読む鉄道、観る鉄道 (18) 『交渉人 真下正義』 - 東京の地下鉄で爆弾を積んだ「クモ」走り回る!
さて、「踊る」シリーズといえば、スピンオフ作品に地下鉄をテーマとした作品があった。
『交渉人 真下正義』だ。
東京の地下鉄が舞台だが、都内の地下鉄から協力を得られず、本物の東京の地下鉄が出てこないという異色の作品。
「踊る」シリーズのファン向けに制作されているだけに、同作品だけではおもしろさを満喫したとはいえない。
しかし鉄道映画としては興味深い。
地下鉄は都市の便利な乗り物だ。
そして閉鎖された空間、社会の裏側といった雰囲気も魅力だろうか。
アメリカでは、『サブウェイ・パニック』など名作サスペンス映画が作られた。
『交渉人 真下正義』は、「東京で地下鉄をテーマとしたサスペンスを作れるか?」という可能性にチャレンジした意欲作ともいえる。
ロケで使われた地下鉄がどこかを当てるクイズとしても楽しめる。
同作品の主人公は『踊る大捜査線』の青島俊作……の後輩で、若手キャリアの真下正義(ユースケ・サンタマリア)。
彼は警視庁初の交渉人(ネゴシエイター)として、いくつかの事件を解決し、そのつど警視庁のPRと、自己顕示欲を満たすため(?)、各メディアに出演していた。
警視庁には交渉課準備室が設置され、真下は課長となっていた。
そんな年のクリスマス・イブ。
柏木雪乃(水野美紀)とのデートを楽しみにしていた真下は、室井管理官(柳葉敏郎)に呼び出される。
最新鋭の試験車両「クモ」が何者かに乗っ取られ、犯人の予告通りに公園で爆発事件が発生。
東京の地下鉄事業者「TTR」(東京トランスポーテーション・レールウェイ)では運行装置に原因不明のトラブルが発生し、そのすきに「クモ」は運行中の地下鉄電車に接近する。
車内には爆弾が積まれているかもしれない。
そして犯人は名指ししていた。
「真下さん、一緒に地下鉄を走らせましょうよ……」と。
乗っ取られ、恐怖の対象となる「クモE4-600」は、線路幅や電化方式の違う線路も走れる車両。
映画公開当時、「そんな都合のいい電車があるんだろうか?」と思った人がいたかもしれない。しかしいまでは、九州新幹線長崎ルート向けにフリーゲージトレインの開発が進められることに。
JR四国では試運転も実施されている。
さらに先日、JR西日本がフリーゲージトレインで実績のあるスペインの鉄道と提携することを発表したばかり。
JR西日本では、北陸新幹線から在来線へ乗り入れる列車にフリーゲージトレイン導入を検討しているという。
電化方式の違いを問わないバッテリー方式の電車も、JR東日本が開発中だ。
つまり、営業用として採算に見合うかどうかは別として、いまの鉄道技術なら「クモE4-600」は実現可能。
同作品のスタッフはちゃんと鉄道技術をリサーチして作っているんだなと感心する。
この作品を見て、東京の地下鉄を知っている人は不思議に思ったことだろう。
駅の雰囲気は東京の地下鉄に似ている気がするけれど、車両はまったく違う。
じつは、「地下鉄内を制御不能の爆弾列車が走る」という設定も影響し、東京メトロや都営地下鉄の撮影許可を得られなかった。
そこで全国各地の地下鉄でロケを実施した。
だから東京の地下鉄が舞台にもかかわらず、実際の東京の地下鉄は出てこない。
それでも同作品を違和感なく映画を楽しめる理由は、コメディであり、他の作品のパロディが多い『踊る大捜査線』シリーズのひとつだからといえるだろう。
ちなみに、劇中で表示される地下鉄路線図は実物とほぼ同じように見える。
ただし路線名は違う。
東西線は東陽線、有楽町線は桜田門線、半蔵門線は九段下線、銀座線は渋谷線……、となっている。
運行会社名は東京メトロではなく「東京トランスポーテーションレールウェイ(TTR)」で、都営地下鉄は「新東京鉄道(新東線)」だ。
交渉人と犯人との駆け引き、地下鉄という閉鎖された空間で起きるパニックがテーマで、実際の鉄道と同じかどうかは物語や演出上、あまり関係ない。
そんなスタッフのわりきった姿勢は気持ち良い。
むしろ架空の東京の地下鉄を演出するために全国各地の地下鉄が登場することで、鉄道ファン的なお楽しみも増すことになった。
たとえば東陽線の場合、撮影で使われたのはおもに神戸市営地下鉄海岸線で、駅や車体の行先表示もていねいに貼り替えている。
スタートから8分10秒あたりでは、横浜市営地下鉄の電車もチラッと登場。マークは映像処理でぼかしが入っているけれど、キャラクター「はまりん」のステッカーがそのままだ。
スタッフロールの「ロケーション協力」の部分には、神戸市交通局、横浜市交通局のほか、札幌市交通局、大阪市交通局、JR西日本も並んでいる。
JR西日本は地下鉄ではないけれど、東西線の加島駅が桜田門線永田町駅として登場する。
電車や駅が出てくるたびに、「ロケ地はどこかな?」と当ててみる楽しさがある。
物語の重要なカギのひとつに、「脇線(連絡線)」の存在がある。
劇中では軍事輸送や政治家の脱出用などと、いかにも陰謀論として描かれている。
いわゆる「脇線」(連絡線)は実在するが、実際は「車両の検査を別の路線の工場で実施する」などの目的で建設され、ときどきこの線路を使ってイベント列車が走ることがある。
かつて小田急電鉄と東京メトロが運行したロマンスカー「ベイリゾート」も、千代田線の霞が関駅と有楽町線の桜田門駅を結ぶ連絡線を使用した。
劇中、その「脇線」の路線図が登場する場面がある。
もちろん架空だけど、路線網がおもしろい。
もうその線路で営業したらいいのに、と思うくらいたくさんある。
この作品の最大の突っ込みどころはここかもしれない。
『交渉人 真下正義』は、「踊る」シリーズのスピンオフ作品として、お祭り騒ぎのようなテイストになっている。
そこが筆者にはちょっと残念。
とはいえ、東京の地下鉄を舞台としたサスペンス映画が作れることを証明した功績は評価したい。
今後、東京の地下鉄を舞台とし、『サブウェイ・パニック』をしのぐ作品が出てくることを期待しよう。
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