【エンタメCOBS】もしも科学シリーズ(33):もしも摩擦がなくなったら
しかない陽子に、およそ5.88kgの物体を持ち上げるのと同じ力が生じるのだから、分子間力の強さは測りしれない。
極性に関係ないファン・デル・ワールス力は、クーロン力と比べると微弱ながらも、近距離では大きな摩擦を生み出す。表面が滑らかなセラミックやガラス板を合わせると、張り付いて取れなくなるのを体験したことがあると思うが、その正体がファン・デル・ワールス力だ。
電気や磁力の影響を受けない物体でも、分子間の引力が集まると大きな摩擦へと生まれ変わる。水を冷やすとかたまって氷になるのも、分子間力のおかげだ。
ノーベル物理学賞を受賞した東大の小柴教授が、摩擦がなくなったらどうなるか?という試験問題を出したと聞く。摩擦がないので答えが書けない、つまり白紙回答が正解のウイットに富んだ問題だが、分子間力すら働かなければ、回答はおろか問題用紙さえ形を成さなくなってしまう。
もしも摩擦のない世界に飛び込んだら、自分の存在すら危険にさらされ、永久機関どころの話ではなさそうだ。
■まとめ
艱難(かんなん)汝を玉にす、という言葉がある。困難や苦労が摩擦となり、りっぱな人間(=玉)に磨き上げるという意味だ。