読む鉄道、観る鉄道 (17) 『駅 STATION』 - 北海道・留萠本線がにぎわった頃、高倉健が残したドラマ
高倉健主演、 降旗康男監督といえば『鉄道員』が有名だけど、今年はオリンピックイヤーだから、元オリンピック選手の生きざまを描く『駅 STATION』(1981年・東宝)をおすすめしたい。
主人公のプロフィールと生き方を淡々と描き、ラストに起きる出来事で強いメッセージを残す。
そんな構成も『あなたへ』によく似ている。
主人公の三上(高倉健)は北海道警の刑事であり、射撃のオリンピック選手でもある。
彼は正義感が強く、妻(いしだあゆみ)のたった一度の過ちを許せずに離婚した。
また、オリンピックよりも、犯人逮捕の現場を優先しようとする。
その矢先に警官射殺事件が起きる。
上司はオリンピックを優先しろと言うが、三上は仇(かたき)を討たせてほしいと懇願する……。
時は流れ、三上はオリンピック射撃チームのコーチとなっていた。
しかし選手たちと疎遠になりながら凶悪犯も追い続ける。
そんなとき、連続殺人容疑者の妹、吉松すず子(烏丸せつこ)の存在をつかみ、留萠本線増毛駅近くの食堂を張り込む。
三上は自分の妹(古手川祐子)の幸せを願っていた。
その妹とすず子を重ねつつ、凶悪犯の兄が妹を思う気持ちに賭けた。
銀行籠城事件を解決し、刑事としてさらに評価を高める三上。
彼の心にはいつも、「競技で撃つことと、人を撃つことは違う」というコーチの言葉がある。
しかし職務では冷徹。
遠慮なく凶悪犯に銃を向ける。
そんな三上の前に、第3の女、桐子(倍賞千恵子)が現れる。
増毛の町で逢瀬を重ねる2人。
ひとときの安らぎ。
刑事を続けるか、老いた母が待つ故郷に戻るか。
三上の心は揺れていく……。
脚本は、『北の国から』をはじめ、北海道を舞台とした数々の名作を手がける倉本聰。
三上のコーチであり、人生の師匠でもある相馬刑事に大滝秀治。
三上の故郷の漁師に田中邦衛。
サブキャストも根津甚八、永島敏行、小林稔侍、橋本功など豪華だ。
武田鉄矢、塩沢ときのコミカルな場面も、2時間超の大作で良いアクセントになっている。
音楽を担当した宇崎竜童も暴走族のリーダー役で出演する。北海道の風景を情緒的に盛り上げる音楽の作者と、その配役の意外性も興味深い。
オープニングは銭函駅の俯瞰(ふかん)撮影で、DD51が引く黒い貨物列車が通り過ぎる。
次の場面、三上の妻子はED76が引くオハ35系客車で旅立つ。
こんな場面から始まれば、物語も、鉄道の場面も期待してしまう。
その期待通りの美しい映像で、鉄道も描かれる。
物語の主軸となる路線は留萠本線だ。
旅客列車は新品でぴかぴかのキハ40形と、郵便荷物車のキユニ21形の2両編成。
どの時間も車内は混んでいる。
増毛~留萠間の気動車列車は短いが、貨物列車は長かった。
留萠駅からは羽幌線(1987年廃止)が分岐し、羽幌炭鉱からの貨物列車が留萠駅に集積した。
炭鉱といえば、劇中では函館本線上砂川支線(1994年廃止)も登場する。
石炭輸送でにぎやかな上砂川駅の映像は、資料としての価値も高い。
羽幌炭鉱が稼働していた頃の留萌はにぎわっていたようだ。
映画館があり、車の往来も多い。
炭鉱で景気が良いのか、2ドアクーペタイプも目立つ。
本作撮影当時の留萌市の人口は約3万5,000人。
現在は約2万4,000人という。
増毛町も映画撮影当時は約8,000人の人口があり、繁華街もにぎわっている。
同作品では、元旦未明の増毛神社の様子が描かれていて、留萠本線に初詣列車が走っている。
現在の増毛町は約5,000人とのこと。
その意味でも、この作品は国鉄時代のローカル線の活気も見せる映画といえそうだ。
鉄道に対する人々の期待、ありがたみが、車内の混雑した情景に表れている。
留萠駅の構内放送「るもいるもい、るもーい」も軽やかだ。
増毛駅には駅員が常駐しており、台車にはチッキ便の荷物が山積みになっていた。
筆者は最近、留萌本線を訪れた。
留萌駅の構内放送は自動で控えめ。
増毛駅は無人駅であった。
タクシーの運転手に聞くと、炭鉱の閉鎖とニシンの不漁で人口が減り、かつてのにぎわいはないという。
『駅 STATION』の撮影が行われた当時の北海道の国鉄は、客車列車が淘汰され、気動車や電車に置き換わっていく時期だった。
劇中で約12年を描くため、序盤に旧型客車、中盤以降に気動車が登場する。札幌近郊の事件現場付近には711系電車が登場。
この電車の存在だけで、そこが札幌だと示している。
このように、鉄道を使って時系列や場所を示す手法は、高倉健主演、降旗康男監督の最新作『あなたへ』でも効果的に使われている。
さて、本作のタイトルとなった『駅』はどこだろう? 銭函駅は序盤だけだし、留萠駅は主人公たちにとって通り過ぎるだけの存在といえる。
ではやはり、濃厚なエピソードが起きる増毛駅だろうか? いや、物語のテーマである「駅」の意味は、劇中で三上に届く、ある手紙の中にあると筆者は考える。
その手紙の中の「駅」は、三上の人生の道標ではないか。
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