日本橋三越本店で「第73回 日本伝統工芸展」──人間国宝から新進作家まで、いまを映す約550点

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日本橋三越本店で「第73回 日本伝統工芸展」が、2026年9月2日から15日まで開催されます。会場となる本館7階 催物会場には、陶芸、染織、漆芸、金工、木竹工、人形、諸工芸という7部門から選ばれた作品と、重要無形文化財保持者、いわゆる人間国宝の最新作を含む約550点が一堂に集まります。

日本橋三越本店で「第73回 日本伝統工芸展」──人間国宝から新進作家まで、いまを映す約550点
Courtesy of Nihombashi Mitsukoshi Main Store
今年、一般公募された作品は1,071点。そのなかから鑑査を経て選ばれた作品と、長年にわたり技術を磨き続けてきた作家たちの作品が、同じ会場に並びます。ここにあるのは、過去から受け継がれてきた日本の技だけではありません。一つの技術が人から人へと受け継がれ、異なる時代を生きる作家の手によって新しい表現へとつながっていく。「日本伝統工芸展」は、1954年の第1回展から、その時代に生きる作家たちがつくる工芸を紹介し続けてきました。

73回目を迎える2026年。
その会場から見えてくるのは、いま、この瞬間にもつくられ続けている日本の工芸です。

「伝統」とは、変わらないことなのか
「伝統工芸」という言葉から、古くから受け継がれてきた技法や様式を思い浮かべる人は多いでしょう。しかし、日本工芸会が「日本伝統工芸展」の開催趣旨として掲げている伝統の考え方は、それとは少し異なります。

そこでは伝統を、変わることなく固定されたものではなく、本質を保ちながらも絶えず動き続けるものとして捉えています。そして、過去の作品を模倣したり、従来の技法をただ守ったりするのではなく、受け継いだ技術をさらに磨き、今日の生活に即した新しいものをつくることを工芸に携わる者の役割としています。

だからこそ、「日本伝統工芸展」に並ぶのは歴史的な工芸品ではありません。すべて、いまを生きる作家たちが、受け継いだ技術や素材と向き合いながら生み出した作品です。

伝統を残すことと、新しいものをつくること。
一見すると相反するように見える二つの行為が、工芸という一つの営みのなかでつながっている。その関係を約550点の作品から見ることができるのが、本展の大きな魅力です。

七つの分野から見る、2026年の日本の工芸
本展を構成するのは、陶芸、染織、漆芸、金工、木竹工、人形、諸工芸の7部門です。土を焼く。糸を染め、織る。漆を塗り重ねる。金属を打ち、彫る。木や竹の性質を読みながら形をつくる。
素材も技法も異なる作品が「工芸」という大きな領域のなかに集まることで、日本で受け継がれてきたものづくりの幅広さが浮かび上がります。

日本橋三越本店で「第73回 日本伝統工芸展」──人間国宝から新進作家まで、いまを映す約550点
日本工芸会総裁賞 花籃「濤声」 大木淑恵 | Courtesy of Nihombashi Mitsukoshi Main Store
今回、日本工芸会総裁賞を受賞したのは、大木淑恵氏による木竹工の花籃《濤声》。高松宮記念賞には須藤靖典氏による漆芸の会津消粉蒔絵漆箱《谷渡りの風》、文部科学大臣賞には宮入映氏の染織作品、浮織生絹着物《樹雨》が選ばれました。

日本橋三越本店で「第73回 日本伝統工芸展」──人間国宝から新進作家まで、いまを映す約550点
高松宮記念賞 会津消粉蒔絵漆箱「谷渡りの風」 須藤靖典 | Courtesy of Nihombashi Mitsukoshi Main Store
陶芸では、市野秀作氏による灰釉彩鉢《朧》が東京都知事賞を受賞。木竹工では、林哲也氏の神代欅造拭漆箱《生々流転》がNHK会長賞に選ばれています。さらに、金工の村上浩堂氏による象嵌花器《暮れ色の運河》、陶芸の中田博士氏による《モモタマナ》、染織の小宮康義氏による江戸小紋着尺《Shi to Shi to》など、異なる世代、異なる素材と技法による作品が並びます。

日本橋三越本店で「第73回 日本伝統工芸展」──人間国宝から新進作家まで、いまを映す約550点
文部科学大臣賞 浮織生絹着物「樹雨」 宮入 映 | Courtesy of Nihombashi Mitsukoshi Main Store
一つの「日本らしさ」に集約することのできない、多様な素材、技法、造形。その一つひとつが、2026年という同じ時間のなかでつくられています。


人間国宝と新進作家が、同じ「現在」に並ぶ
「日本伝統工芸展」の特徴の一つが、重要無形文化財保持者の最新作と、公募によって選ばれた作家たちの作品を同じ展覧会で見ることができることです。長い年月をかけて技術を極めてきた作家がいる。一方では、その技術や素材と向き合いながら、自らの表現をつくろうとしている新しい世代の作家がいます。

今回も、日本工芸会新人賞として、陶芸の浦郷壮氏による青白磁彫文花器《流景-2026-》、染織の加藤伸子氏による久留米絣着物《皓月の夜》、諸工芸の中村一姫氏による《びわ研》が選ばれました。ここで興味深いのは、人間国宝の作品が「過去から受け継がれたもの」、新人作家の作品が「これからのもの」として分けられているわけではないことです。どちらも2026年につくられた、現在の工芸です。

技術を受け継ぐことは、一つの完成形へ近づいていくことではなく、それぞれの作家が自らの時間のなかで技術と向き合い、作品をつくり続けること。その積み重ねによって、伝統そのものも次の時間へと動いていきます。


作品だけでは見えない「つくる」という時間
本館7階で完成した作品を見る一方、本館1階 中央ホールでは、9月2日から14日まで「第2回 特別展 日本の伝統文化を未来に-伝統工芸作家が制作する作品とは-」が同時開催されます。ここで焦点が当てられるのは、作品が生まれるまでの時間です。伝統工芸作家がどのように作品を制作しているのか。どのような素材を選び、どのような道具を使い、どのような技術によって一つの形へと導いていくのか。

日本橋三越本店で「第73回 日本伝統工芸展」──人間国宝から新進作家まで、いまを映す約550点
Courtesy of Nihombashi Mitsukoshi Main Store
会場では、日本工芸会正会員による作品に加え、制作工程を記録した映像、原材料や道具などを紹介。作家と直接話すことのできる機会も設けられます。完成した工芸作品を目の前にしたとき、その精緻な造形や素材の美しさに目を奪われます。しかし、その背後には、一つの技術を習得するまでの時間があり、素材の性質を理解するための経験があり、何度も繰り返されてきた手の動きがあります。


7階で作品を見る。そして1階で、その作品が生まれる背景を見る。二つの展示を行き来することで、「工芸を見る」という体験そのものも変わってきます。

1954年、日本橋三越から始まった
今回の会場である日本橋三越本店は、「日本伝統工芸展」にとって長い歴史を持つ場所でもあります。文化財保護法が1950年に施行され、歴史上または芸術上価値の高い工芸技術を国として保護・育成する動きが進むなか、1954年に「第1回 無形文化財日本伝統工芸展」が開催されました。その会場となったのが、日本橋三越本店でした。以来、展覧会は毎年開催され、今年で73回目を迎えます。

日本橋三越本店で「第73回 日本伝統工芸展」──人間国宝から新進作家まで、いまを映す約550点
「第1回 無形文化財日本伝統工芸展」の図録を特別展示 | Courtesy of Nihombashi Mitsukoshi Main Store
1階の特別展では、その1954年の第1回展の図録も特別展示されます。
大型レプリカも用意され、当時の資料を実際に手に取って見ることができます。さらに、2017年から2026年まで、直近10年間の図録も自由に閲覧できます。一人の作家の10年間を追うこともできれば、ある技法や部門がどのように変化してきたのかを見ることもできる。

日本橋三越本店で「第73回 日本伝統工芸展」──人間国宝から新進作家まで、いまを映す約550点
2017年(平成29年)から本年2026年(令和8年)までの図録を展示 | Courtesy of Nihombashi Mitsukoshi Main Store
現在の約550点と、73年前に始まった展覧会の記録。その両方が同じ建物に存在することで、工芸に流れる時間が立体的に見えてきます。

受け継ぐことと、つくること
伝統工芸は、長い歴史のなかで培われてきた素材や技術によって支えられています。しかし、その技術を未来へつなぐのは、技法そのものではありません。それを学び、磨き、自分の手で何をつくることができるのかを考える人がいることで、技術は次の時代へと渡っていきます。

1954年の第1回展に並んだ作品と、2026年の第73回展に並ぶ作品は当然異なります。それでも、その間には73回の展覧会と、そこで作品を発表してきた作家たちの仕事があります。人間国宝の最新作から、新人賞を受賞した作家の作品までが同じ場所に並ぶことは、その連続する時間を目に見える形にすることでもあります。

「伝統」を過去を示す言葉としてではなく、現在から未来へ向かって動いていくものとして見る。約550点の作品が集まる「第73回 日本伝統工芸展」は、日本の工芸がいまどこにあり、その技と美がこれからどのように受け継がれていくのかを考える機会となりそうです。

【INFORMATION】
第73回 日本伝統工芸展
会期:2026年9月2日(水)〜9月15日(火)
時間:10:00〜19:00 ※最終日は17:00終了
会場:日本橋三越本店 本館7階 催物会場
入場料:無料
主催:文化庁、東京都教育委員会、NHK、朝日新聞社、公益社団法人 日本工芸会

同時開催「第2回 特別展 日本の伝統文化を未来に-伝統工芸作家が制作する作品とは-」
会期:2026年9月2日(水)〜9月14日(月)
時間:10:00〜19:30
会場:日本橋三越本店 本館1階 中央ホール
入場料:無料

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