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「積み重ねた伝統を人から人へつなぐこと」江戸小紋職人・小宮康正さんを訪ねて

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「積み重ねた伝統を人から人へつなぐこと」江戸小紋職人・小宮康正さんを訪ねて

(c) FASHION HEADLINE


美しい絹に施された細かい紋様。遠目に見るとただの点のようにも見えるが、近づくとそれは緻密な紋様であることがわかる。鮫紋様、通し紋様から、桜や菊、動物紋様など繊細な柄が江戸小紋の特徴だ。小宮康助さん、康孝さんと二代続けて重要無形文化財保持者(人間国宝)に認定されている江戸小紋の名門、小宮染色工場。東京・新小岩にある工房に三代目・小宮康正さんを訪ねた。江戸小紋のルーツは室町時代といわれ、技術の発展と共に江戸時代に広く普及した。武士の裃に使用されていたものが江戸中期以降の平和な文化の中で花開き、やがて武家文化と共に発達した江戸小紋は庶民にまで愛されるようになった。「江戸小紋という名称は古いものじゃないんですよ」と小宮さんは言う。
昭和30年、祖父である小宮康助氏が重要無形文化財保持者に認定された際に名づけられ、まだ60年ほどしか経っていない。■変わることが伝統をつなぐこと江戸小紋はいわゆる型染めといわれる技法を使う。和紙を2枚から4枚重ねて柿渋で張り合わせた渋紙に模様を彫った型紙を使って染めてゆく作業が小宮さんの仕事だ。熟練を要する「型付け」の作業を行なう工房を訪ねると、そこは真っ暗。もみの木の1枚板が置かれている。生糊(もち米と糠でできた糊)が塗られた板に霧吹きで水をかけ、糊の粘りを戻す。そこに白生地を貼ったらいよいよ「型付け」だ。固定された生地に型紙を置き、糊をヘラで塗ってゆくと、型紙が彫られたところだけ糊がついて模様を描いてゆく。
糊には防染材が入っていて、そこだけ染まらないようにしているのだ。型付けが終わると生地を干し、「しごき」と呼ばれる地色染め、蒸しなどの工程を経て、ようやく美しい小紋ができあがる。「作業は早ければ早いほどいい仕事。そのための段取りと腕を磨くことが大事」と小宮さんは言う。伝統的技法の中においても「新しいものがあれば伝統技法の中にも取り入れていく」というのが、小宮さんの考えだ。たとえば染料。現在の江戸小紋では合成染料を使っている。「昔のままのものを、ただそのまま続けるのでは世の中に受け入れてもらえない」と小宮さん。
伝統というのは変革の積み重ねであり、素材にしても、技術にしても変化が止まった時点で伝統は滅びてしまう。変わるのは染料や技法だけではない。現在は昔のように丁稚から修業を始めるわけではなく、学校を出てから修業を始める職人が主なので寝食を共にし、雑用をしながら技を習得するだけの時間がない。また、かつては型付けの工程も霧吹きを使わず口で霧を吹いたというが、今ではもう、その手法はとられない。そうやって伝統をつなぐ現場も環境も変わっていくのが当たり前なのだ。■伝統を継ぐ中で生まれた「小宮の色」小宮さんが生み出す江戸小紋の美しさは柄のみならず、その奥深い色にも心惹かれる人は多い。その色を生み出すのは「色の性質」だという。染料はすべて顔が違う、性格も違う。
繊維の途中でとどまる性質の染料もあれば、すっと染みこんでゆくものもある。決して一定ではなくまさしく玉虫色。色は2次元でなく3次元の世界なのだ。この色の掛け合わせの奇跡を起こせるのは、やはり経験によるところが大きい。「色は目で見るのではなく、頭で考えて判断するんです。性質を知って“この染料を組み合わせたらこういう雰囲気の色が出るだろう”と。目だけで見ていると、お客様の希望の色を重ねたときに、色は合っているけれど雰囲気が合わないということもある」。色は3次元。
空や海や宝石が愛されるように、自然にある色を人は好み、安心する。だから「小宮の小紋は飽きない」―― お客様にそう言ってもらえるのだ。■人から人へとつなぐ伝統人間国宝と称されることのほうが多い「重要無形文化保持者」。小宮さんの祖父・父も認定されている。江戸小紋という物ではなく、その技自体を重要文化と認定する制度だが、祖父と父は、そこに取り組む姿勢や、それを次の世代に伝えるという使命も背負ってきた。「祖父は、伊勢型紙が滅びる前にと、向こう100年分の型紙を作らせて残したんです。でも、当時彫られた型は一切使用していません。なぜなら、現在の紙漉き職人がいて、鍛冶職人がいて、型紙職人がいるから。
次の世代が育ってはじめて伝統はつながります。100年分の型を作るという仕事が、江戸小紋を支えるこやしになっていることが素晴らしいことなんです」。小宮さんは同じく江戸小紋職人である父から「40歳までにすべての仕事を終りにしろよ」と言われた。そして、自身が35歳の時に“終りを感じる瞬間”があったのだという。少しの妥協、気力の違い。それは、周りは決して気づくことができない、自分の中だけの変化だった。「それを補うのは年齢を重ねての味。経験を重ねることで会得したものが、こやしになると思います。
だから、いまは一日一日を生きるしかない。毎日を積み重ねて、作りつづけることだ。」と小宮さん。しかし、小宮さんは言う。「それでも、何かを生み出すという心や、ものづくりに取り組むという姿勢は変わりません。その心や姿勢を伝えることで、人から人へ伝統はつながっていくと思っています」。ひたむきに江戸小紋と向き合う小宮さんの仕事、そして言葉から、伝統とは遥か彼方のものではなく、そこにあるもの。守るだけでなく伝えてゆくという、日々の営みなのだということを知った。【Profile】小宮 康正(こみや やすまさ)1956年生まれ。中学卒業後より父である康孝氏に師事。24歳で日本伝統工芸展に初入選。2010年紫綬褒章を受賞。現在、長男・次男共に父のもとで修行中。>>ネイルアーティストHana4さんが江戸小紋と出会う
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