私が愛するヴィンテージ腕時計が与えてくれた心の余白
■1本のヴィンテージ腕時計との出会い
幼いころから憧れている大人の女性がいます。彼女はいつもおしゃれな腕時計をつけていました。
白くて細い手首に色鮮やかなパープルの革ベルト、四角いフェースにギリシャ数字の文字盤。今思えば、あれは「Cartier」の「TANK LOUIS CARTIER」だったのかな。
とても美しく輝いていて、ちょっと経年しているようにも見えました。「大人になったら、わたしもこんなきれいな時計をしたいなぁ」と幼心にも見惚れたのを覚えています。
あれから10年以上が経ったころ、銀座のアンティーク時計店で1本の手巻きの腕時計に出会いました。
店主によるとニューヨークのバイヤーから仕入れた、今では世界にひとつしかないヴィンテージ時計なのだとか。
金無垢のケースにダークグリーンのクロコダイル革のベルトは変わらず当時のまま。文字盤には「Heustone」という聞いたことがない銘が入っています。
後で調べてもらったところ、この時計は1950年代にとあるスイスの小さな工房で作られたものでした。残念ながら、今はもうこの工房は存在しないそうです。
今目の前にある半世紀以上も昔の時計が時を経て、ヨーロッパの小さな工房からアメリカへと渡り、ここまで巡ってきた"時の旅路"を想うと、ロマンを感じずにはいられませんでした。