な土地だ。
中心部こそモダンでにぎやかだが、それを取り囲むように美しい自然が広がっている。
子どもが小さいうちは、緑に囲まれた地で思う存分遊ばせることができる。
愛知へ旅行する機会があれば、ぜひ一度、豊田市に足を運んでみてほしい。
豊かな自然に恵まれたこの地でなら、穏やかな一生が過ごせることがお分かりいただけるはずだ。
また、一見「普通の人」に見える手堅い技術者や実務家たちが、こと「TOYOTAのものづくり」となると、抜群のチームワークで世界をけん引する製品を生み出していくという点も素晴らしいではないか。
ところで、世界企業トヨタのスケールの大きさは、外国のドライブウエーを走っても分かる。
例えばアメリカ。
アリゾナの砂漠地帯なんかをドライブしていると、行き交う車の多くがトヨタ製であることに気がつく。
地域によって気候も異なり、悪路も多い大陸で、ガタイのいい白人のおじさんを乗せて疾走しているニッポンのTOYOTA車を見るたび、愛知県民というスケールを超え、日本人として誇りを感じるのは、きっと僕だけではないはずだ。
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