主人公だけじゃない。印象深く残る脇役小説【TheBookNook #19】
淡々と描かれる妻と夫のやりとり。作者である山崎さんは“死”を日常のことのように軽く描きたかったそうです。
どこまでも繊細で静かな山崎さんの文章は、まるで私たち読者のすぐ目の前で喋っているかのように真っ直ぐに心に入ってきます。設定から泣かされると予想して読み始めましたが、読後に待っていたのは穏やかで新しい距離感の意識の刷新。人の数だけ丁度いい距離があり、近いことが素晴らしく、遠いことは悲しいなんて、思い込みなのかもしれない……。遠くても「美しい距離」はきっとある……ということをそっと教えてくれました。死を前にして妻が語る死生観や因果応報には胸をうたれます。歯がゆさとも諦めとも違う、本当に、ただただ美しい距離でこの夫婦を抱きしめたくなりました。
たんなるお涙の物語ではありません。大切な人がいるあなたに、ぜひ。
■誰目線で、本を読むか
いかがだったでしょうか。物語が主人公だけで成り立つことはほとんどありません。特に日常を切り取ったような小説には“こんな人、いるいる”という脇役や“こんな言葉をかけてくれる人がいたら素敵だな”という脇役が登場します。
だからこそ私たち読者が自身を投影して親しみを持っていろいろな作品の世界を楽しめているのかもしれません。