日本人は”非課税制度”がお好き? 少額投資を優遇する「日本版ISA」って何?
なんでも、投資に関する非課税制度で、投資初心者や大金をもってない人でも、優遇を受けやすい制度らしい。
今回は、その「日本版ISA」について、思い切って専門家に聞いてみることにした。
インタビューしたのは、日興アセットマネジメントの汐見拓哉氏。
インタビューの内容を紹介する前に、同社ホームページにある「日本版ISA」に関するページを元に、簡単にその内容を紹介しておきたい。
これによると、日本版ISAとは、2014年から導入が予定されている投資信託や上場株式などのための非課税制度。
英国の「Individual Savings Account(個人貯蓄口座)」を参考にした制度であるため「日本版ISA」と呼ばれている。
投資信託や上場株式等から生じる所得への課税は、現在の10%から将来20%になる予定だが、「日本版ISA」の制度を利用することで、最大300万円まで(毎年100万円×3年)投資から得られる値上がり益や配当・分配金が最長10年間非課税となる。
すでに英国ではISAが1999年4月からスタートしており、2005年の調査では、対象者の37%が英国版ISAで口座を開設している。
詳しくは同ページ「読んでわかる 日本版ISAとは?」を参照。
以下では、「日本版ISA」について、疑問に思ったことを、汐見氏に次々とぶつけてみた内容を紹介したい。
――「日本版ISA」制度が導入されるに至った経緯をお教えていただけますか?投資信託や上場株式等から生じる所得への課税は、本来20%であるところを現在10%とする優遇措置がとられています。
ですが、これは、「お金持ち優遇」という批判があったんですね。
というのも、投資額が大きければ大きいほど、優遇される金額は大きくなりますから、資産がたくさんある人にとって有利な点があります。
この優遇措置は2003年から実施されているのですが、この措置を本来の20%に戻すことになっています。
ですが、これだけだと、「貯蓄から投資へ」という流れが、断ち切られてしまうことにもなりかねません。
それで、20%に戻すのとセットで、増税への軽減措置として、2014年から、毎年100万円までの少額の投資を非課税にする「日本版ISA」が導入されることになったのです。――なるほど。
すでに導入は決定されているわけですね?はい。
法案自体は2年前の2010年の通常国会で通っています。
本来は2012年に始まる予定でしたが、2011年6月に2年間導入を延期する法案が通って、2014年から導入されることになりました。
――日興アセットさんでは、専用のホームページを作っているぐらいこの制度について積極的に情報発信されていますが、その理由を教えてください。
法案が通った時点で、「日本版ISA」が、日本の投信の世界全体に大きく貢献する制度であると思ったからです。
これまでの10%の軽減税率では、たくさんの金額を投資している人に特に大きな恩恵がありました。
これに対し、「日本版ISA」は、普通の人でも行える額の投資について「非課税」にするという内容で、非常に画期的な制度となっています。
日本では以前は「マル優」という非課税制度がありましたが、当社では「日本版ISA」制度は”非課税”であるということがポイントと認識し、「日本版ISA」に『投資マル優』という愛称を付けています。
かっての「マル優」が人気があったのは、”非課税”だったというのが大きかったと考えています。
「日本版ISA」は、「少額”投資”非課税制度」に相当し、『投資マル優』ともいえるので、当社では”日本人が好む制度”との仮説をたてています。
我々の使命として、投資信託を世の中に普及させたいと考えていますので、既存の投資家以外にも、投資未経験の方にも広く投資信託を利用していただくきっかけとなるのが、この「日本版ISA」ではないかと考えています。
――なるほど。
「日本版ISA」の名称の由来ともいえる、英国の「ISA」はどのようなものでしょうか?英国のISAは1999年4月からスタートしています。
ちなみに日本ではISA「アイエスエー」と発音していますが、英国のISAは「アイサ」と発音します。
ISAには「預金ISA(Cash ISAs)」と「株式ISA(Stocks & Shares ISAs)」の2種類があり、どちらも1999年に導入されました。
「株式ISA」は1987年に導入されたPEP(Personal Equity Plans:個人株式投資プラン)から替わったもので、「預金ISA」は1991年に導入されたTESSA(Tax-Exempt Special Savings Account:非課税特別貯蓄口座)から替わったものです。残高は46兆円(1ポンド120円で円換算)、そのうち23兆円が株式ISA、23兆円が預金ISAとなっています(2011年4月現在)。
英国の投信残高全体(71兆円)に占めるISA経由の投信残高は、18%にあたる12兆円となっています(2012年6月現在)。
――投信の普及に大きく貢献しているわけですね。
2008年に「英国版ISA」を利用している人は2,365万人ですから、その広がりを分かっていただけると思います。
毎年少額で利用している人も多いと推測され、だいたい40~50万円ぐらいを毎年投資しているケースなどが多いのではないでしょうか。
投資を促す目的の非課税制度は、英国のISA以外にも、カナダの「TFSA(Tax-Free Savings Accounts(非課税貯蓄口座))」、米国の「Roth IRA」などがあります。
TFSAの残高は4兆円(1カナダドル80円で円換算)で、カナダ人の20%にあたる670万人が856万口座を開いています(2011年6月末現在)。
また、米国のRoth IRAは、1970年代から導入されているTraditional Individual Retirement Arrangement(個人退職年金制度)の新しいタイプで、上院金融委員会のウィリアム・ロス(Roth)議長の名前をとって名づけられた制度です。
残高は21兆円(1米ドル80円で円換算)で、うち70%にあたる15兆円が投資信託です(2011年12月現在)。
(※ 海外の投資非課税制度については、こちらを参照)――英国だけでなく、カナダ、米国でも多くの人が投資非課税制度を利用しているんですね。
ところで、これから日本に導入されようとしている「日本版ISA」ですが、どのような特徴がありますか?2010年に通った法案では、「日本版ISA」の導入期間は2014年から2016年にかけての3年間。
1年に1人1口座、3年間で1人3口座を開設できます。
投資額は、口座開設年に100万円を上限に投資可能で、最大3口座で300万円まで投資可能です。
非課税の期間はそれぞれの口座で最長10年間で、適用投資対象は上場株式、株式投資信託となっています。
途中換金は自由ですが、売却分を再利用することはできません。
――導入期間は3年間で、1年ごとに口座を開設しなければならないわけですね。
実は、この内容では、銀行や証券会社の収益に貢献しにくいため、「日本版ISA」の普及に一生懸命に取り組もうとする金融機関は少ないのではないかと思っています。
ですから、石田さんのように、「全く知らない」「聞いたこともない」という人も多いわけです。
金融庁は、こうした点を考慮して、今年9月7日に公表した「平成25年度税制改正要望項目」の中で、日本版ISA制度の拡充案などを要望項目として盛り込んでいます。
拡充案では、今後導入予定の「日本版ISA制度」の恒久化や、非課税総額の上限を300万円から500万円に拡大すること、対象商品を公社債・公社債投信へも拡大することなどが要望項目として挙げられています。
非課税期間をそれぞれの口座で最長5年間、途中換金は自由とし、5年経過後はISAの新たな枠を活用できるため非課税期間は事実上無期限となっています。
口座も、開設数を原則1人1口座としており、1年ごとに口座を開設しなければならないというようなことはなくなっています。
――それなら、少額投資を長い期間にわたって続けられますし、毎年の口座開設の煩雑さもなくなりますね。
実際、英国でも、ISAが広がり始めたのは、制度導入から5年目以降だったのです。
従いまして、現行のものだと、導入期間が3年ですから、非課税の恩恵も受けにくく、リスクの低い商品を選ばざるをえないといったことになりかねません。
また、現行のままだと、口座開設は非常に煩雑なものとなっていますので、金融庁の要望のように開設数を原則1人1口座となると、そういった煩雑さがなくなるのも事実です。
――要望が通るのと通らないのとでは随分ちがいますね。
金融庁の要望については、平成25年度税制改正大綱に向けた議論が、これから行われる予定となっています。
――いずれにしても、「日本版ISA」は2014年から導入されるわけですが、例えばどういった活用法が考えられますか?投資経験者にとっては、大変有利なものと実感してもらえるのは確実ですし、投資未経験者にとっても、「非課税」というのは、大変魅力的だと思います。
現在日本では年配の方に資産が偏っている傾向にありますが、例えば贈与税の基礎控除が110万円ありますので、その枠を利用して、高齢者の方からお子さんやお孫さんに、毎年100万円ずつ資産移転することができます。ただし、お孫さんは20歳以上である必要があります。
また、金融庁の要望が通れば、非課税期間が事実上無制限ですから、いろんな選択肢が考えられます。
株式や株式投信だけでなく、「J-REIT」や「ETF」など、少しリスクをとった商品でも選びやすくなるのもその一つです。
――この記事を通じて、ぜひ、「日本版ISA」について知っていただきたいですね。
何も知らないままでの取材にも丁寧に応じていただき、本当にありがとうございました。
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