佐賀の「シシリアンライス」、絶品なのに知名度が低いのはなぜ?
東京で過ごした大学時代には、「佐賀出身です」と答えると「ああ!佐賀!」と言ったきり相手の笑顔が固まる様を、筆者は何度も見てきた。
その後の会話が続かないのだ。
悲しいことに、佐賀県が九州のどこにあるのかすら知らない人も多い。
自分の故郷のあまりの知名度の低さに、サークルの歓迎コンパで女の子たちに出身を聞かれて、豪快な笑顔で「九州です」と返事をしてきた学生時代を思い出す。
そしてその後、佐賀のお隣、福岡県の広告代理店に就職してはや10数年。
40代になった今、あらためて全国クラスで有名な佐賀の名物を考えてみたが、瞬時には浮かばなかった。
あえて挙げるなら……吉野ヶ里(よしのがり)遺跡くらいか?そんな佐賀に、B級グルメとして人気上昇中の料理がある。
「シシリアンライス」である。
B級グルメに詳しい人の間での知名度は高いらしい。
しかし、筆者の職場、福岡の博多では、シシリアンライスを実際に食べたことのある人はほとんどいないのが現状だ。
シシリアンライスとはどういう食べ物であるかを簡単に説明しよう。
ご飯の上に肉とサラダがのっていて、そこにマヨネーズがかかっただけのシンプルな料理。
しかし、味は絶妙である。
現在は佐賀市内にある20店舗以上のレストランで提供されている。
シシリアンライスのはじまりは昭和50年頃。
佐賀市中心街にある喫茶店でスタッフのまかない飯として出されたことだという。
調理法はサラダのように簡単なので、自宅でさっと料理することもできる。
基本的な作り方は、まずご飯の上に甘辛いタレで炒めた薄切り肉(牛肉が多い)と玉ねぎを乗せる。
その上にレタスやトマト、きゅうりなどの生野菜を盛り付けたら、最後にマヨネーズを網かけする。
これだけだ。
見た目は沖縄県のタコライスに近いかもしれない。
ネーミングの由来は、トマトの赤、ゆで卵の白、キュウリやレタスの緑にある。
この色味がイタリアの三色旗をイメージさせるということから、地中海に浮かぶシシリー島にちなんで名付けられたのである。
ところで、今回の取材を兼ねてふるさと佐賀へ帰省した筆者は、佐賀市内に着くやいなや、おなかがすいて喫茶店へ入った。
そして、やはりそこでもシシリアンライスに出合うことができた。
店によって微妙に盛りつけや素材が異なるのも、このメニューの特徴だろうか。
そして、さすがは看板ご当地グルメ。
注文して5分足らずでシシリアンライスが運ばれてきた。
やはり、本物のファストフードである。
目の前に鎮座したシシリアンライスは、一瞬サラダと見間違うほど、ごはんの上に新鮮野菜がたっぷり乗っている。
サラダの下には焼き肉らしきものを発見。
つくりは実にB級グルメっぽい。
フレッシュな野菜をマヨネーズが彩り、見た目は本当に鮮やか。
シャキシャキしたサラダと焼き肉、ご飯の異なる食感がたまらない。
そして、マヨネーズの甘さと、絶妙にマッチする甘辛な焼き肉の味付け。
その濃い味をライスが吸収してくれて、何とも食べやすい。
佐賀のユニークなところは、町が一丸となってこのメニューを盛り上げようと躍起になっているかというと、全然そうでもなさそうなところだ。
九州B-1グランプリでシルバーグランプリを獲得しても、町の人々の関心度合いは変わらない。
例えば静岡の「富士宮焼きそば」のように、「シシリアンライス研究会」のような団体が積極的に活動したり、名前にちなみ、三色旗を町中に立てたりというようなことはない。
そして、この料理と佐賀県の認知度を高めようというようなリーダー的人物も……見渡す限り、ここ佐賀にはいなさそうだ。
シシリアンライスを頬張る筆者の横では、地元のオヤジが黙々とカツカレーを食べていた。
ちょっと肩透かしをくらった気分で食後のコーヒーを静かにすすっていると、ドヤドヤと県外からの観光客らしき女性たちが入店。
シシリアンライスを一斉注文したのだ。
そうそう。
観光というのはこの華やかなノリだ。
このノリがうまく動けば、巨万の富になるのだ。
彼女たちの手には、有名全国誌の観光ガイドブックがしっかりと握られている。
それにしては迎える側にサービス精神が乏しいというか、媚(こび)がないというか、覇気がないというか。
……相変わらずだな、佐賀は、と思ったしだいである。大量のシシリアンライスの注文を受けた喫茶店のおばさんは、女性客たちの華やかさに気おされることもなく、かといって彼らと楽しく語らうこともない。
ひとりカウンターの奥で淡々と、丁寧に新鮮野菜の盛り付けをはじめた。
その、ゆっくりとした動きをじっと見ているうちにハタと気づいた。
全国のブームに飛びつかず、あまり同調もせずサービスもせず、注文を受ければ、おいしいものをきちんとつくって素朴に出す。
もしかしたら、これが(いや、「これこそが」)佐賀のいいところなのかもしれない。
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