シェパード&防弾チョッキで臨戦態勢! ブラジルのサッカー観戦が激しすぎ!!
特に世界最大級に数えられるサッカースタジアムを「エスタジオ・ド・マラカナン」を擁するリオデジャネイロでは、普段からサッカー熱がスゴイ。
アツすぎて、もはや笑えるレベルだった件をリポートしよう。
ジーコ、ペレ、カカ、ロナウド、ロナウジーニョ、ネイマール……それほど熱狂的なサッカーファンでない筆者ですら、世界を舞台に活躍するブラジル人サッカー選手の名前をいくらでも思い浮かべることができる。
さて、そんなブラジルはリオデジャネイロに取材にやってきた筆者。
せっかく来たのだから、やっぱり本場でサッカー観戦がしたい! と、ミーハー的なノリで意気込んだはいいが、場内での乱闘騒ぎは当たり前だと聞くし、前述のエスタジオ・ド・マラカナンは現在工事中なので、郊外の「エスタディオ・オリンピコ・ジョアン・アベランジェ」(通称エンジェニャオ・スタジアム)まで行かなくてはならないという。
「これは面倒だな」と思い、旅行会社に問い合わせてみると、「送迎付き、安全なVIP席での観戦」というツアーがあるというではないか。
ホテルまで日本人ガイドが迎えに来てくれるというし、これはなかなか快適である。
というわけでスタジアムまで1時間弱、バスに揺られてやってきたエンジェニャオ・スタジアム。
付近の壁という壁に落書きがあり、ちょっと大きな家の窓には鉄格子がはめられている。
スラムな雰囲気だが、警察官がうようよいるのでそれほど身の危険は感じない。
これだけ警察がいなくてはならないというのはどういうことか、とも思えるが。
スタジアムの入口は4カ所あり、応援するチームごとに入場する場所が異なる。
当然、乱闘を避けるためだ。
今日の試合は地元リオデジャネイロの「フラメンゴ」、対するはポルト・アレグレの「グレーミオ」。
ガイド氏の話によると、地元同士の試合では乱闘騒ぎは必ず起こるそうだが、今日は対戦相手のサポーターの数が少ないため「静かなものだよ」。
そうなのか。
安心したような、ちょっと残念なような……。
本来なら正面玄関から入るはずが、このスタジアムも来年以降に次々と開催されるスポーツイベントに向けて周辺を工事中であったため、駐車場にまわって入場。すると、そこへ赤いフラメンゴのバスがやってきて、選手たちが降りてきた! 駆け寄る子どもたち。
もちろん筆者も駆け寄った。
が、人垣で何も見えなかった。
諦めて席へ向かう。
持ち物チェックといったセキュリティーらしいセキュリティーはないが、ちょっとお高いVIP席だし何も心配はない。
客層も、赤ちゃんや小さな子どもを連れた家族連れとか、カップル、我々のような外国人旅行者らと平和なムード。
スタジアム全体を一目で見渡せるほど高い位置で、向かい側はフラメンゴ、向かって左手にはグレーミオのサポーター席となっている。
こちらもフラメンゴのサポーター席であるらしく、チームカラーである赤いシャツを着ている人が多い。
試合開始より1時間ほど前から、続々とサポーターたちが集まってくる。
ジーコが所属したチームで、ブラジル全土でも一番の人気を誇るというフラメンゴのサポーターたちは既に声を合わせて応援歌らしきものをがなり、その歌声がスタジアムに響き渡る。
1辺が3mくらいありそうな巨大な旗を振る人が何人もいる。
後ろの人はさぞ迷惑だろう。
一方、グレーミオのサポーターはこぢんまりとまとまっており、こちらは静か目。
アウェーであるためサポーターの数が圧倒的に少ないので当たり前だが、かなり居心地が悪そうだ。
選手たちがマスコットボーイたちと手を取り合って入場し、試合開始。
にもかかわらず、それまで騒いでいたサポーターたちが意外に静かなのが驚きである。
もっと「待ってました~っ」という感じで盛り上がると思っていたのに。
試合が始まってもぺちゃくちゃおしゃべりを続けている。
ちゃんと試合を観ているのかと思うと、いいプレーやちょっとしたミスなどに対し、怒号が飛んだりする。
とにかくおしゃべりと怒鳴り声でうるさいし、その言葉たるやとにかく隠語の嵐である。
「キミたち、ホントにフラメンゴのファン? 」といぶかってしまうくらい、悪口を言いまくっている。
セレブ(?)なVIP席なのに。
子どももいるのに。
そしてとうとう、グレーミオに先に点を奪われるフラメンゴ。
サポーターたちはまるでこの世の終りかのように頭をかかえ、悶絶している。
そのジェスチャー、私から見るととっても大げさである。点を取りかえせないまま、前半戦が終わった。
しばしの休憩時間。
我々の後ろにいた屈強な男性サポーターたちは自分たちの声が選手に届いていないと思ったのか、よりピッチに近い席へと移動して行った。
彼らの怒号はすさまじく、今にも暴れだすのではないかと思われるほどだったので、ちょっと安心。
代わりに、若い女性3人組がその席に座る。
ちなみに、男性でも女性でもおしゃべりの量は変わらない。
ブラジル人はとにかくマシンガントークである。
ふとピッチを眺めていると、ジャーマン・シェパードを連れた警備員10名がぞろぞろと入ってきて、フラメンゴ側のサポーター席の前に陣取った。
点を奪われた腹いせにグレーミオのサポーターを襲う可能性があるのだ。
物々しいにもほどがある。
よく見ればピッチの片隅には救急車とパトカーも止まっている。
これも、選手のためにスタンバイしているわけではないのだろうなぁ。
VIP席が高いところにあるのも、敵対するチームのサポーターがなだれ込んでこないようにするためなのだろうな。
後半戦が始まる。
点を奪い返さねばならないフラメンゴ。
サポーターたちのおしゃべりと怒号はさらに熱を帯びている。
……が、騒ぎ過ぎて疲れたのか、ときどき場内が一斉にしーんと静かになるのが印象的だ。
どういうタイミングでしーんとするのかはわからないが、突然静かになるのである。
それ以外のときは相変わらずマシンガントークと怒号の嵐だ。
3人組の女性サポーターの怒鳴る内容は先ほどの男性たちと変わらない。
声が高い分、耳をつんざく激しさだ。
そして、とうとうフラメンゴが1点を奪い返した。
授乳しながら観戦していた女性は赤ちゃんを放り出さんばかりに喜んでいた。
こんな様子を見て育つのだから、子どもも「サッカー最高」と思うようになるのだろうな。
ある意味、英才教育である。
試合は引き分けのまま終了。
サポーターたちは一様にすっきりした表情を浮かべている。
あたかもカラオケで熱唱した後のような、徹夜明けに熱いお風呂に入ったときのような、さっぱり感。
そりゃあ、あれだけ怒鳴り散らせばいいストレス解消になるだろう。
まぁ、試合に負けていればちょっと違う雰囲気だったかもしれないが。【拡大画像を含む完全版はこちら】