ご褒美チョコと一緒に味わう恋の物語【TheBookNook #17】
2.サガン『ブラームスはお好き』(朝吹登水子 /訳)
成熟した女性の孤独と老いへの不安……それらが “恋”と相まってサガン氏の美しい文章で綴られていく本作品。このなんでもない「ブラームスはお好きですか?」という一句が、とつぜん広大な荒野の世界を露わに見せてくれたように思えました。
主人公の彼女が忘れていたあらゆること、避けてきたあらゆる疑問、移ろう彼女の心情の機微をベースに描かれていくパリの中産階級の恋愛模様に“全身全霊をかける恋”を真正面から突き付けられます。
恋愛小説になじみがない私としては、ストーリー展開については毒にも薬にもならないと思っていましたが、ちょっとした仕草に愛情を感じたり、相手を想ってとった行動が裏目に出たり、ときどきで目まぐるしく揺れ動く登場人物の感情の振れ幅がやけに生々しく、正直、読みながら迎える結末は安易に想像できてしまうのですが……かなり楽しめました。
迫りくる結末を横目に僅かな希望を捨てずにはいられず、“彼女”の手を取るように読みとどまる時間さえありました。たとえるなら、体全身のささくれを剝がれる直前までピリピリと引っ張られているような感覚とでもいうのでしょうか……。
多少の読みづらさはあれどハマる人はどっぷりハマれるこの世界観。