本選びのすゝめ【新潮社編】【TheBookNook #21】
手で、鼻で、耳で、口で、いろいろなものを感じていく彼女は、目が見える私達よりも遥かにこの世界を“見て”生きていました。その感受性が本当に美しくて、壮絶な人生が描かれている筈なのに読後は少し羨ましくも思えました。小川糸さんの描く世界は、物語の中にではなく、現実にあるのかもしれません。少し外の風にあたってこようかな。
2.杉井光『世界でいちばん透きとおった物語』
一度も会ったことがない父親の訃報が届くところから始まる、この作品。メディアで幾度となく絶賛されていて気になって手に取りました……が、あれ? 期待していた分、初めはピンとこず。読み進めていくと……ん? あ、え、なるほど!
本作は、私達読者が生きる現実世界を大きく取り込んだ複層的なミステリー作品でした。ライトノベルなタイトルや装丁からは想像できない展開が後半に待ち受けており、物語の内容がどうというよりも、電子でも、映像でもない、“紙面”だからこそ許されたロジックと、杉井光さんの好奇心、仕掛けに気づいたときは、思わず“ほぉ~”と声にだしてしまいました。
多くの本は読み手の感情に変化があれば見え方も変わりますし、再度読み直して初めて気づけることがあったりもしますが、この作品は一読目が一番、楽しめるかもしれません。