名古屋の喫茶店「マウンテン」の店主は、なんで「甘口スパ」を開発したの?
業界をリードしてきたこの店は、オープンから40年以上経た今もなお、店主の持つ独特のオーラのもとで圧倒的な存在感を放つている。
今回はこの店の創業者へインタビューを試みた。
「お!よぉ来たなぁ。
おみゃーさん前にも一度会ったことがあるなぁ」。
ギラリと鋭く光るまなざしをまっすぐに筆者へ向けたこの御仁こそ、誰あろう、マウンテン店主の加納幸助氏である。
彼の記憶の通り、筆者は15年以上も前に一度だけ彼のインタビューを敢行していた。
よく覚えてくれていたなと静かな感激を胸に、改めて彼の顔を見る。
久しぶりに会う彼は、顔に若干の年輪を刻んではいるが、その生命力は少しも衰えていないようだ。
「今回は何を(写真で)撮る?やっぱ甘口系か?アンタの好きなもん作ったるで何でも言ってちょうよ!」。
「甘口」とは何のことかというと、この店の名物「甘口スパゲティ」のこと。
このメニューこそ、マウンテンの代名詞ともいうべき名物なのだ。
他に類を見ないインパクトで数々のメディアに登場し、その名は全国にとどろいている。
ネット情報やガイドブック片手に、この「甘口スパ」だけを目当てに店を訪れる観光客も今や珍しくない。
「甘口スパの話しきゃぁ?これはもぉ20年くらい前に作ったんだわ。
苦労したわぁ!いろいろ試してよぉ。
デザート感覚で食べられるスパゲティを作りたかったんだわ。
あったかくても冷たくってもおいしくなけりゃいかん。
それが苦労したのよ」。
彼の話は更に続く。
「甘口抹茶スパの抹茶なんて、高級な粉を使っとるでよ。
いためても粉が分離しないよう工夫したったわ。
甘口イチゴスパは冬と春の限定なんだわ。
イチゴが一番熟した時じゃにゃあとウマないんだわ。
でもこの時期のイチゴ使ったら、まぁ抜群にうみゃあでよ」。
驚いた。
なんとあのソースも自家製だったのか!とにかく見た目のインパクトだけでなく、素材など味のこだわりも強いことが判明した瞬間だった。
そう言えば、確かにパスタも生麺だ。
このパスタがモチモチしていて、白玉みたいな感じなのだ。そうこうしているうちに、デーンと目の前に「甘口抹茶スパ」が登場。
全身グリーンティカラーのパスタに、クリームがどっさり盛られている。
そして山の頂には、粒あんがハーゲンダッツのごとくトッピングされているのだ。
いつ見ても圧倒的な存在感である。
これデザート感覚というには、ボリュームあり過ぎじゃないのか?「量?麺だけで600グラムはあるわ。
ホントは、ご飯を食べた最後に、みんなで取り分けて食べてもらおうって感じで作ったんだわ。
だけど、ガイドブックとか見て店に来る子とかは、これだけ食べて帰るわなぁ」。
なるほど、ホントは取り分けるものなのか……って、今の状況、コレは筆者ひとりで食べろってことなのか??と思ったのもつかの間、加納氏の食べ方レクチャーが始まった。
「まずはこのクリームとアンコと麺をかき混ぜるんだわ。
このアンコも最上等のもん使っとるでよ!和菓子屋なら金賞もん!」何が金賞なのか一般人には既に理解できない。
しかし言われた通りにぐっちゃぐっちゃとかき混ぜると、パスタの熱でクリームがじわっと溶け始める。
フォークで麺を丸め意を決してひと口モグモグ。
うむ確かに抹茶の味は濃い!麺に絡むのは抹茶ソースというより粉を溶かした抹茶という感じ。
いい意味で確かに粉っぽい。
考えてみたら抹茶とクリームとアンコの組み合わせ自体は、和洋菓子の世界ではポピュラーなもの。
確かに見た目は衝撃的だが、慣れれば食は進む。
しかし、壮絶に甘いことに変わりはない。
その上、このボリュームだ。
必死に食べ続ける僕を尻目に、加納氏は静かに哲学を語り始めた。
「哲学はよぉ、この店は小さいけど何でもそろう百貨店みてゃあな店にしたいと思っとるんだわ。
全部なんでもそろっとったら、お客は逃げんでよ!」さらに、「でもエエ加減なもの作ったらいかんのだわ。
値段が高すぎてもイカン。
これはお客との阿吽(あうん)の世界だな」。
さすがは加納氏。
フード、ドリンク合わせて今現在、メニューだけでもなんと300種以上はあるそうだが、今後も新作に取り組むというのだ。
ところで今までのベスト・ワンは?と聞いたところ加納氏らしい答えが返ってきた。
「ベスト・ワン?そりゃ全部だわ。
みんなかわいい子供みたいなもんだでよ!」そして最後に、「かき氷も食うか?食わんでもエエから、写真撮っときゃあ!」と抹茶パスタで腹いっぱいの筆者の前に次なる「マウンテン」級の巨大イチゴかき氷が現れたのであった。
●Information
喫茶マウンテン
名古屋市昭和区滝川町47-86【拡大画像を含む完全版はこちら】