家族に尽くしてきた妻、50代半ばをすぎて”習い事”にはまった理由とは…
妻の習い事はピアノ、社交ダンス、習字、英会話、ゴルフと計5種類を数える。したがって、費用もそれなりに高額なのだが、Dは業績好調の大手企業に勤めており、同世代の平均よりもはるかに高額の所得があるため、金銭的に困っているわけではない。むしろ自分の稼ぎによって妻が悠々自適の暮らしをしているなら、それは男の誇りというものだ。
しかし、そんな妻から自分への感謝の気持ちがまったく見えないなら、話は別だ。
妻は習い事の関係でいつも忙しくしており、ひどいときはDのために夕飯の支度もしないまま、深夜の帰宅になることもある。
たまに土日に外出しようと誘っても、いつも習い事関係の先約が入っており、自分の相手をしてくれないのだ。
まったく、誰のおかげでそういう優雅な暮らしができると思っているのだ。Dの不満の根幹はそこにある。妻が習い事にはまるのは自由だが、だからといって夫をないがしろにしていいわけではないだろう。それだけの習い事を楽しむには当然お金がかかるわけだから、その金の出所である旦那に感謝してしかるべきだ。その旦那のせっかくの休日に、スーパーで買った惣菜を与えて、心が痛まないのか。
当然、最初は妻の浮気を疑った。もしや習い事仲間の中に、好きな男でもできたのではないか。
だから年甲斐もなく習い事に夢中になり、今さら美容にも凝りだしたのかもしれない。そうだとしたら、これは大問題だ。人の稼いだお金で不貞行為とは、絶対に許されない。
疑いだして以降、妻の素行を人知れず調査した。しかし、ケータイの発着信履歴を調べても、送受信メールを調べても、レシートを調べても、怪しい材料はなにもなく、見つかったのは習い事に関する真剣な情報ばかりだった。どうやら妻は本気で習い事のレベル向上に夢中になっているようだ。それを証拠に習字はいつのまにか二段である。
そんなある日、妻の帰りが3日連続で遅くなった。
理由はすべて習い事だという。かくして、Dの不満はついに限界に達した。このところ仕事が忙しくて疲れていたにもかかわらず、毎晩スーパーの惣菜で夕飯を済まされてはたまったものではない。
「おい、いいかげんにしろよ。少しは家のことも考えろ」
Dはついに妻に抗議した。すると、妻は痛いところを突かれたような、そんな苦い表情を見せたあと、申し訳なさそうに言った。
「ごめんなさい。確かにちょっとやりすぎかもね……。
たまたま始めた習い事が思った以上に楽しくて、いつのまにか歯止めがきかなくなっちゃったの」
「だからといって、ここまで熱心になることもないだろう。いったいなにが楽しくて、今ごろピアノや習字に夢中になるんだ?」
「それは……」
そこで妻は少し沈黙した。そして、ほどなくしてゆっくり口を開く。
「ピアノも習字も、頑張って上達すればするほど、それに見合った段位をもらえたり賞状をもらえたりするから……。そういうのって、なんか自分が認められた気がして、今までになかった充実感があるの。だって、今まではそういうことがなかったから」
そんな妻の言葉に、Dは返す言葉が見つからなかった。
振り返ってみれば、昔から妻の口癖は「認められたい」だった。高校卒業後、社会でろくに働くことなく22歳でDと結婚した妻は、それからすぐに専業主婦となり、3人の子供の教育と家事を両立させる人生を送ってきた。
つまり、妻が生きてきた社会とは常に家庭の中であって、言わば彼女の人生とは家族に尽くすためのものだった。
だから、子供たちが独立した今、妻は習い事に目を向けるようになったのか。Dはそう思うと、一気に腑に落ちた。確かに育児や家事は、それらを普通にこなして当たり前という風潮があり、社会人のように第三者から仕事の成果を高く評価されたりすることは少ない。しかし、一方の習い事は日々の努力の結果が形となってあらわれ、それを第三者から評価されることも多い。そう考えると、今まで専業主婦の道をひたすらに進んできた妻にとって、そういう第三者からの評価は新鮮な喜びだったのではないか。頑張ったら頑張ったぶんだけ認められたい、あるいは評価されたいと願うのは人間の真理だ。
きっと自分にも責任があるのだろう。
Dの中にそんな罪悪感が湧いた。これまでの自分は、家事に励んでくれる妻に感謝の言葉をかけることが少なかった。それどころか自分は金を稼いでいるということを振りかざし、妻に感謝されることばかりを考えていた。
もしかしたら、自分がきちんと妻を評価してあげれば、この状況も変わるのかもしれない。せっかく子供たちが独立して、二人の時間が増えたのだ。習い事なんかに妻をとられてたまるか。出会ったころのように、再び妻と向き合おう。そう決意するDであった。
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