”ヴィンテージはトレンドではない“。ヴィンテージショップ・EVAオーナー宮崎聖子【INTERVIEW】
Photo by Yoshika Suzuki
いまやファッションを語る上で、 “ヴィンテージ”や“古着”といったキーワードは外せない。ハイブランドとヴィンテージのミックスは、もはやファッション上級者の常套手段であり、低価格のノーブランド品を着るよりもさらに低価格の古着を着た方が圧倒的に響きのいいことを、ファッションビギナーでさえ知っている。そんな今のファッションの潮流に警鐘を鳴らすのが、代官山にあるヴィンテージショップ・エヴァ(EVA)のオーナー兼バイヤー・宮崎聖子さんだ。EVAは9月21日から26日まで伊勢丹新宿店のリ・スタイルレディにて、140年以上の歴史を誇る世界初の女性ファッション誌『ハーパース バザー(Harper's BAZAAR)』との協業によるポップアップイベント「A Life in Fashion ―今を生きる女性たちへ― by EVA supported by Harper's BAZAAR」を開催中。私たちは秋雨の降り頻るなか、EVAから7年を経てオープンした「ONLY ONE BOUTIQUE」へ彼女を訪ねた。イベント準備もラストスパートという忙しいタイミングにも関わらず、宮崎さんは私たちを温かく迎え入れてくれた。■海外への憧れからたどり着いたもの宮崎さんは、1975年宮城県生まれ。高校在学中にレコード蒐集が派生して輸入業を起こし、モデルやDJなどを経験した後、上京してからは某上場企業に就職し役員秘書を務め、退職後に独立起業してEVAをオープンさせたという特異な経歴を持つ。
幼い頃に英語を習う機会があった彼女は、日本語と異なる言語が存在することを疑問に思い、話せないことへの悔しささえ感じたという。思い起こせばこれが“外へ”目を向けるきっかけになっていたのかも、と話す。「買い付けはロサンゼルスやニューヨークが中心です。子どもが生まれてからは頻繁に海外へ出られなくなってしまいましたが、各地にこれまで知り合った信頼できる方たちがいるのでメールのやりとりでこまめに買い付けたりしています。ヴィンテージも古着も出会いなので急に集まるものではないし、何年もかけてコツコツと蒐集するのが大切。今回伊勢丹新宿店でのイベントのお話を頂き、ハーパースバザーをイメージした内容ということで、買い溜めておいたセリーヌ(CELINE)のヴィンテージシャツなどを出すことにしました。グッチ(GUCCI)といった海外メゾンも今シーズンはヴィンテージのような雰囲気で展開していますし、見せるなら今だな、と。商品を出すときはタイミングも大事です。
10年前なら百貨店に古着を置くことなんてことを誰も想像しなかったと思いますが、その頃の手帳に、“伊勢丹に自分の商品を置く”“ハーパースバザーに載る”って書いていて、それが一度に叶いました。商品は古いものを扱っていますが、私自身は常に先のことを見据えながらやっています」パーパースバザーの雑誌が大好きだという宮崎さんは、その想いを大切にものづくりにも注ぎ込んだ。EVAが得意とする古着のリメイクアイテムは、その発想力の豊かさに驚かされる。「ハーパースバザーは白を基調としたエディトリアルが印象的で、紙面の中に一つの世界観を作っている。私はそこにフォーカスして、ヴィンテージのラインアップとはまた別に、白で揃えた古着のリメイクアイテムも用意しました。ベースとなるのは、おそらく1930年代頃のドイツの医療用ユニフォームと思われるもので、一着のアイテムを解体してコートやジャケット、パンツなどを制作しています。何十年も前からあるものに新しい解釈で手を加えて、女性のさまざまな顔があるように、1型→17型に仕立てました。日本人の女性は白のコーディネートを敬遠しがちですが、ストリートっぽく着こなしてもいいし、ぜひ日常に取り入れてもらいたいです」イベント限定のEVAオリジナルリメイクアイテム■時代とともに変化する女性のファッションマインドイベント会場には、宮崎さんによるメッセージも掲げられる。
「私が考えるこれからの女性の生き方、ファッションがどうあるべきかといったことを綴っています。パーパースバザーの歴代の表紙も展示されますが、紙面を飾ってきた女性たちはみんな意識が高い。いまの私たちが自由にファッションを楽しめるのは、こういう強気な姿勢で頑張ってきた人たちがいるからこそ。女性へ対するオマージュも含めたイベントにしたかった、というのが私の想いです」イベントではファッションカルチャーの変遷をブランド・ヴィンテージで表現しながら、50~70年代のアートカルチャーを現代風に解釈したリメイクアイテムを展開する。50~70年代は、まさに女性にとって激動の時代。50年代は妻や母、娘といった立場でしかなかった女性が、さまざまなムーブメントを経て、80年代には社会進出を果たす。時代とともにファッションも解放され、60年代にはスカート丈が短くなり、70年代になると性にオープンになり素肌を感じるドレーピーでシアーな服が登場する。「この時代を駆け抜けた多くの女性の生き方があってこそ、女性が何でも自分で選択できる今の時代へと繋がりました。
今回用意したアイテムは、今の私が考える女性像を象徴しています。着回せるとか使えるとか損得で判断するのではなく、着てみたい、手に入れたい、と純粋に思ってもらえれば嬉しい。私自身買う前から結果が分かっている洋服は着たくないし、買ってからさてどうやって着ようと思うのがファッションの楽しさだと思うので。ヴィンテージは単体で魅力があるもので、着回し力のような保証がない。これだけ大切にされてきたと語れるものを置いていますし、ヴィンテージショップとは本来そういう場であって、全身トータルコーディネートでおすすめするところでなければ流行りものを提供する場でもありません。店主としては、見てときめいてもらうのがいちばん嬉しい」■ヴィンテージはトレンドではない一見すると“クールビューティー”。けれど細やかな気遣いや言葉を選ぶ丁寧な話し方に、女性らしさや温かみが感じられる。4歳になるお子さんを持つ母でもあり、家族の話になるとユーモアをたっぷりと含んだ会話で私たちを和ませてくれる。
そんな彼女だからこそ、ファッションやヴィンテージに対する熱い想いも滲ませる。「ヴィンテージや古着はファッションに必要なものとされ、いまやメインストリームもそれを受け入れている。私としてはお店に置くものが注目されることはもちろん良いことなのですが、この潮流には違和感を覚えます。そもそも古着は一度誰かの手に渡ったものをリサイクルするというエコの精神です。古着は学生などお金のない人たちがファッションを楽しむためのひとつの“手段”、また逆に、過去のデザイナーズアーカイヴ等希少性の高いものを次世代に伝えていく為に保存するという“手段”でもある。古着もヴィンテージも、それ自体がトレンド、というものではないのです。海外のスナップでは、ヴィンテージや古着を着て自分の感性でお洒落を楽しんでいる人がたくさん見受けられます。日本では誰かと似たものをゲットすることがマストなのでしょうか?日本のファッショントレンドは“群れる”こととして定着しているような気がしてなりません」本当に自分が好きなものを、自分の感性で取り入れてファッションを楽しんでほしい、と宮崎さんは話す。
また、ヴィンテージや古着への注目の高まりは、いまのファッション界の問題だとも続ける。いまはアイデアソースがなく、トップメゾンもやっていることが似たり寄ったりで、どこもすぐにトレースしてしまう。嗜好品だったファッションはビジネスとなり、売れるものを大量生産する時代だ。売れなければ誰かが責任を取らなければならない。「ファッションを取り巻く環境がこういう状態だからこそ、今の時代にはないヴィンテージや古着のデザインに魅了される、という部分もきっとあるんでしょうね」■叶った夢の先に続く場所今回のイベントで2つも目標を達成した宮崎さんだが、「手放しに喜んでいる感じではないです。本当に周りのみんなのお陰だし、私自身はもっと頑張らないといけない」と自らを追い込む言葉が返ってきた。「ヴィンテージショップは本屋と同じで、商品を揃えたら、あとは店番をしてお客さんをひたすら“待つ”体制なんですね。最近では置いているものに興味を示して頂きたくさんのオファーが舞い込むようになりましたが、今後はさらにフィールドを広げて自分の提案を売り込んでいけたらいいなと思っています。
イベントの提案や売場のディレクションなど、枠にとらわれない活動をしていきたいです」新宿伊勢丹で開催中のイベント「A Life in Fashion ―今を生きる女性たちへ― by EVA supported by」【店舗情報】EVA fashion art住所:東京都渋谷区猿楽町2-1 Avenue side Daikanyama1B営業時間:12:00~20:00電話:03-5489-2488【イベント情報】A Life in Fashion ―今を生きる女性たちへ― by EVA supported by Harper's BAZAAR場所:伊勢丹新宿店本館4階=ウエストパーク期間:16年9月21日~26日※24日(土)15:00~16:00に、Harper's BAZAARの塚本香編集長とEVAオーナーの宮崎聖子さんのトークショーが開催されます。
Photo by Yoshika Suzuki
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(c) FASHION HEADLINE
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