【考察】残酷な笑みを浮かべる聖子(松下奈緒) その狙いは『夫に間違いありません』第7話
SNSを中心に注目ドラマの感想を独自の視点でつづり人気を博している、イラストレーターの渡辺裕子(@satohi11)さん。
2026年1月スタートのテレビドラマ『夫に間違いありません』(フジテレビ系)の見どころを連載していきます。以下、ネタバレが含まれます。
渡辺裕子さんがこれまでに書いたコラムは、こちらから読めます。
紗春(桜井ユキ)に接触する天童記者(宮沢氷魚)を見た聖子(松下奈緒)は慌てて駆け寄るが、「夫は1年前に死んでいる」と言われた紗春は激昂し、天童を拒絶。
激しく怒る紗春の姿に驚いた聖子だったが、一樹(安田顕)の生存が天童から暴露されなかったことに安堵する。
しかしそれ以来、紗春の様子がどこかおかしい。訪ねてきた天童から聞かされた紗春についての言葉も気に掛かる。
そんな聖子に、逃亡中の一樹が電話をかけてくる。
一樹が思い出した、紗春との本当の出会いとは。そして警察に追われていることにおびえ、孤独にさいなまれた末に、一樹は…。
別の顔が続々と明らかに
『おととしのクリスマスイブ』に本当は何があったのかが一気に描かれた第7話。
戦慄のラストシーンに、思わず声をあげてしまった。
「葛原紗春には、まだあなたの知らない顔がある」
天童は聖子にそう言ったが、『知らない顔』を持っていたのは紗春だけではない。誰にでも『別の顔』があるのだ。
紗春の夫・幸雄(今里真)は、大きな会社に勤め、後輩に慕われている、優しい父親。
趣味はプロバスケットボールチームの応援。
一樹とは違い、家族や仕事を捨てて自ら失踪するような人には思えない。
しかし、そんな彼の顔の裏にもうひとつ、『別の顔』がのぞいている。
問題の『おととしのクリスマスイブ』に、酔って喧嘩したあとの一樹が出会った幸雄は、これまでのイメージとはまるで別人。
一樹のせいで服が汚れたと怒り、クリーニング代を請求すると言って財布と免許証をとりあげる姿、恐ろしかった。
どちらが本当なのだろうか…と思ったが、実はふたつとも彼の顔なのではないだろうか。
優しいパパの顔も暴力的な顔も本当で、それが切り替わるきっかけが、バスケの試合。「負けたら、今日一日地獄ですから」
「オオカミ男って、満月の日になるとオオカミに変身するっていうじゃないですか。
それと同じ感じです」
バスケのチームを応援しながら紗春が言った『オオカミ男』。
チームが負けそうな時の声の激しさや、天童にくってかかった時の姿を見て、オオカミに変身するのは紗春かと思っていた。
クリスマスのごちそうやツリーがめちゃくちゃになった部屋も、チームが負けたことで紗春が我を忘れてやったのだと思ったのだが、あのシーンだけはもしかして、『おととしのクリスマスイブ』ではなく、過去のクリスマスのできごとを、紗春が回想しているのでは。
つまり部屋を破壊するほど暴力的な『オオカミ男』は、幸雄。
「チームが負けた。幸雄が帰ってきてオオカミに変身して、またいつかのイブのように、家で暴れる。地獄が待っている、これからも、何度も」と思った紗春が決意して車で幸雄を迎えに行き、川から落として殺害したのが、おととしのクリスマスイブ。
そう考えると、これまでの推理がいくつもひっくり返る。
紗春が幸雄を殺したのは予想通りなのだが、保険金のために、幸雄の連れ子である希美(磯村アメリ)を養育しているのだと思っていた。
しかし受取人は紗春なので、その理由はあてはまらない。
そして、希美の健康診断を避ける理由は虐待のあとを見られるのを恐れていたからだと予想し、その虐待を紗春からだと思っていたが、実は幸雄からだったのでは。
光聖(中村海人)や聖子が、家族のためになんでもすると決意しているように、紗春も『家族=希美』と自分を守るために、殺人までしたのではないか。
溺死体が一樹の免許証などを持っていなければ取り違えられず、幸雄ではないかと紗春に連絡が行き、保険金ももらえただろう。
しかし幸雄の攻撃的な行動の結果が、殺した後も紗春たちを苦しめることになっている。執念深いオオカミだ。
『別の顔』が見えたのは幸雄や紗春だけではなく、聖子も同じ。
これまでは聖子のことを、クズ夫を切り捨てられないし、人懐っこい紗春もはねのけられない、ひたすら巻き込まれるだけの、優しいけれど弱い人だと思っていた。しかし前回あたりから、息子と娘を守るためなら一樹を突き放せるような、強さを見せるようになってきた。
弟の光聖が、自分の家族を守るためにとった行動を見て、覚悟を決めたのだろうか。
とはいってもこれまでの聖子には戦うすべが何もなく、怯えながら防御の姿勢でいるしかなかった。
だがここで一樹からの証言で、幸雄が失踪する直前に紗春が一緒に車に乗っていた、つまり紗春が幸雄を殺したのだという事実をつかむ。
これは、彼女の強い武器となる。
警察署で聖子が紗春を見つめる目から、今までの怯えも優しさも消えた。
大きく真っ黒な瞳には何の感情も映し出されない。
そしてこう言う。
「大丈夫。紗春さんのしたことは、絶対誰にも言わないから」
これから食べる獲物に笑いかけるかのような残酷な笑み。
あれには背筋が凍った。手に入れた最大の武器・紗春の秘密を、聖子はどんなふうに使うつもりなのか。
そして絶望している一樹は、踏切でどうなったのか。まさか、飛び込んだか…。
しかしもし彼が死んだら、その遺体を見て今度は紗春が「夫に間違いありません」と言ったらちょうどいいのでは…とつい思ってしまった。
申し訳ない一樹。
[文/渡辺裕子構成/grape編集部]