ハーモニカを聴きながらゆく、静岡の大井川鉄道・SL蒸気機関車のレトロ旅
鉄道ファンはもちろんのこと、子ども連れのファミリーまで幅広い層に愛されている。
ところでこのSL、果たしてどんな乗り心地なのか?(自称)鉄道好きのライターとして、乗らずして語るワケにはいかない。
ということで実際に乗車してみることに。
大井川鉄道は金谷駅(島田市)から井川駅(静岡市)までを結ぶ全長約65キロの鉄道路線で、その内SLが走るのは新金谷駅(島田市)~千頭駅(川根本町)間の約30キロ。
SLの運行本数は日によって異なるが、1日数本が往復している。
所要時間は片道約1時間30分。
運賃は大人片道1,720円+SL急行料560円が必要だ。
同鉄道広報担当の山本豊福さんによれば、この鉄道はもともと、大井川上流のダム建設の資材を運んだり、山間部でとれる木材を運んだりする鉄道だったそうだ。
利用者数の減少を食い止めるべく、昭和51年(1976)からSLを導入し、観光路線にシフトしたという。
C56形やC11形など昔懐かしい4台のSLはもちろん、それ以外の車両も京阪や近鉄などの「昭和電車」だという。
オールドファンには垂ぜんモノの路線となっている。
旧国鉄時代の客車に満タンのお客さんを乗せて、SLの旅にいざ出発!きしむような音を立て、SLはゆっくりと動き出した。
木造の車内にエアコンはもちろんない。
扇風機が頭の上でぶんぶん回っている。
うっすら湿り気のありそうな空間は、ほとんど「千と千尋」の1シーンである。
発車早々、登場するのが「SLおじさん」だ。
車内アナウンスで車両のミニ知識や沿線情報をガイドしてくれる。
そして手持ちぶさたになったらハーモニカを吹くのだが、その音色が実にSL旅にマッチしていて気分がいい。
鉄道は、約30キロの道のりを1時間半かけて走る。
はっきり言ってスピードは遅い。
並走する自動車が何台もSLを追い越していく。
ガタガタと振動も大きい。
しかし存在感は抜群で、沿線にあるキャンプ場から、みんなが手を振ってくれる。
山本さんは「時間に余裕があれば、ぜひ途中下車してあぷとライン(=井川線)の渓谷や湖などの風景を楽しんでください。
温泉も素晴らしいですよ」とのこと。
そんな声に後ろ髪を引かれつつ、駅で山菜そばを食べ、駅前の屋台でくし焼きをほお張って、新金谷駅に引き返す。
復路の車両は、オレンジ色がまぶしい近鉄16000系だ。
これはこれで十分レトロ。
通勤や通学に使う人も少なくないようで、行きのド観光列車とはひと味違う旅の醍醐味(だいごみ)を味わうことができる。
帰路も十分、電車旅を満喫して新金谷駅に到着した。
名残惜しい。
日本の四季を味わえる大井川鉄道。
中でも秋の紅葉シーズンが一番人気だそうだ。
混雑しているだろうが絶対また来ようと心に誓う。
「消え去る運命にあるSLの風景だからこそ、大切に残したいのです」。
そう語った山本さんの言葉を思い出しつつ、駅を後にした。
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