【『初恋の悪魔』感想 最終話】悲しみを飛ばす風のように・ネタバレあり
テレビドラマ『カルテット』(TBS系)でも真紀の失踪した夫が脱ぎ散らした靴下が繰り返し描かれるが、坂元作品の中で脱ぎ散らした靴下は家庭のくつろぎや人の体温、気配を表象しているのかもしれない。
切ないし寂しく見えるけれども、それは互いを思いやりながらも、依存はしない『風通しのいい』関係の当然の帰結なのだと思う。
1人で淡々と暮らす日々の夜、鈴之介は最後に蛇の星砂と出会う。
「これが最後になるから会いに来ました」と語る蛇の星砂は、鈴之介の夢だったのか、それとも星砂は本当に来たのか。
解釈は見た人それぞれだと思うけれども、個人的には本当に星砂はやってきたのだと思いたい。自転車が倒れる音で振り向いて、そのまま小走りに駆けていく姿は蛇のほうの星砂に見えた。彼女は最後の時間でリサ(満島ひかり)に会い、そのあと本当の最後として鈴之介のところにやってきたのだと思いたい。
大型犬に吠えられること、共同生活の朝はトイレが混んで困ること。
日常の他愛もないこと、楽しいこと、愛しいことを語り合って言葉で残し、彼女は去った。
言葉にすることは、流れゆく膨大な感情を切り取って残すことだ。
死んだ兄に携帯越しに語りかけた悠日の言葉も、刑事の星砂が悠日に書いた手紙も、リサが刑事の星砂を通して蛇の星砂に語りかけた言葉も、誰しも別れ、何かを失う人生を生きていくための、小さな縁(よすが)