地方発の一大文化施設を目指すセレクトショップ「GEA」【山形ニット紀行Vol.3--佐藤繊維 後編】
GEA#1外観
リックオウエンス、メゾン マルジェラ、カラー、08サーカス、そしてオリジナルのエムアンドキョウコが並ぶ品揃えは、言うならば“特濃”である。“濃い”とは商品がコアな洋服好き向けの意味合いで使われる業界語だが、ここにはマーケットイン型の売れているものをなぞった商品は存在しない。デザイナーの思いが詰まったプロダクトアウト型の商品しかこの空間には相応しくないのだ。
旧工場は、60数年前に先々代が、当時でも年期の入った石造りの酒蔵を買い取って移築したもので、何とも言えない独特の味わいがある建物である。なかに入ると、白の城壁のように大小の長方形の石が積み重なった壁と、天井の木の梁にまず圧倒される。
GEAの1階には、長年使われて役目を終えた紡績機が中央にどんと鎮座していて、その上にガラスのテーブルが置かれ、平置きの商品のディスプレイになっている。これまた味のある什器は、パリやNYで長年買い集めてきたものだ。2階には、ガラス張りのミニマルな空間があって、そこはメゾン マルジェラのショップインショップになっている。なんでも同社のスタッフが「日本で一番マルジェラを美しく見せる空間」と感動して帰っていったという。
GEAを作った理由について、佐藤正樹社長はこう話す。「地方はずっと東京を追い掛けてきたけれど、それだと一生東京に追いつけない。地方には、ここ山形にも面白い文化がたくさんあるのに、残念なことに地元の人が一番そのことに気づいていない。そんな地方の人の意識を変えるような、文化施設をずっと作りたかった……」。
もちろん課題もある。当初予定よりも早く月間予算に近づきつつあるものの、客層は県外からが中心で、地元の人はおっかなびっくり見に来る程度。地元に根付いてきている、とは言い難い状況にある。
もちろん、そのことは佐藤社長も良く把握している。ただ、この人は手を拱いてお客さんが来るまで待っている人ではない。あの手この手を考えて、まず自分から動くことを信念としている人である。じつはGEAの建物は、まだ全体の1/3程度しか使っていないのである。現時点では構想段階だが、山形名物の蕎麦を出す蕎麦屋や、宿泊もできるプチホテル、山形野菜を調理するレストランなどの出店も考えているし、ヨーロッパのマルシェのように敷地内で山形野菜の朝市を定期的に開催する計画もある。
さらには、以前から夢描いている、原料を山形で調達する(つまりは世界中の羊を集めた牧場を作る)という壮大な計画まで思い描いているのだ。
地方には豊かな自然があるが、東京のような文化施設に乏しい。GEAが佐藤社長の“構想”どおりに寒河江市の一大文化拠点になった頃、東京の一極集中という問題は解消されているかもしれない。地方で自然を楽しみながら文化的に暮らす、というライフスタイルが当たり前になっているかもしれない。GEAはまだ生まれたての赤ちゃんである。そのあまりの美男子っぷりに日本中が驚いているわけだが、成長するのはこれから。その過程を見届けるのが楽しみでならない。
■取材・文/増田海治郎(ファッションジャーナリスト)
GEA#1の店内。
GEA#2の店内。
GEA#2の店内。糸を紡ぎ機械の音をMIXしたBGMが流れている。
紡糸の機械を什器に加工している。