【ファッションの“未来”たちに聞く】誰もが明日着たい服を、今日作れたらいい。デザイナー横澤琴葉--2/2
Photo by Kazan Yamamoto (c) FASHION HEADLINE
日本のファッションの未来を担うであろう若き才能たちに迫る連載、「ファッションの“未来”に聞く」。第2回となる今回は、コトハヨコザワ(kotohayokozawa)のデザイナーである横澤琴葉に話を聞く。1/2はこちらーー高い評価を得ながら、すぐにブランドをスタートさせず、企業勤めを選んだのはなぜですか?実は、エスモードを卒業するときに、2つプランがありました。ひとつは自分のブランドを持つこと、もうひとつは大手企業のデザイナーになることでした。もし一企業のデザイナーとして働くとなれば、一人でも多くの人に届けることができる大きな会社がいいって思っていたので。就活は全然やってなかったんですけど、一社だけ受けたら、ありがたいことに入れていただけました。会社に入社して、忙しいながらも自分のクリエーションについても、具体的に考える時間ができました。それまでは、自分で服を作って、その服を誰かが買ってくれて、それが継続していくなんてことは壮大なことすぎて想像すらできませんでした。
卒業制作でいろんな方に評価いただいて、そのままブランドをやらないのは惜しいなと思う自分も正直いました。そういうのもあって、働きながら「ここのがっこう」に通いました。ーーそして自分のブランドを立ち上げるわけですが、ほんとにトントン拍子で伊勢丹にラックが並ぶまでになってしまいました。「こんな服じゃ審査もできない」って学生の頃は言われていた私の服が伊勢丹に並ぶなんて、ほんとに大丈夫かなと心配でした。誰か偉い人に怒られちゃうんじゃないかな、とか(笑)。でもふたを開けてみたら、初日に追加注目をいただいて、「ああよかった~!」って。結局3回くらい追加注文をいただきました。今回の伊勢丹での企画には、2つのコレクションを用意しました。
デビュー当時からやっているプリーツのコレクションは、一日20着くらい作ることもあります。実は一着に掛かる時間は30分~1時間くらい。このコレクションには正解がないんです。ここはもうちょっとゆったりさせたいなとか、ここはもっと丸みをつけたいなって、その都度調整しながら自由に作っています。もう一つは、今回のポップアップのテーマである「ユニフォーム」を自分なりに解釈して、働く女性のためのボディスーツを作りました。ジャケットをばさっとはおって、タイトスカートの中にボディスーツを着て出勤する、90年代初頭のワーキングウーマンをイメージしています。ブランドで言えば、当時のDKNYやカルバンクラインみたいなスタイル、いつもは自分と同世代、もしくはもう少し若い子たちに向けて作っているのですが、今回はブランドの別の面を見せたいなと。でも根本は一緒で、その子たちが憧れる「働く女性像」を見せたかったんです。
こんな女性は素敵だな、なりたいなって思えるようなスタイルを提案しようと思いました。ーーモードの世界では「ジェンダーレス」という言葉がひとつのキーワードになっていますが、横澤さんの服からは、女性らしさ、女性であることの喜び、そしてさらには反発といったものを感じます高校生の頃は、いわゆるモードの世界に憧れを持っていました。構築的で均整の取れたシルエットの美しさ、それらの多くは男性デザイナーによるものでした。当時の私にとってそれは絶対的なもので、超えられない壁として存在していたのですが、フィービー・ファイロを筆頭に大手メゾンで活躍している女性デザイナーに強く影響を受けました。彼女たちが作る服は、"不安定さ"や"弱さ"が、そのまま服として表れていました。私にとってそれはすごく助けになりましたし、男性的な完璧さを求めなくてもいいんだって思えるようになりました。でも、男性的か女性的かに限った話ではないんです。テーマをしっかりと掲げたロジカルなモノ作りを良しとする風潮って少なからずあると思うんです。
でも私はもっと気軽に、「できました!」みたいなクリエーションが増えていっていいと思うんです。「なんでこういう服作ったの?」って聞かれても、「その時作りたかったんです!」としか言えない。私もうまく説明できないのですが、そういう直感的な共感性を頼りにしていて、だからお客様と繋がれたときはとても嬉しいです。ーー先ほど、「一着につき30分」という話が出ましたが、まさに直感的なアプローチですよね?速いから良いというわけでは決してないです(笑)。高校の頃から、ある程度の服作りは経験してきてるのですが、一着の服を作るのには膨大な時間と手間が掛かるんです。例えばシャツの襟ひとつを作るにしても、多くの工程があります。しかもすごく難しいんですよ。全然形が出ないんですよ、シャツの襟(笑)。
こんなに大変な工程を経て作られる服が、世の中にはそれこそ数限りなく存在してるわけじゃないですか。それってほんとにすごいことだし、当時は「怖い」って思ってました。なので、私の服作りの方法として「明日何着ようかな、こういうのが着たいな、じゃあ作ろうっと」みたいなスピード感が反映できれば良いなと思っています。そういう一瞬一瞬の気分の移り変わりをディテールや縫製に宿したいです。ーー次の秋冬のテーマについて、教えてください祖母の洋裁店に並んでいた服のイメージと今の自分が持っている服への気持ちをミックスして提案しました。やっぱり祖母と似ているんです、買ってくる布地がそっくりだったり。ーー胸にトグルのようなものがたくさんついたコートが印象に残りました。これはダッフルコートのトグルをイメージして?自分でもわからないです(笑)。
工芸用の粘度をインターンの子と一緒にこねていたら、なんか取っ手みたいのが出来上がって、「いいね、コートに置いてみよう」って。で、置くならわーってたくさん置きたいよねって(笑)。解釈はお任せします。見た人、手に取った人が「なんだろ、おもしろいな」って感じさせてくれればいいなって思います。ーー今後の展開としてどのようなヴィジョンを持っていますか?まず、近いうちにと思っているのが、プリーツのコレクションのように一年を通して提供できる新たなコレクションを生み出すこと。新しい素材、新しい縫製で、またアイコニックなピースを作りたいです。そしてやっぱり、スピード感にこだわりたいです。一着20分くらいで作れないかなって。
自分らしい作り方でいいんだっていうのは、これまでの活動で少なからず得た自信でもあります。人が持つ"不完全さ"や"弱さ"を、自分なりに表現できる素材だったり、その素材に合う縫製だったりを突き詰めて、もう一度服作りの基本の部分に立ち帰ろうと思います。着やすくて扱いやすいし、普段に着られるんだけど、パッと見たときに弱いなりの存在感を持っているような服を作りたいです。ーー最後に、遠い未来についてのヴィジョンをお聞かせください。単純ですが5年後、10年後はもっとたくさんの人に届いてればいいなって思います。服っていいな、ファッションっておもしろいなって思ってくれる人をもっともっと増やしたいんです。雑誌に載ってるから買います、マネキンに着せてあるから買います、だとやっぱりさみしいじゃないですか。そこで何を選ぶか、朝から何を着るか考えるのが楽しいのにって思っちゃう。ファッションに興味ない人からしたら本当に余計なお世話だと思うのですが…(笑)でも究極を言うと、まさにそこなんです。一度、伊勢丹でのポップアップに来てくださったお客さんを逃したことがあったんです。そのお客さんは服作りにも興味を持っていて、めちゃくちゃ話が盛り上がって、「あたしにもこれ作れますかね」って言われたんで、ぶっちゃけて「作れますよ。全然作れると思いますよ」って言って、お客さんを逃してしまったことがあって。でもそれで良いんです。後々、その子からは直接連絡があって、今度インターンとして迎えることが決まりました。普通に考えたら「この服あなたでも作れますよ」って薦めることってお客さんを逃しているので、マイナスに考える人もいるかもしれないんですけど、広い意味で、それこそファッションという大枠で考えると、底上げになっていると思うんです。技術的なことなんかすっ飛ばして、誰もが明日着たい服を、今日作ることができる。そんな価値観もアリだなって思ってもらえるようになっていけばいいですよね。ちょっと壮大すぎますかね(笑)アンディ・ウォーホルは「15分で誰しも有名になれる」という言葉を残している。彼女の即時性へのこだわりは、既存のファッションへのアンチテーゼというよりも、単純に「今着たいから作る」という、いたってシンプルなものだ。そこにはロジカルな服作りに縛られない、彼女特有の人間らしさを見ることができる。7月27日からは銀座三越でポップアップもスタートする。朝から服を選ぶのが楽しくなる、ファッションがもっと楽しくなる彼女の服を、ぜひ間近で見てもらいたい。【イベント情報】<第1弾>The drama ~TOKYO制服~会期:5月25日から6月7日(会期終了)会場:伊勢丹新宿店 本館2F=センターパーク/TOKYO解放区<第2弾>The life ~TOKYO制服~会期:6月15日から21日(会期終了)会場:ジェイアール京都伊勢丹5F 特設会場<第3弾>The days ~TOKYO制服~会場:7月27日から8月2日会場:銀座三越3F ル プレイス プロモーションスペース
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