山田隆道の幸せになれる結婚 (11) 芸能界に”できちゃった婚”が多い理由
その理由には諸説あり、やれ芸能界はモラルが低いとか、やれ芸能界には教養がない人が多いとか、自由勝手に論じられている。
特にモラルに関しては、芸能界に「できちゃった婚」が増えれば増えるほど麻痺していくに違いない。
あの人もこの人もそうなのだから自分もそれでいいと思ってしまうのは人間の性だ。
モラルとは価値観の多数派なのだ。
さらに、僕はもうひとつ別の理由があると考えている。
それは、芸能界の仕事は往々にして結婚のタイミングを見極めにくいから、これである。
たとえば、ある芸能人カップルがいたとする。
(以下、すべて空想です)男は連ドラや映画に多数出演している若手の人気イケメン俳優だ。
最近はビジネス至上主義のクライアントからアニメの声優や洋画の吹き替え役を依頼されることも増え、それを軽い気持ちで引き受けたものだから、原作ファンに嫌われ、声優業界に妬まれ、ツイッターも炎上。
しかし、だからといって人気に陰りがあるわけではなく、映画の撮影スケジュールは3年先まで埋まっており、来年には密かに小説を執筆しようと企てている。
小説はまだ1枚も書いていないが、出版社はすでに決まっているから安心だ。
一方、女は人気アーティストだ。
大手レコード会社から異例の待遇でデビューしたのは5年前。
ルックスが良かったためか、芸能界の重鎮に寵愛され、デビュー曲が話題の映画の主題歌になるわ、CMソングとして使われるわ、都市圏の歓楽街に看板が立つわ、宣伝カーが街中を走り回るわ、とにかく数億円の広告費がかかった一大キャンペーンを展開。
その結果、デビュー半年で知名度が著しく向上し、現在はニューアルバムを製作中。
来年早々から全国ツアーが控えており、終了後はなぜかセクシー写真集の撮影でサイパンだ。
そんな二人は2年前に友人の紹介という名の合コンで知り合い、その夜から早くも付き合うようになった。
以降は互いの所属事務所に内緒にしながら逢瀬を重ね、半年前から結婚を意識し始めた。
しかし、結婚するためには互いの事務所の了解が必要で、二人ともマネージャーにそれとなく打診したものの、どちらも烈火のごとく反対されてしまう。特に逆風が激しかったのは、女のほうだ。
実は彼女は数億円の出資のおかげで知名度こそ上がったものの、肝心のCDセールスはからっきしで、デビュー時の投資額の半分も回収できていない状態。
一応、CDチャートには彼女のシングルがトップ10入りを果たしているが、それも本当は事務所がCDを大量買いをしているだけであり、利益が出るどころか投資額がますます増えていく悪循環に陥っている。
言わば、虚飾の人気なのだ。
だから事務所にしてみれば、もはや不良債権となった彼女をバラエティ番組に出演させたり、セクシー写真集を出したり、暴露本を書かせたりすることで、少しでも投資額を回収したいと目論んでいた。
それなのに、このタイミングで結婚されたらたまったものではない。
本当に質の高い音楽を提供できるなら、そのアーティストが独身だろうが既婚者だろうが関係ないが、それはあくまで理想論で、彼女の場合は数少ないファンのほとんどがルックス目当ての男性である。
しかも現在契約しているCMは、彼女が独身の美しい女性というパブリックイメージだから成立するものばかりであり、既婚者になればCM降板どころか、莫大な違約金が発生する可能性だってある。
だいたい、ここで結婚したら現在制作中のニューアルバムや来年の全国ツアーはどうなる。
レコード会社との綿密な打ち合わせの末、ニューアルバムの全体コンセプトは「若い女性のピュアなラブソング」に決まっており、全国ツアーもその楽曲をメインに展開することになっているのだ。
既婚女性ではイメージが合わなくなってしまう。
そう考えると、このタイミングでの彼女の結婚は多方面に莫大な損失額を出すことになり、ただでさえ投資額を回収できていないのだから、ますますありえない。
こっちは彼女を売るために散々苦労したというのに、ろくな利益も出さず、自分だけ幸せになりたいとは何事か。
その幸せの陰で倒産する零細企業もあるんだぞ。
それで無職になったオヤジにも妻と子供がいるんだぞ。
それを考えたことがあるのか、ユーは。
だんだんキャラが迷走してきたので、ここらでまとめます。
(すべて妄想です)要するに、芸能人には上記のような複雑な事情が絡んでいることが多いため、周囲の人すべてが納得する婚期が訪れにくい。
かくして、そうなると周囲の反対を押し切って結婚するしか手はなく、その最大の武器になるのが「できちゃった婚」というわけだ。
さすがに純粋に愛し合っている者同士から「子供ができた」と告白されたら、よほどのことでもない限り、快く祝福してあげたいと思うのが人情だ。
所属事務所をはじめ、関係各社に莫大な損金が出ることも珍しくないだろうが、そこは顔で笑って心で泣くのが業界を支える裏方たちの美徳なのかもしれない。
痩せ我慢も日本人の粋である。
したがって、僕は若い芸能人カップルの「できちゃった婚」のニュースを見聞きするたびに、裏方の苦労を察して違う意味で胸が熱くなる。
もちろん僕の妄想がすべて正しいとは限らない(当然)が、少なくともそこにあるのは歓喜の涙だけではないはずだ。
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