【エンタメCOBS】マックのコピーは「よだれが出ちゃう」!? 英語のスラングはどう訳す?
都会の若者文化の中から生まれる英語のくだけた言い回しをスラングと言いますよね。学校の教科書ではあまり習わない言葉ですが、知っているとなんだか「わかってるやつ」という感じがしてちょっとかっこいいですよねえ。というわけで、いわゆるヒップ・ホップ・カルチャーとは切り離せない、さまざまな黒人スラングを網羅した「アフリカン・アメリカン スラング辞典」(研究社)などの著書を持つ訳詞家・泉山真奈美さんに、スラング的な気の利いた言い回しをいくつか教えてもらいました。
——泉山さん、どうも初めまして。こういう時は「What’s up!(ワッツアップ)」ですか?
「だめです。たしかにWhat’s upはスラングの挨拶ですが、初対面の人にいきなり使うものではありません。これは『よう、元気かい?』というような意味です。スラングなので、TPOをわきまえて使う相手を選ばないと失礼に当たります。
私がミュージシャンに会ってインタビューするときでも使いません」
——ははあ、それは失礼しました……
「人は『使ってはいけない!』と怒られるような言葉から先に覚えるものです。ただスラングがすべて俗っぽいものなのかというとそうではなくて、ステキな言い回しもたくさんあります。たとえばマクドナルドのキャッチコピーもある種のスラングです。『I’m lovin’ it(アイム・ラヴィン・イット)』というのを耳にしたことがありませんか?」
——はい、陽気なナレーションが頭に浮かびました
「Loveという単語は本来の文法で言えば、進行形になりません。そこをわざわざ進行形にしている。つまりこれは『今すぐ○○したい』『強烈に○○したい』ということを意味してます。以前、大学で講義をした時にこれを学生に訳してもらったところ『今すぐ食べたい!』という回答が出ました。間違いではないけれど、私だったら『よだれが出ちゃう!』と訳します。
辞書にはないような意味を引き出す。それがスラングを翻訳するということです」
——洋楽の曲タイトルにもそういうのありますよね?
「例えば、マーヴィン・ゲイの『I Heard It Through the Grapevine!』という曲は邦題では『悲しいうわさ』です。本来、Grapevineというのは『ぶどうのつる』という意味なんですが、ここでは『ぶどうのつるをたどるように、君の“悲しいうわさ”を聞いたよ』というところから邦題がついています。ステキですね。ほかにもジャクソン・ファイブの曲に『I Want You Back』というものがありますが、これは本来なら『I want you to be back』が正しいんです。つまり『I Want You Back』はすごく歌っぽく、口語っぽい。これも一つのスラング的表現ですね。ちなみに邦題は『帰ってほしいの』です」
(泉山さんが訳したマイケル・ジャクソンのベスト盤)
——そういうスラングをいろいろ知ってたらモテますか?
「日本人同士だとちょっとわからないですね(笑)。
でも、ネイティブの方には好感を持たれるかもしれません。たとえば、クリスマスカードの書き方一つにもこなれた感じを出すことができます。『You’re THE gift from up above. Merry Christmas』なんてどうでしょうか。『君は神様からの贈り物だね』という意味です。ポイントはTHEを大文字にすること。僕に必要なのは君だよ、ということを強調する書き方ですね。日本語だと歯の浮くような言葉かもしれませんが、英語だとわざとらしく感じません。ぜひ機会があれば使ってみてくださいね」
——ありがとうございました。
(いろいろ教えてもらいました)
ひと言に英語とは言ってもいろいろな表現があって奥深いですね。ちなみに泉山さんは、ジャクソン・ファイブの歌詞の意味が知りたくて英語の世界にのめり込んでいったそうです。もしみなさんが翻訳に関心を持つことがあるのなら、泉山さんのように大好きなものを一つ見つけて、それを突き詰めていくのもいいかもしれません。
(根岸達朗/プレスラボ)
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