マルタン・マルジェラ、日本初個展を京都で開催──京町家という空間で浮かび上がる身体と不在の表現
ファッションデザイナーとして知られるマルタン・マルジェラが、京都・タカ・イシイギャラリー 京都にて、美術作品による個展を開催しています。会期は2026年4月17日から5月16日まで。東京・九段ハウスで同時期に開催されている展覧会とあわせて、日本では初となる本格的な個展となります。
Black Nail Polish | photo by ©FASHION HEADLINE
本展では、2018年から2026年にかけて制作された約19点の作品が発表されています。ファッションの領域から距離を置いた2009年以降、マルジェラは自身の視覚表現をアートへと拡張し続けてきました。その実践は、衣服という形式を離れながらも、「身体」という主題を軸に一貫して展開されています。
身体という境界 マルジェラの作品において、身体は単なるモチーフではなく、視覚と触覚という二つの感覚体系が交差する場として位置付けられています。顕在化と秘匿、露見と保護──そのあいだに生まれる緊張関係は、古典彫刻から現代美術に至るまで繰り返し問い直されてきたテーマでもあります。
Tops & Bottoms (Faun/Top)&(Faun/Bottom), 2023 | photo by ©FASHION HEADLINE
連作《Tops & Bottoms》では、ルーヴル美術館に収蔵される古典彫刻を参照しながら、身体の一部が現代の下着のフォルムで切り取られています。本来は隠すための衣服が、逆説的に内部を露出させる装置として機能することで、鑑賞者の視線は魅惑と疎外のあいだで揺れ動きます。
カーペットやシリコンといった素材が生み出すテクスチャーは、視覚だけでなく触覚的な想像力をも喚起し、身体の感覚を拡張する方向へと導いていきます。
日常の再文脈化 マルジェラは、日常的なオブジェに対しても鋭い観察眼を向けています。シュルレアリスムやポップ・アートの系譜と響き合うように、既存の物体を再配置することで、その意味を変容させていきます。
BARRIER Mural(White),2024 | photo by ©FASHION HEADLINE
《Barrier Sculpture》では、都市空間で見慣れたバリケードがフェイクファーで覆われています。本来は境界や保護を示す機能的な装置が、触覚的な誘惑を帯びたオブジェへと転換されることで、その存在は詩的で不可解なものへと変化します。
こうしたプロセスにおいて、ファウンド・オブジェクトは単なる既製品ではなく、潜在的な意味を引き出すレディメイドとして扱われています。
不在が生むイメージ 展示空間において印象的なのは、「不在」をめぐる表現です。
Kit (Black) | photo by ©FASHION HEADLINE
《Black Nail Polish》では、爪のような形状の焼成用具が並べられていますが、そこから生まれるはずの対象は存在しません。同様に、《Kit (Black)》は未完成のプラモデルのような構造を持ち、鑑賞者に“まだ存在しない完成形”を想像させます。
断片化と不完全性は、マルジェラの作品に繰り返し現れる要素です。しかしそれは欠如ではなく、むしろ新たな意味や物語を生み出すための余白として機能しています。
京町家という空間 本展を特徴づけるもう一つの要素が、会場となるタカ・イシイギャラリー 京都の空間です。
築約150年の京町家を活用したこのギャラリーは、いわゆる“鰻の寝床”と呼ばれる細長い構造を持ち、通り庭や中庭を介して空間が奥へと連なっていきます。歴史的な素材や構造を活かしながら、現代アートの展示空間として再構成されています。
Grey Steps II ,2023 | photo by ©FASHION HEADLINE
エントランスには鞍馬石の古材を組み合わせたカウンターテーブルが据えられ、通り庭の先には、イロハモミジやツバキが配された中庭が広がります。水が滴る音や風に揺れる木々の気配が、来場者の感覚をゆるやかに解きほぐしていきます。
この空間は単なる展示の背景ではなく、作品と鑑賞者の関係性を調整する“装置”として機能しています。
九段ハウスとの対比 同時期に開催されている九段ハウスでの展示が、歴史的建築のスケールや構造を活かした“没入的な回遊体験”であったのに対し、本展はよりコンパクトで、視線と身体の距離感に意識を向けさせる構成となっています。
BARRIER Sculpture (white), 2024 | photo by ©FASHION HEADLINE
京町家特有の低い天井や細長い空間の連なりは、作品との距離を自然と近づけ、鑑賞者をより親密な関係へと導いていきます。マルジェラの作品が持つ断片性や不在のテーマは、この空間において、より静かに、しかし強く立ち現れます。
二つの空間で立ち上がるマルジェラ 東京と京都──二つの異なる建築空間において展開される今回の展示は、マルジェラの表現の多層性を浮かび上がらせます。一方ではスケールと構造による没入、もう一方では距離と余白による内省。
その両方を横断して見ることで、彼の作品が単なる視覚的体験ではなく、身体や感覚、そして記憶に働きかける存在であることがより明確になります。
photo by ©FASHION HEADLINE
【INFORMATION】
マルタン・マルジェラ 展
会期:2026年4月17日(金)– 5月16日(土)
会場:タカ・イシイギャラリー 京都
京都府京都市下京区矢田町 123
営業時間:木 – 土 10:00 – 17:30
定休日: 日 – 水・祝祭日
※予約制
本展では、2018年から2026年にかけて制作された約19点の作品が発表されています。ファッションの領域から距離を置いた2009年以降、マルジェラは自身の視覚表現をアートへと拡張し続けてきました。その実践は、衣服という形式を離れながらも、「身体」という主題を軸に一貫して展開されています。
身体という境界 マルジェラの作品において、身体は単なるモチーフではなく、視覚と触覚という二つの感覚体系が交差する場として位置付けられています。顕在化と秘匿、露見と保護──そのあいだに生まれる緊張関係は、古典彫刻から現代美術に至るまで繰り返し問い直されてきたテーマでもあります。
連作《Tops & Bottoms》では、ルーヴル美術館に収蔵される古典彫刻を参照しながら、身体の一部が現代の下着のフォルムで切り取られています。本来は隠すための衣服が、逆説的に内部を露出させる装置として機能することで、鑑賞者の視線は魅惑と疎外のあいだで揺れ動きます。
カーペットやシリコンといった素材が生み出すテクスチャーは、視覚だけでなく触覚的な想像力をも喚起し、身体の感覚を拡張する方向へと導いていきます。
日常の再文脈化 マルジェラは、日常的なオブジェに対しても鋭い観察眼を向けています。シュルレアリスムやポップ・アートの系譜と響き合うように、既存の物体を再配置することで、その意味を変容させていきます。
《Barrier Sculpture》では、都市空間で見慣れたバリケードがフェイクファーで覆われています。本来は境界や保護を示す機能的な装置が、触覚的な誘惑を帯びたオブジェへと転換されることで、その存在は詩的で不可解なものへと変化します。
こうしたプロセスにおいて、ファウンド・オブジェクトは単なる既製品ではなく、潜在的な意味を引き出すレディメイドとして扱われています。
不在が生むイメージ 展示空間において印象的なのは、「不在」をめぐる表現です。
《Black Nail Polish》では、爪のような形状の焼成用具が並べられていますが、そこから生まれるはずの対象は存在しません。同様に、《Kit (Black)》は未完成のプラモデルのような構造を持ち、鑑賞者に“まだ存在しない完成形”を想像させます。
断片化と不完全性は、マルジェラの作品に繰り返し現れる要素です。しかしそれは欠如ではなく、むしろ新たな意味や物語を生み出すための余白として機能しています。
京町家という空間 本展を特徴づけるもう一つの要素が、会場となるタカ・イシイギャラリー 京都の空間です。
築約150年の京町家を活用したこのギャラリーは、いわゆる“鰻の寝床”と呼ばれる細長い構造を持ち、通り庭や中庭を介して空間が奥へと連なっていきます。歴史的な素材や構造を活かしながら、現代アートの展示空間として再構成されています。
エントランスには鞍馬石の古材を組み合わせたカウンターテーブルが据えられ、通り庭の先には、イロハモミジやツバキが配された中庭が広がります。水が滴る音や風に揺れる木々の気配が、来場者の感覚をゆるやかに解きほぐしていきます。
この空間は単なる展示の背景ではなく、作品と鑑賞者の関係性を調整する“装置”として機能しています。
九段ハウスとの対比 同時期に開催されている九段ハウスでの展示が、歴史的建築のスケールや構造を活かした“没入的な回遊体験”であったのに対し、本展はよりコンパクトで、視線と身体の距離感に意識を向けさせる構成となっています。
京町家特有の低い天井や細長い空間の連なりは、作品との距離を自然と近づけ、鑑賞者をより親密な関係へと導いていきます。マルジェラの作品が持つ断片性や不在のテーマは、この空間において、より静かに、しかし強く立ち現れます。
二つの空間で立ち上がるマルジェラ 東京と京都──二つの異なる建築空間において展開される今回の展示は、マルジェラの表現の多層性を浮かび上がらせます。一方ではスケールと構造による没入、もう一方では距離と余白による内省。
その両方を横断して見ることで、彼の作品が単なる視覚的体験ではなく、身体や感覚、そして記憶に働きかける存在であることがより明確になります。
【INFORMATION】
マルタン・マルジェラ 展
会期:2026年4月17日(金)– 5月16日(土)
会場:タカ・イシイギャラリー 京都
京都府京都市下京区矢田町 123
営業時間:木 – 土 10:00 – 17:30
定休日: 日 – 水・祝祭日
※予約制