戦時中、保母が挑んだ「疎開保育園」。今、子どもを守るため何ができるのか


■“心の戦い”を描くことで浮かぶ、目に見えない残酷さ

戸田恵梨香、大原櫻子W主演『あの日のオルガン』

©2018「あの日のオルガン」製作委員会


本作は戦争を題材にした映画ではあるものの、いわゆる“戦闘”を描いた作品ではありません。ですが、その一方で“心の戦い”ともいえる葛藤が多く描かれています。

死と隣り合わせの極限の状態で迫られる“決断”の数々。子どもの命はもちろん、その家族からの期待という重圧、さらには自身の友情、愛情など、さまざまな思いを胸に、人生の選択を下し続けた女性たちの強さが胸に刺さります。

また親として考えてしまうのは、やはり子どもを疎開させるか否か。想像するだけで胸が苦しくなるテーマですが、たった75年前には、これが現実として突き付けられていたのです。戦争には人の命を奪う残酷さがある。けれども厳しい争いの裏で、目には見えない残酷さにもあふれていたことを思い知らされます。


残虐な場面を描かずして、戦争の悲惨さをも伝える本作。「戦争は恐ろしいものだ」というシンプルな感情をもたらすだけでなく、今一度立ち止まり、子どもや家族との向き合い方、さらには“生きること”について、あらためて見つめ直すきっかけとなるのではないでしょうか。

■戦争の実態と保母たちの思い、子どもの目にはどう映る?

戸田恵梨香、大原櫻子W主演『あの日のオルガン』

©2018「あの日のオルガン」製作委員会


涙をこらえきれないつらい場面もありますが、子どもたちの純真無垢な姿に癒やされ、また光枝を中心としたコミカルな演出によって、重いストーリーの中にも軽やかさがある『あの日のオルガン』。

ただただ子どもたちを守るために強く生きた保母たちの姿は、ワンオペ育児や保育所不足など、さまざまな子育て問題が蔓延る今を生きる私たちの心を大きく揺さぶります。

そして、戦争のリアルを描きつつ、素晴らしい役者、スタッフが紡いだ美しく、温かい真実の物語は、ぜひとも親子で観たい作品のひとつ。今も昔も変わらない“宝”である“子ども”の心にも、きっと響くものがあるはずです。


映画『あの日のオルガン』
戸田恵梨香、大原櫻子W主演『あの日のオルガン』

©2018「あの日のオルガン」製作委員会


太平洋戦争末期、迫りくる空襲から防空壕に避難する生活が続く1944年。東京・品川区の戸越保育所の主任保母・板倉楓(戸田恵梨香)は園児たちの疎開を模索していた。一方、親たちは子どもを手放すことに反発。別の保育所・愛育隣保館の主任保母(夏川結衣)の助けもありなんとか親たちを説得するが、戸越保育所の所長(田中直樹)がようやく見つけてきた疎開先は埼玉の荒れ寺。そして、親から離れた幼い子どもたちとの生活は問題が山積みだった。それでも保母たちや疎開先の世話役(橋爪功)は子どもたちと向き合い、みっちゃん先生(大原櫻子)はオルガンを奏で、みんなを勇気づけていた。しかし、疎開先にも徐々に戦争の影が迫っていた―。

原作:久保つぎこ『あの日のオルガン 疎開保育園物語』(朝日新聞出版)
監督・脚本:平松恵美子
出演:戸田恵梨香、大原櫻子、佐久間由衣、三浦透子、堀田真由、福地桃子、白石糸、奥村佳恵、林家正蔵、夏川結衣、田中直樹、橋爪功
公開日:2月22日(金)新宿ピカデリーほか、全国ロードショー

公式サイト:https://www.anohi-organ.com/

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