忘れ物をした部下を叱る上司 続く展開に「思わず笑った」
警察官として働いていた頃、筆者はさまざまなタイプの『相棒』とパトカーを走らせてきました。
几帳面な人、豪快な人、口数は少ないのに現場では誰より頼りになる人…。
性格も得意分野もバラバラですが、どの相棒との仕事にも忘れられない思い出があります。
今回は、その中でも特に印象に残っている『ちょっと抜けているが、たくさんの部下から愛される上司』の話を紹介します。
天然だが人望が厚い上司
その上司は、一言でいえば 「みんなに愛される天然の上司」でした。
現場経験が豊富で頼りがいがあるのに、時々周囲の人が「えっ?」と思うようなことをする…そんなギャップを持っていたのです。
以前、筆者が事案の処理中であることに気づかず、上司は1人でパトカーを走らせてパトロールに出てしまったことも…。
もちろん『わざと』ではなく、単純に筆者が乗っていないことに気づいていなかっただけです。
筆者が無線で呼び止めると「無線で呼ばれて気づいた」と、本人が一番驚いていました。
※写真はイメージ
そんな調子で少し抜けているのに、不思議と誰からも責められず、むしろ場を和ませてしまう人。
厳しい現場の空気を、一瞬でやわらかくするような『愛されキャラ』でした。
愛のある『説教』をする上司が…?
ある日、休憩時間が終わり、パトカーで上司と一緒にパトロールに出た時のことです。
出発してすぐ、筆者の無線機から電池切れの警告音が鳴り響き、「本当にすみません!戻ってもよろしいですか?」と打診しました。
すると、上司は厳しい口調でこのように説教します。
おいおい、休憩中に交換しておけよ。無線機は俺たちの命なんだよ。
緊急の事案で報告できなかったらどうする?守れるものも守れないだろう。
もっともな指摘を受けて、筆者は反省。上司は続けて「俺はほら、ちゃんと交換しているぞ」と自信満々に自分の無線機を手に取りました。
※写真はイメージ
しかし次の瞬間、上司の顔色が変わります。
電池を入れるための電池パックを、そもそもつけ忘れていたのです…。2人で顔を見合わせ、思わず大笑いして大急ぎで交番に戻りました。あれほど堂々と説教した本人が、一番大きなミスをしていたのです。
上司は「悪かった。
今後はお互い気をつけような」と苦笑しながら、再びパトカーを走らせました。
ミスを素直に受け入れ、カバーし合う大切さ
常に緊張感と隣り合わせである、警察官の仕事。現役時代、完璧さだけを求められると、心がすり減ってしまうことがあると実感しました。
この上司のように、どれだけ経験を積んでいても、ミスをすることはあります。
もちろん緊急性や重要性にもよるのですが、仲間同士でカバーし合い、時には笑いに変えて前へ進む力が必要なのだと改めて感じました。
そして、もう1つ伝えたいことがあります。それは、叱るべきところはしっかり叱りつつ、自分の失敗も素直に受け入れることの大切さ。
その『人間らしさ』こそが、彼が多くの部下から愛され続けた理由なのだと思います。
現場には緊張だけではなく、こうした温かい空気をつくる人の存在も必要です。
どんな仕事でも、支え合える相棒がいるだけで前を向ける…そんなことを教えてくれた上司でした。
[文・構成/りょうせい]