心のデトックスの形は人それぞれ。【TheBookNook #31】
終盤まで逃亡する彼の視点で描かれることは全くなく、周りの人間の視点だけで進む構成となっており、そのため、彼の口から現在の心境や恐れが直接語られる場面はほぼなく、読者の想像にそのすべてが委ねられます。……そう、すべて。
でも、だからこそ予想外な結末に切ない余韻、辛い読後感が長く残るのです。誰がこんな結末を想像できたでしょうか……。のめり込んで軽快に読める各章の面白さと、それに反するほど重いテーマをずっしりと感じられる重厚な読後感。読んでいる間はずっと彼のことが怖かった……。
関わる人を惹きつける、彼のやさしさの“正体”が知りたかった。映画化されることも決まっていますが、ぜひ先に活字で味わっていただきたい。
涙の種類が変わってきます。
井上真偽『アリアドネの声』
「無理だと思ったらそこが限界」……この言葉の意味が読む前と後でガラリと変わる本作品。
巨大地震で地下施設に閉じ込められてしまった女性を救う救助劇なのですが……。その女性は“見えない、聞こえない、話せない”3つの障がいを抱えていました。
迫りくる崩落、浸水、火災……。命のタイムリミットは6時間。便りの綱は一台のドローン。臨場感あふれる救助描写と、一秒も記憶に留められないドローンの難解機能説明にただただ圧倒されていきます。