【コブスくんの使えそうな仕事術】サンタクロースが集団で走る! フランスの面白マラソン
マラソン王国といわれる日本では現在一年間に約1600のレースがありますが、フランスではその3倍以上、5000以上のイベントが開催されています。しかも、「良いタイムが出る」、「走りやすい開催地」でのマラソンよりも、「オリジナリティのある愉快なレース」が大人気。
そこで、パリ在住で『フランスを爆走する!』(マガジンハウス)という著書がある菅野麻美(かんの・まみ)さんに、フランスのマラソン大会事情についておうかがいました。
■笑顔につられ、給水所でカンパイ!
――フランスでは給水所にアルコールが置いてあると聞きました。本当ですか?
菅野さんはい、本当です。「給酒所」、つまり給水所にお酒が置いてあるマラソン大会は各地で開催されています。ワインの産地であるボルドー、ブルゴーニュ、アルザスなどはワインが、シャンパーニュ地方ではシャンパンが、フランス西部の町、コニャックの近くにあるジャルナックで開催される大会ではコニャックが飲めるんです。つまり、その土地の名産を振る舞ってくれるわけです。
――走っているときに飲むと、酔っ払いませんか?
菅野さんすぐに、汗となって飛んでいってしまいます。食べやすいサイズの名物料理が組み合わせてあったりするのも楽しいものです。私の場合、初めて参加したハーフマラソンがシャンパンの飲めるレースでした。無事に完走できることを祈り、一生懸命走っていったら、最初の給水所からシャンパンのグラスがズラリという展開で……。
でも、皆さんがあまりにも自然に、かつ陽気にシャンパンを飲み、再び走りだすので、私もすべての給水所でありがたくちょうだいしたことが記憶に刻まれています。
――飲みすぎて気持ち悪くなるランナーはいませんか?
菅野さん見かけないですね。フランス人はたいてい、自分でうまく酒量をコントロールするので、普段からあまり酔っ払っている人を見かけません。胃腸が丈夫なのでは、という気もします。
足腰はもちろん、内臓が丈夫でないとフルマラソンは走りきれないと思うのですが、強い体を持っているからこそ、アルコールを摂取してもうまく消化できるのかもしれませんね。
■サンタクロースが爆走。トナカイは車で会場へ
――サンタクロースが走るレースがあるのだとか。菅野さんクリスマスにパリの郊外、イシー・レ・ムリノーという町で行われる大会のことですね。参加ランナーが全員仮装するレースがあり、サンタクロースの大集団が街を駆け回ることになります。申し込むときに、オプションでサンタの衣装を購入することもできますよ。でも一年くらいかけて準備したのではないかと思うような、凝ったオリジナルの衣装を身にまとっている人もいます。
トナカイやクリスマスツリーに扮(ふん)したランナーがいましたが、その格好のまま普通に車を運転して会場までやってきて、「さぁ、走ろうか~」というノリが、見ていてまた面白いんですねぇ。
たとえ外見はサンタや天使でも、公式の国際レースとして認定されていますから、公式タイムも出るんですよ。
これが公式のレースとは……。フランスはおおらかかも!?
■腰まで埋まった恐怖の沼マラソン
――日本ではあり得ない!と思うマラソンはありますか?
菅野さん愛犬と一緒に走るレースや、恋の国らしくカップルで一緒に走るマラソンもあります。カップルマラソンでは、ゴールするときに手をつなぐという決まりがあります。まぁ、一人で走るレースでも、個人的にスタート前に恋人と抱き合ってキスしてから出発、という人は多いですから、光景として珍しくないかもしれませんが……。
ほかに、大会の運営面からいうと、何キロ地点かを示す表示が見当たらなかったり、コース表示不備でトップ集団が迷子になったりと、日本よりもかなり適当にやっている感はあります。
病院内を走るというレースというのもありました。普通、病気やケガで苦しんでいる人たちの横を、元気ハツラツと走るなんて、気が引けませんか?日本ではありえないですよね。
患者さんとのレクリエーションではなく、患者さんを励ますためでもなく、単に元気なランナーが病院を走るという大会なんです。応援に集まるのも、点滴中の入院患者さんと白衣の医療関係者たちです(笑)
ほかにも、「浜辺を走る」というマラソンではてっきり砂浜を走るのかと思っていたら、沼のようなところをベチャベチャになって走る大会だったことがあります。足が埋まるなんて甘いものではなくて、腰まで沼に埋まってしまうんです。埋まった参加者は、ほかの参加者に引き抜いてもらっていました。
――最後に、1点。どこのマラソン大会なら、より面白い体験ができるでしょうか?
菅野さんフランスには普通のレースがないんです(笑)幸か不幸か、どんなレースに行っても、必ず驚くことやあきれること、笑ってしまうようなことがあります。そして必ず走ってよかったなあ!と思います。
どこへ行ってもおもしろいレースに遭遇するとは。
エピソードを聞けば聞くほど、フランスのマラソンイベントに参加したくなります。
監修:菅野麻美氏。
美術ジャーナリスト。1986年渡仏、’94年パリ大学造形美術学部博士課程前期修了。パリ郊外に住み始めてからジョギングを開始し、フランスで開催されるユニークなマラソンに数多く出場。各地で入賞を果たし、フランス選手権出場資格を獲得する。これまでのおもしろいマラソンレースを振り返った著書『フランスを爆走する!三ツ星マラソン2106km完走記』(マガジンハウス1470円)がある。
(蘭景×ユンブル)
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