【コブスくんの使えそうな仕事術】ミステリー小説翻訳家に聞く、人を惹き付ける文章の秘訣とは?
面白いミステリー小説って読んでいるとグングン引き込まれていきますよね。ストーリーや謎解きの魅力ももちろんですが、やはりそこには人を惹き付ける“文章の魅力”があると思わざるをえません。そこで、映画化も決定した『チャイルド44』 (新潮文庫) を始め、これまで数々のミステリー小説を翻訳してきた翻訳家の田口俊樹さんに、優れた文章の書き方やミステリー小説の魅力についてお話を伺いました。ちなみに田口さんは今年もっとも面白かった海外のミステリー小説を決める「翻訳ミステリー大賞」を創設した方です。
--いい文章ってなんですかね?
「簡単に言えるのは、簡潔で明解であることです。自分が言わんとすることが相手にきちんと伝わる文章が美しいと思います。難解な文章の持つ美しさもありますが、分かりにくいものを伝えるというのであれば、分かりにくさをきちんと伝える明解さが必要です。良くないのは自分の考えていることがハッキリしないままに綴られた不明瞭な文章です。
とはいっても、いきなり全体像や意見をハッキリさせた状態から書き始めるというのは、むしろ稀なことで、書きながら考えをコンクリートする、その過程で何かを発見する、というのが本来のプロセスですが」
--翻訳するときもそのあたりを考えますか?
「そうですね。ただ、翻訳に限って言えば100%を伝えようと思ったらうまくいかない。それを文章に起こせば当然込み入ったものになる。言葉選びこそ翻訳者のセンス。その積み重ねで一冊の本ができます。また、翻訳者の仕事としておもしろいのは、自分では絶対こんな文は書けないという文が結果的に書けてしまうというところにあります」
--気がついたらすごいものになってた、みたいな?
「もちろん原作があるからこそできることなのですが、日本語になれば自分のものという気持ちはあります。外国の作家ならではのスケールの大きさはなかなか日本人の感覚では描けなかったりするものです。そこがミステリー小説を翻訳する醍醐味です。
今年から書店員が選考する『本屋大賞』に対抗するような形で、翻訳者が選ぶ『翻訳ミステリー大賞』というものを始めました。今年はスウェーデンの新人作家、スティーグ・ラーソンの『ミレニアム』(早川書房)や、ドン・ウィンズロウの『犬の力』(角川文庫)など、重厚な世界観を描いた優れた作品が多かったと思います。翻訳ミステリー小説をもっとたくさんの人に読んでもらいたいですね」
--ありがとうございました。
田口さんの訳書はこれまで、『夢で殺した少女』 (ヴィレッジブックス) 、『マンハッタン物語』(二見書房)、『消せない炎』(理論社)、『きみの遠い故郷へ』(文藝春秋)など多数。今注目の「翻訳ミステリー大賞」の選考作と合わせてチェックしておきたいですね。
(根岸達朗/プレスラボ)
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