トラ猫と不器用な人間との友情に注目!『舟を編む』【映画ライター渡まち子の「猫目線」映画レビュー2】
映画の中に登場する猫に注目して、作品の見どころや猫ポイントと共にご紹介するこのコラム。今回ご紹介するのは、日本映画『
舟を編む』(2013年)。辞書作りに情熱を注ぐ人々の姿をあたたかなタッチで描くヒューマン・ドラマです。
◆あらすじ大手出版社、玄武書店に務める馬締(マジメ)光也は、言葉に対する並はずれた感性を買われて辞書編集部に配属されます。携わることになった「大渡海」は、略語や若者言葉も取り入れた、今を生きる人のための生きた辞書。ベテラン編集者や老学者、辞書に興味を持ち始めたチャラ男など、個性派ぞろいの辞書編集部の面々と共に辞書作りに励むマジメでしたが、ある日、大家さんの孫娘で板前修業中の美女・香具矢(カグヤ)に出会い、ひと目惚れします。マジメは、言葉のプロでありながら、好きな人への言葉がみつからず悩むのですが…。
◆一生の仕事と恋 主人公の成長に注目原作は本屋大賞を受賞した三浦しをんさんの同名小説。辞書を舟に見立て、編集作業を編むと表現するセンスがステキです。言葉という大海原に舟を漕ぎ出すイメージが湧いてきませんか?
主人公のマジメは、その名のとおり真面目人間で、かなりの変わり者。人と接することが苦手だった彼は、辞書作りという一生の仕事にめぐり合い、本物の恋に出会うことで、やがて、人ときちんと向き合える頼れる編集者になっていきます。映画はコミカルな成長物語になっていて、松田龍平さん演じる主人公の、不器用だけど一生懸命な生き方が魅力的です。
辞書編さんは完成するまでになんと15年! 24万語収録の辞書を作り上げるという、気が遠くなるような作業は、途中で会社の方針が変わって辞書作りに暗雲が立ち込めたり、一緒に頑張ってきた仲間を失ったりと、さまざまなドラマが。辞書作りのノウハウの裏話が、これまた面白い! 何より「言葉は人をつなぐ」という大切なメッセージは、しっかりと心に残ることでしょう。
静かな感動を呼ぶこの秀作は、第37回日本アカデミー賞で、最優秀作品賞ほか、最多6部門を受賞しました。